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浦小雪(Sundae May Club)という発見


浦小雪を初めて知ったのは2023年の初めのこと。
今回はバンドとしての浦小雪ではなく、ソロアーティストとしての浦小雪の曲と魅力について少し語ってみたいと思う。勿論以下の文章は独断と偏見のみで構築している。

初めて聴いてから2年近く経とうとしているが、彼女の音楽には未だに強い印象を抱いている。「Innocent Voice」という表現がこれほど適切に感じられるアーティストは少ない。
また、彼女の楽曲で頻繁に使われる「a~a~ah~」というスキャットは、駄々をこねる子どもの泣き声に似ている。しかし、このスキャットは単なる幼い感情表現ではなく、過去や未来という決して届かない先、山や海、空といった自然の絶対的超えて届きそうもない存在に向けて放たれた叫びである。しかし、逆説的にその声はオーディエンスの心には深く響き、届いてしまう。この二重性こそ、浦小雪の音楽が多くの人々に響く理由のひとつと言える。


2023年8月にリリースされた「ロングロングハイウェイ」は、彼女の特徴的な声と感情表現が存分に発揮された作品である。
ちなみにこの曲のYouTubeコメント欄には、GUの店舗スタッフたちが自発的に集まり、この曲に対する熱い思いを語り合う場が生まれている。

MVの導入部では、彼女の出身地である長崎の高速道路を示すカーナビ音声が使われており、その音声とともに、夜の高速道路を走る喜びが視覚的に蘇る演出がなされている。さらにMV中、野外でギターを弾きながら跳ねる彼女のシルエットが印象的で、個人的にはHOLEの「Doll Parts」でギターをかき鳴らすコートニー・ラブを思い出させたが、それ以上にスタイリッシュな演出がなされている。このシルエットに感銘を受け、私はそれをウォーホル風に分割してTシャツにプリントすることを思い立った(ご本人の許可取得済)。この楽曲を聴いて「若い頃を思い出す」と語る人が多いのも納得がいく。私自身、車でこの曲を聴いていると、走馬灯のように記憶が蘇り、まるで軽い臨死体験をしているかのような感覚を覚える。



2024年6月にリリースされた「フリック入力オールデリート」は、若く青く甘い青春純愛ソングである。
まず現代のスマホ世代を象徴するタイトルが目を引くが、この曲のタイトルのように時代を映し出すワードが歌詞に登場することには昔から議論があった。しかし私はそれを好意的に捉えている。たとえば昔で言えば、国武万里の『ポケベルが鳴らなくて』が当時の時代背景を反映していたように、音楽はその時代の空気を映し出すものだと思うからだ。最近では、名古屋発のインディーズバンド「メとメ」が歌う『過去たらし』という曲に、SNSアプリ「Be Real」が登場する。このアプリ自体は使ったことがないが、「すぐに消したBe Realがリアル」という歌詞には、現代の若い世代が共感できるのではないかと感じる。

また、現代的な感性の歌詞に散りばめられたフレーズの中には、普遍的な愛のテーマが流れている。

たとえば
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
すべてを君にあげたいな 私はきっと空っぽだから
あげられるものなんかないって 恥ずかしくなったりするけど 
君が信じられる愛はここ! このからだあたまこころよ
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
まさにこのフレーズ。
現代的なSNSの軽快さを背景にしながらも、全力で愛を捧げるという古典的なテーマ。
ツェッペリンの「Whole Lotta Love」

マディ・ウォーターズの「You Need Love」
にも通じる激しい愛の告白であり、性別や時代の壁を越えて全力で愛を伝えるメッセージを持つ。また、他にはマライア・キャリーの「My All」を彷彿とさせるような、自己犠牲的な愛(同化という意味で)の表現も含んでいる。


浦小雪の音楽の最大の特徴のひとつは、その「軽さ」だと言える。彼女はカネコアヤノのように深い哲学的な世界観や、重厚な音楽を作り上げるアプローチを取っていない。
むしろ、感情の表層を巧みに描き、その瞬間的な感覚や感情を、日常生活の中でふっと感じるような軽やかさで表現している。日々の生活の中で、重い感情や思索に囚われる瞬間ももちろんあるが、それは日常の全体を占めているわけではない。むしろ、軽やかな感情が我々の生活の大部分を占めている。そのため、浦小雪の音楽は生活にすっと入り込み、共感を引き出す力を持っている。

さらに、彼女の曲作りには「足さない」というアプローチがあることも注目すべきだ。多くの作詞作曲家が、楽曲に新たな要素を足して複雑にしていく中で、浦小雪はむしろシンプルさを追求している。一つのフレーズが生まれたそのままの形を大切にし、余計な装飾を加えないことで、彼女の楽曲は自然な流れを持ち、聞き手にとっても心地よく感じられる。こうしたシンプルさが、彼女の音楽の「軽さ」と「深み」の両方を生み出しているのだ。

浦小雪の音楽は、時代や文化を越えて、普遍的なテーマと感情をシンプルかつ洗練された形で表現している。その一方で、彼女の音楽はどこか個人的で親密な空気感を持ち、聴き手に深い共感を呼び起こすのだろう。

などと。。。。

はっきり言おう。くどくどと、あちこち持ってまわった書き方をしたが、実はこの駄文、ただの紹介文で浦小雪を聴いてほしいだけなのである(太宰治/桜桃風に)

とにかく彼女の歌が声がもっと遠くまで届きますように。


2024年9月27日 
石破茂が自民党新総裁になった日に暗い気持ちで書きました。

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