AR開発は「現地に出向くエンジニアリング」? 国産ARクラウド ”Pretia” 初の活用事例、AR謎解き「ある珈琲店からの挑戦状」誕生秘話
★AR謎解き「ある珈琲店からの挑戦状」は、本日1/26(水)から公開です!ぜひ遊びに来てください。詳細はこちら。
株式会社小学館と提携し、街をメディア化し地域活性化を目指す「ARタウン」の構想を発表した2021年。第1弾として、神保町を舞台にしたAR謎解きゲーム「ある珈琲店からの挑戦状」が先日公開されました。
ARクラウド "Pretia" をベースにした初めてのAR体験を実現するにあたり、制作進行を勤めたPretiaのLead Game Designer、鈴木太樹さんに完成秘話をインタビューしてきました。AR開発ならではの難しさ、面白さがぎゅっと詰まったインタビュー、必読です!
※「ある珈琲店からの挑戦状」の詳細はこちらから。ぜひ遊びに来てください!
Pretia Technologies Inc. Lead Game Designer 鈴木太樹(Taiju Suzuki)
新卒で任天堂株式会社に就職し、サウンドエンジニアを10年、プランナーを9年務める。株式会社カヤックに転職し、VR事業開発の経験を積む。2019年Lead Game Designerとしてプレティア・テクノロジーズ株式会社に入社。
変わり続ける街、神保町。AR開発側として想像しない大変さがあった。
ーARタウン第1弾のリリース、おつかれさまでした!鈴木さんの、Pretiaでの役割を教えていただけますか?
Lead Game Designerとして働いています。ARタウンにおいては、ゲームデザイン、制作進行、プロジェクトマネジメントなどに従事していました。プロダクトマネージャーではないのですが、わりとなんでもやっていましたね。
ー「ある珈琲店からの挑戦状」はどんなゲームになりましたか?
「さわって味わう体験ができるゲーム」です。AR技術を使って現実世界に架空のもの、仮想のものが出てくるような表現に対して、それをさわって味わう、さわって感じる。今までにない不思議な体験ができるようなゲームになりました。一歩先の新しいAR技術を使ったワクワクするゲームを作ることができて嬉しいです。制作にあたってチームは最大で7名くらいいて、関わっているメンバーも含めると10名規模。スタートアップであるPretiaの中でも大きなプロジェクトとなりました。
ー制作を終えて、今どんな気持ちですか?
もう一言です。リアル世界の環境変化に振り回され続けてようやくリリースできたなぁ、と(笑)。
今回はプロジェクトの中でも、自社開発プラットフォームであるARクラウド「Pretia」を利用したのですが、これは空間の様子をデータ化する必要があります。なので、環境が変わってしまうと、取り込んだ空間として認識してくれなくなってしまうんです。しばらくその繰り返しで、取り込んだ場所が新しくなるとデータを取り直す必要があって、めちゃめちゃに暑い神保町を何度も歩く必要があったりして…。こんなに神保町が変わり続け、それによって開発が振り回されるとは思わなかったですね。
ーそれをどう乗り越えたのでしょうか?
「空間認識ができなかったとしても遊べるようにしよう」と方向転換しました。認識できないこともあると認めてゲーム制作を進行することが、神保町の変わり続ける良さを活かせると思ったんですね。
環境変化への対応に追われ続けていて本当に大変でしたが、言い換えれば新しいことに取り組んでいるということですよね。誰も踏み入れたことがないようなことをやっているから、予期しないことが起こるということだと思います。
この開発を通してひとつ気づいたのは、環境変化に対して開発者側がキャッチアップし続けるには限界があるということです。ではどうすればいいかというと、ARタウンの例でいうと、「街が変わっている」とユーザーからレポートをもらえる仕掛けを作る必要がある。
たとえばGoogleマップは、ユーザーからお店の情報などが変わっていることを報告する機能があるんです。そんなふうに、必要があればゲームの一部として、「楽しい体験」として開発者とユーザーがインタラクティブにやりとりできる仕組みが必要だなと学びました。
「その場でしか起こらないこと」を作るのがARの魅力。
ー神保町を舞台にしたのはなぜでしょうか?
まずひとつは小学館さんの本社があったからです。個人的には通っているうちにだんだん好きになっていった街なんです。
僕は関西の人間なので、神保町のイメージは「出版社とカレーの多い街」と聞いたことがあったくらい。通っているうちに、大きい通りを一本外れると個性の強いお店がたくさんあったり、裏路地を歩けばいろんなものが見つかって。だんだん道も覚えるようになって、本当に歩いていて楽しかったですね。
一時期、開発がうまくいかないこともあって、もう行くの嫌だなぁと思うこともありましたけど…(笑)。
ーARゲームの企画だからこその大変なことや面白みはどこにあるのでしょうか。
すべてが現実とリンクしているために、制作側はその場に行かないとテストもできない。その場でしか起こらないことが魅力でもあり、大変なポイントでもありますね。
普通のゲーム制作はPCの前にいたら完結しますが、企画するにも一度街を見てみないとわからないですし、テストも現地に行かなければならない。はじめは億劫に思わないこともなかったですが、ルーティンができると、神保町に行って、カフェから始まる一日がなんか楽しくなってくるんですよね。コロナ禍で、一見ご時世と逆行しているように見えなくもないと思いますが、そこがARの魅力だとも言えますし、実際の場所に人を呼び込む仕掛けを作るサービスになりえるだろうなと強く感じます。
少しだけ「ある珈琲店からの挑戦状」のネタバレになるかもしれませんが、ARを使えば、神保町に存在するアーティストが描いた壁画が実体化して動き出すみたいなことが可能になるんです。そういうことって、実際に神保町のその場所にある壁画からしか生まれないですよね。
現実世界を3Dにしていくことに無限の面白さを感じますし、それが実体化したときの感動やワクワクさは面白いなと感じます。現実世界を面白くできるポイントは無限にありますね!
ー制作にあたって、どう企画し、エンジニアや3Dアーティストとはどのように仕事を進めるのでしょうか?
ARクラウドは、環境が変わることに弱みを持ちます。なので変わりにくい場所を選ぶ気遣いが必要になるため、ARクラウド側のエンジニアとはその点を密に詰めていく必要がありました。
ARで体験をしてもらう場所が確定したらゲーム企画が走ります。ゲーム企画に関しては、例えば先程の壁画をただ3Dにするのではなくて、その上でどんな遊びをさせるかを、スマホ独特のアクションや、”360度回り込める”というARの特徴を使いながら、こういうことをしてもらったらおもしろいだろうなということをチームで考えるという感じですね。
要件定義自体は通常のビデオゲームとそこまで変わらないです。ただ、技術的に検証が必要な要件が多かったので、検証のためのタスクが多かったですね。普通のゲームだと「これはできるね」という肌感があるのですが、ARゲームの開発は、ARクラウド側の技術とAR技術そのものを加味して、両面から実現可能性を検証する必要がありました。だからこそエンジニアと3Dアーティストとかなり細かくコミュニケーションする必要がありましたね。
ー「ある珈琲店からの挑戦状」で特に思い入れのあるミッションはありますか?
これはね、「問題児ほどかわいい」というやつで(笑)、未だに改装工事している店舗があって…そこですね。もともと変わった装飾をしている店舗だったので、ここにバスが来たら面白そうだなと思って制作を進めていました。
しかし、開発しているうちにお店のリニューアル工事が始まって、全然変わっちゃったんです。ARの技術的な制約やスケジュールの問題もあって、場所を変えることが難しく、AR表現をかなり練り直しました。実際にプレイしてみて、最終的にどうなったかを確認してみてください。僕が頭を悩ませたところだなって思ってもらえたら、またひとつストーリーになりますね。
▲「ある珈琲店からの挑戦状」イメージムービー
「みんながクリエイター」。だれでもやれる仕事ではなく、自分だからできる仕事をしてほしい。
ーゲーム内ではオリジナルのキャラクターや3Dオブジェクトが登場します。
そうですね、すべてPretiaのオリジナルです。アメリカ人の3Dデザイナーが作ってくれました。
進行する立場として、「こういう場所に、こういう感じでオブジェクト作って欲しい」くらいしか言わなくて、具体的なものは3Dデザイナーのクリエイティブ性にまかせていました。そもそも、言われた通りのものを作るっていうのは楽しくないですよね。せっかく好きなものを作れるから、自分の想像やクリエイティブを発揮する場所として楽しんでもらいたいなと思って。最終的にはほぼデザイナーが提案してくれた通りになっていますね。
3Dデザイナーやエンジニアとのコミュニケーションにあたっては、なるべく「タスクにしない」ということを意識していました。「こういうことをやりたいから、あとは考えてほしい」とクリエイティブな部分を残すような依頼の仕方にしていました。そうしないと一緒に作っている感がなくなってしまいますし、誰でもいいってことになりますよね。そんなの全然楽しくないなって。これは僕の思想で、前職の任天堂の思想である「全員がクリエイター」というマインドで一緒に仕事をしていましたね。
ーAR体験を作るという観点からの面白さはどこにありますか?
テレビゲーム、スマホゲームよりも距離感が近いというところでしょうか。実際に自分が現実に見えるものをさわっている、動かしているような感覚がARならではだなと思います。
たとえばビデオゲームだったらコントローラーを介してゲームカメラを操作し、3Dオブジェクトの裏側に回り込みますよね。一方でARゲームでは、自分が実際に歩いて、目の前にあるオブジェクトの裏側に行かなければいけないという感覚です。不思議な感覚ですが、実はそれは現実世界での動き方と同じです。この現実世界での動き方を作れるのがARゲームの醍醐味であると思います。
…でもユーザーさんって、なかなかやってくれないんですよ!既存のゲームに慣れているから、自分は立ち止まったまま、スマホだけを動かしたりするんですけど…逆なんです。スマホは固定をしたまま、自分が動く。「ある珈琲店の挑戦状」に来てくれた際は、そうやって楽しんでもらえたらと思います!
ー今後ARクラウドをつかって作ってみたい体験はありますか?
ネタバレになっちゃうじゃないですか(笑)!
まずARゲームという文脈では、マルチプレイはやってみたいです。2〜3人が同じ空間で同時にさわる体験は面白そうです。たとえばAさんがARを介して見えるボタンを押している間に、Bさんは少し遠くのもう一つのボタンを押す必要がある、そうしたらミッションが進んでいく…とか。今後そういうのもやってみたいなと思います。
また、空間をデータ化するための3Dスキャンアプリが存在するのですが、これを最初に使ったとき、僕はとても衝撃を受けたんですね。自分の部屋をスキャンして、何か適当にオブジェクトを配置した後にそれを空間データとしてクラウドに保存し、改めてアプリから覗くと、目の前に自分が作ったAR空間が再現されるんです。
この感覚は面白いなと思って。たとえばAR空間でペットを飼うことができる。隅に小屋を置いて、そのなかにいたりいなかったりする、とか。そうやって家の中でAR体験を味わったら、次は家だけではなく外にも広げてもらって、さらにARクラウドを介して自分が知らない場所ともつながることができたりしたら可能性が広がるだろうなと思っていたりします。
ARクラウドをつかってどんな世界を作れるか…構想がふくらみますね!
ーありがとうございました!
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