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ヤマト運輸の成功とビジネスモデル【古典ケーススタディ】

過去の新規事業の成功事例を学ぶことで、新しいビジネスアイデアがひらめくことがあります。今回は、古典ケーススタディシリーズの第一弾として、ヤマト運輸を取り上げてみましょう。

ヤマト運輸は、日本を代表する超優良企業。まさに、日本の物流を飛躍的に発展させてきた優等生企業の代名詞です。

宅急便のサービス開始以降、時代のニーズにあわせて事業領域を拡大させ、いまやインターネットが発展したことによる爆発的な少量多品種の物流ニーズを縁の下で支えている会社でもありますが、そんなヤマト運輸にも厳しい時代や挑戦の歴史がありました。

そもそもヤマト運輸は、戦前戦中には関東での近距離運輸事業で市場シェアトップでしたが、戦後の市場拡大時に事業選択をあやまって大きく低迷し、このままでは撤退・会社清算に追い込まれるような状況の中から、立ち上がった会社なのです。

いまとなっては、既存の事業領域(ドメイン)から脱皮して新規事業を成功させた代表例ですが、実は社長が自らリーダーとなり、信念をもって、企画して、実行したという新規事業の成功モデルとしても理想的な事例といえるものです。

それでは、さっそくヤマト運輸の成功の秘訣とビジネス・モデルを分析してみましょう。

背景

当時、ヤマト運輸は先代社長の近距離輸送でシェアを独占してきた成功体験から、戦後の混乱期に拡大した長距離輸送ニーズへの対応におおきく出遅れていました。

同業他社はというと、ニーズの変化にすばやく反応したことだけではなく、地方に本社を持っていたため人件費の圧縮が可能だったことから高い利益率を出している一方、ヤマト運輸は東京に本社があるため人件費も高く、利益が出にくい体質になっていたのです。

それでも、残された市場でなんとか生き残る道を探してみましたが、利益率の悪い商売しか残されておらず、これから運輸業界での生き残るために十分なパイはほとんど残されていませんでした。

現状認識と発想の転換

そんな中、いままでの市場(近距離運輸市場)では活路が見出せないと判断し、社長自ら新たな市場を開拓して、そこにリソースを集中することを決断します。

つまり、これまでの法人をターゲットにしていた市場(法人-法人間や、鉄道-法人間の物流)ではなく、一般家庭の配送サービスに着目したのです。しかし、当時、業界では小口郵送は手間だけかかって利益がでないというのが常識でしたし、郵便局が独占している市場ではうまみがないと思われていました。

当時の郵便局のサービスでは、遠方に荷物を届けたい場合は、お客さまがみずから郵便局の指定どおりに荷造りして荷物を郵便局までもっていく必要があったり、重量に制限があっったりして料金もとってもわかりにくいものでした。

そこでヤマト運輸は、電話さえしてもらえれば荷物を取りにいったり、近所のお店に荷物の受付窓口をしてもらったり、料金体制をわかりやすくしたりして、小口郵送のニーズにこたえて郵便局の独占市場に参入することにしたのです。

その結果、宅配便市場は飛躍的に成長しました。

そんな成功を横目にしていた同業他社もおくればせながら市場参入してきましたが、小口郵送は非常識だときめこんでいたことから参入が大きく出遅れたり、二番煎じをあやかろうとしたためサービス品質を維持できず、結局ほとんどの競合が撤退していったのです。本質的なビジネスモデルの発想と思想までは、マネすることができなかったのです。

その後、ヤマト運輸は、消費者の生活スタイルの変化に合わせて柔軟にニーズに対応してゆき、市場を大きくしながら独壇場を築くことに成功したのです。

解決策としくみ

それでは、具体的なしくみやビジネスモデルはどういったものだったのでしょうか?

一般家庭を対象としたサービスの開発

上で述べたとおり、郵便局のサービスではお客さまの手間がかかりすぎている不満を、ヤマトが負担することで消費者のニーズにこたえたことが大きなポイントでしょう。

同業他社は、ただでさえ利益がでない小口郵送に、さらに手間をかけようとする宅急便を見て、マネしようという気持ちはおきなかったはずです。

運輸サービスの商品化

郵便局の郵便小包をのぞいて、基本的に運輸サービスは法人向けサービスでした。

そのため、これまでの価格設定のやりかたや常識では、一般家庭にはわかりにくく粗利もでにくいものでした。

それを、料金設定を見直すことで、お客さまにわかりやすくなっただけでなく、粗利も生み出すことができるようになったのは大きな発見でした。

このようにして、運輸サービスそのものを一般家庭向けに商品化することができたのです。

ハブ・アンド・スポーク式の一連の配送システムの開発

ヤマト運輸の成功を語る上で、アメリカのFedExや航空会社のビジネスモデルを参考にしたハブ・アンド・スポーク方式の導入は見逃すことはできません。

自分の業界の常識だけにとらわれないで、他業界の成功例を参考にすることができたことが、ヤマト運輸の成功に隠されたカギでした。

この配送システムによって集配コストと移動コストの効率化がすすみ超高利益企業へとすすんでいくことになります。

市場ニーズへの柔軟な対応

一般家庭の物流ニーズは、経済発展にともなって高くなっていきました。

ヤマト運輸もそのようなニーズの変化にあわせて、宅急便からはじめてスキー宅急便、ゴルフ宅急便、クール宅急便などを展開し、知名度の向上とともに生活になくてはならない存在に発展していったのです。

決め手

ヤマト運輸が成功した理由には、荷物を郵便局まで持っていかなければならない不満を解消したことや、ハブ・アンド・スポークなどいくつかありますが、本質的な決め手は何でしょうか?

私は、ヤマト運輸の成功の秘訣と決め手は、ずばり「業界の常識」だったと思っています。

ヤマト運輸の努力や先見性ももちろん重要な要素ではありますが、業界全体が小口郵送は絶対儲からないという妄信にとらわれていたからこそ、かんたんにヤマト運輸に追従することができなかったのだと思うのです。

いざ、うまみに気づいてマネしたときにはすでに手遅れでした。

その間にヤマト運輸は、ハブ・アンド・スポークなどのビジネスモデルを整備して独走状態をきずく準備を整えてしまったからです。

発想や思想そのものが違っていたから、表面上のマネはできても本質的なしくみまでは、マネすることができなかったのですね。

このように、同業他社からかんたんにマネできない仕組みを作ることが決め手になることは、実はシェア逆転の事例ではけっこう多いものです。

まとめ

ヤマト運輸の成功例は、「新規市場創造」と「業態変革」の代表例ですが、それだけで片付けることはできません。

郵便局の独占市場に参入したという意味では、「異業種参入」ともいえますし、積極投資による競合の「同質化回避」の例ともいえます。

このように、いろいろなケースにつかえる事例なのですが、いちばん抑えておかないといけないことは、社長みずから業界の常識に立ち向かい、だれもやらないことを先にやったことで先行者利益を獲得できた、新規事業開発の成功モデルだということです。

消費者と直接コミュニケーションを取れるビジネスモデルを開発したことで、鉄道や百貨店などの法人に依存することなく独自のサービスを展開することが可能になりましたし、結果として同業他社による参入障壁をうまく利用できたことだけではなく、その後に市場拡大をみこした積極投資でも新規参入の障壁をさらに高めることができました。

利益を守る理想的な戦略ですが、それを社長自ら率先して調査、企画、実行したということに成功の本当の理由が隠されているようです。

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