新地球党党首・松本美沙子の演説@きさらぎホール2023-10-09(録音からの抜粋)

(パラパラとした拍手。どよめき。遠くからのヤジの声)
 聞きたまえ、汝ら偽善者よ、身の程をわきまえぬエセ環境主義者よ――。
(一部からの歓声と拍手。咳払いが二度)
 静粛に。
(小さく咳払い)
 あなたたちは口先では「地球のため」という言葉を振りかざしていますが、実際には人間を含めた既存の生態系を維持することしか考えていません。それならば「地球のため」などとは言わずに「人類のため」、あるいは「現存する生物のため」とでも言ったらどうでしょう。そこに正義がないとはわたしは言いません――それが明らかに人間の我儘でしかないのが明白であるにしても。
 特定の生き物を乱獲し、その種を絶滅に至らしめる。森林を伐採し生態系を破壊する。石油を大量に消費して大気汚染を引き起こす。そういった行為が人間の我儘なのだとあなたたちが言うとき、そこからは次の視点が欠けています――人間もまた地球の一部であり、あなたがたの言うところの大自然に含まれる存在であるということが。
 人と自然は不可分であり、人はそこから抜け出すことはできません。人間に可能であるすべてのこと――例えば石油からプラスチックを作ったり、原子力を利用したり――は、したがって大自然の営みの一部でしかない。それら人間の行いは、地球(あるいは大自然)の意思として、可能にされているのです。自然がその能力を人間に与えたのです。人の努力の賜物だと言うのですか? そんなものはごくわずかな寄与でしかありません。すべては自然が、この地球環境がお膳立てしたものなのです。よく考えてください。人間だけが自然とは別個に独立して存在しているものであると捉えるのは人間の驕り以外の何者でもありません。確かに人間は現生態系の最上位に位置する種であり、この地球上での繁栄を最も謳歌している存在ではあるかもしれませんが、少なくともその最後の存在ではない。それは地球上の生物の歴史をみれば自ずとわかることです。
 あなたがたはご自身の主張を本当に地球のためのものであると考えているのですか? 違うでしょう。人間が生態系の王座に君臨するという現状をひたすら維持せんがために、あなたたちは「地球を守ろう」と主張しているのです。それが人間の我儘であり、驕りであることは明白です。
 べつにわたしはあなたがたの我儘を非難しているのではありません。それが自分らの利益を目的としたものにすぎないにもかかわらずいかにも「生きとし生けるもののため」のような言葉を振りかざしているところに漂う偽善臭に鼻白むことはあるにしても、あなたたちの主張に正当性があることは認めます。わたしも人間の一員ですから、人間の立場というものは理解できます。
 わたしが言いたいのは、ただひとつ。あなたがたのよく言うところの「地球のため」という言葉は、もう使わないでほしい。その一点に尽きます。なぜならば地球の思惑はあなたがたの主張するようなものとは別のところにあるからです。
 地球は現状維持など望んでいません。
 永遠の停滞などではなく無限の変化こそがこの星の意思であり命なのです。
 ここ数年における気候の急激な変化、そこに人間の行いへの地球からの懲罰的なメッセージを読み取るのはあなたがたの勝手ですが、これは人間への罰などではなく、そこにこそ変化を志向するという地球の確固たる意思が込められているとみなすべきではないでしょうか。そう受け止めるほうがシンプルなものの見方だとは思いませんか。
 変化からこそ新しいものが生まれるのです。
 そして変化に適合できなかったものは消え去るのが必然です――あなたがたが現状をひたすらに守ろうとするのは、自分らこそが「消え去るもの」であることを無意識のうちに認知していて、それになんとか抵抗しようとする悪あがきの現出した結果なのかもしれませんね、知りませんけど。
 もしもわたしたちが消え去るべきものであるのならば、微笑みと共に、後進に道を譲るべきではありませんか。自分勝手なあなたたちに何を言っても無駄でしょうかね。
 別に構いません。どのみちわたしたちは地球の意思に逆らうことなどできないのですから。せいぜい抗ってください。自分らの無力を知るだけになるでしょうけど。
 とにかくわたしの言いたいことは、繰り返しになりますけれど、あなたがたの独善的な行動の象徴として「地球を守ろう」などという言葉を使わないでください、ということです。それを見聞きするだけでとてつもなくイライラしますから。
(ドン[※演台を叩く音]。ガシャン[※講演者の大きな身振りにより演台に置かれていた水差しが落っこちて割れた音]。ああ〜[※聴衆の落胆の声])

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