一つの終焉に 赤い花束を



「この新加入選手、いちいち面白いプレーをするなぁ…」



今でもハッキリと覚えている。
2015年のJ1リーグ1stステージ第2節・浦和vs山形の一戦における、
何ともない些細なプレーを見た瞬間に私がその選手に抱いた印象である。

その選手には、前節のvs湘南でも同様の感想を抱いた場面もあったが、
その感想が確信に変わるほど、私の琴線に触れるプレーを見せた。

「今年はこの選手に注目してみよう。」


阿部勇樹選手の豪快なゴラッソで浦和が勝利をおさめた翌日、
私はその時点でゴールもアシストも、大きな注目すら浴びていない選手の背番号入りユニフォームをオンラインショップで注文していた。

その約1ヶ月後、注文したユニフォームが届いた直後に迎えた一戦で、私は早速そのユニフォームを着用して埼スタに赴いた。

ちなみにその選手は、お世辞にも2015年に加入した選手の中でも大して注目されるような存在ではなかったと記憶している。

実際に、その試合でも私が見た限りでは同じ番号がプリントされたユニフォームを着用した観客は僅か2名しか見かけなかった。
(実際にはもう少しいたかもしれないが…)

その試合で、私が推すと決意した選手は見事に浦和レッズへの加入後初となるゴールを決めてくれた。

形としては泥臭いゴールだったが、相手の先制を許したチームに逆転勝利へ向けた勢いをもたらすには十分なゴールだった。


試合後の挨拶で観客席から大量に掲げられるユニフォームの中から、
数少ない(と思われる)自分の背番号を発見したその選手は、私を指さしてから満面の笑みと共に力強いガッツポーズで応えてくれた。

その選手の対応はとても嬉しかったし、今日のヒーローである選手のユニフォームを着用して埼スタのコンコースから帰路につく道中の誇らしい気分は今でも鮮明に覚えている。


以降も、その選手は出場試合数と共に得点数も重ねていった。

不思議なことに、その選手のゴールはチームとサポーターに前向きな勢いと勇気をもたらし、
後に「不敗神話」と称されるほどのスピリチュアルな効果を及ぼすほどに活躍を続けていった。
(※2021年7月現在も不敗神話は継続中。)

シーズン開幕当初は大きな注目を浴びなかった選手は、
いつしかチームに欠かせない戦力として大化けを果たした。

誰しもが予想しなかった大活躍ぶりは、おこがましいながらも「私の眼に狂いはなかった」と思わされるほどだった。




突然だが、ここで少しばかり私の生い立ちを語らせていただく。

幼少から青年期に至るまでサッカー小僧として育った私は、主にFWを主戦場としてプレーをしてきた。

とはいえ、類い稀なテクニックや空中戦での強さなどのピッチ上での武器を有していなかった私は、
自己分析の末に「味方が繋いだボールを確実に決める選手」を目指すべく、
相手ゴール前における駆け引きの勝負に活路を見出だす、
いわば「ワンタッチゴーラー」としての動きを重点的に磨いた。

結局、プレイヤーとして大成しなかったものの、私なりの「FW観」を養えたという意味ではとても意義のあった期間であったと思う。


そんなFW観を携えて、成年期以降の私は「観る側」としてのサッカーにどっぷりと没頭していった。

試合を観る時も、まずはFW視点で考える癖がつくほどであった。

「あのタイミングでボールを受けられたら…」
「このタイミングでスペースに走りこめたら…」

などのFWの気持ちでプレーを読む、みたいな観点で試合を見ているうちに、
その「○○だったら」とほぼ同じタイミングで私が注目した選手はそのプレーを高確率で体現していた。



これが、冒頭で述べた「面白いプレー」たる所以である。



私の人生において、愛するチームの中で憧れる・尊敬する選手は数多くいたが、
プロ選手を相手に大変おこがましい表現をすると「私とサッカー観が近い」と感じる選手の存在は四半世紀生きてきた中で初めての事だった。

プレイヤーとして大成しなかった私だが、私のサッカー観を体現していると感じさせられる選手の活躍は、
自身のサッカー観に間違いはなかったという気持ちにさせられ、嬉しさと誇らしさからその選手を応援しようと思った。

(※余談だが、スカパー!が放映した浦和の選手ドキュメント番組「THE WAY」内にて、
ご両親が小学生時代のエピソードとして語った試合時のプレーと全く同じ事を、
私も同年代の時期に取り組んでいたことから余計に他人とは思えなくなった。)



そんな活躍が認められ、その選手が自身初となるA代表に選出された上に、
代表デビュー戦の開始2分半でいきなり初得点を決めるという離れ業をやってのけた。

テレビの前で試合を見る私が「そのスペースに走れ!」と思った瞬間に走り込んで、
これ以上ない抜群なタイミングでワンタッチゴールを決めた瞬間は、本当に自分の事のように嬉しい気持ちでいっぱいだった。


そんな飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍を続けるその選手は、
加入2年目にして浦和の象徴的背番号を背負う事になる。

当時の浦和を率いるミシャ監督のもと、適材適所の役割で水を得た魚のように更なる快進撃を続ける姿には、
遂に親近感から尊敬の粋に達するほどになった。

浦和の象徴となる背番号を背負い、得点力のみならず
チームの為に献身的なプレーを続ける姿勢は、ついに
全浦和人の心を鷲掴みしたといっても過言ではなかった。



しかし、年を重ねて「浦和の為に」とプレーするうちに、徐々に徐々にと得点数が減少していった。

高い献身性とサッカーIQの高さから、本職のFW以外にもOMFやSH、時にはボランチを任される試合もあった。

それでも彼は、歴代指揮官の如何なる起用にも応えてきた。

応えれば応えるほどゴールから遠ざかるが、彼は浦和の為に尽くした。

ゴールから遠ざかっても、その選手の活躍が浦和の勝利に貢献しているのは誰しもが認めるからこそ、
得点数の減少を非難する声はビックリするほど少なかった。


周囲からの評価は高いが、自身の理想からは遠ざかる。

大変おこがましいが(←3回目)、サッカー観が近いからこそ理想と現実の狭間で葛藤しているだろうなというのが、
プレーをする選手の姿からヒシヒシと伝わってきた。


特に、2021年J1リーグ第7節vs鹿島において、リカルド監督や各メディアから絶賛された
"Falso9"(偽9番)システムも、試合に出場するためとはいえ、かなりの葛藤があっただろうなというのが窺える。

あの試合だって、彼の貢献なくして勝利はあり得なかったのは100人中100人が認めるところだろう。

だけど、多くの浦和サポーターは彼がゴールを決めて、チームに不思議な力をもたらす効果にも期待していたはずだ。

彼のゴールで、おなじみのポーズをして喜びを分かち合いたい。

握り拳を掲げながら、彼のチャントを高らかに歌って
後押しをしたい。


彼のゴールと俺たちの応援で、埼スタを最高の雰囲気にしてやりたい。

2018年J1リーグ第30節vs鹿島みたいに、ドーパミンが大量に分泌されるほどシビれる瞬間を再び味わいたい。

貴方のゴールを祝して、多くの仲間たちと寿司を食べて喜びを分かち合いたい。




――だけど、どれも浦和で叶える事はおそらく無いだろう。――



近年の状況を鑑みれば、選手として今回の決断に至ったのは悲しいけど痛いほど理解できる。

今後も「浦和の9番」としての姿を見たかったけど、貴方に心の底から愛着を感じてしまったからこそ、
心置きなくゴール前での勝負にこだわる貴方のプレーを再び見てみたいという気持ちもある。

私の中では簡単に割り切れないけど、プロサッカー選手として今回の決断が間違いではなかった事をピッチ上で証明してほしい。

私のサッカー観の理想形として、J1や日本代表の舞台で活躍した選手だからこそ、
ピッチ上でさらに躍動する姿をもっと見ていたい。

貴方の献身性と多様性を買って、様々なポジションで出番を与えてきた浦和の歴代指揮官たちに対して

「どうだ!見たか!これが俺だ!!」

と見返すような活躍ぶりに期待したい。



ありがとう、武藤雄樹選手。

6年半にわたる浦和レッズへの数々の貢献に、心の底から感謝を申し上げます。

貴方はいつまでも「浦和の誇り」です。

そんな浦和の誇りと共に、今後のサッカー人生が豊かなものになることを、サポーターの一人として祈っております。


本当に、本当にありがとうございました…!