紙芝居を使った多言語教育

先月、ドイツのある市立図書館で行われたワークショップ「紙芝居を使った多言語教育」に参加してきました。子供のころから親しんでいる紙芝居ですが、多言語教育にも利用できるというので驚きます。

講師は言語療法士のカナダ人女性で、紙芝居がすでによく浸透しているフランス語圏で言語教育上の可能性に気づいたそうです。しかし日本国内の紙芝居専門家の間では「紙芝居を外国語教育に使うなんて、お門違いだ」というネガティブな反応が多かったそうです。単一民族国家の日本ではおそらく「多言語教育」の意味がよく理解されなかったものと思われます。

ドイツ社会では、1960年代からいわゆるガストアルバイター(短期間だけ労働力を提供する単身の外国人労働者)から現在100万人を超える難民に至るまで、すでに人口の八分の一ほどが移民系になっており、移民系子弟の教育が難しい問題です。一番大きな問題はドイツ語力、もう一つは自分のアイデンティティを失う不安です。

紙芝居にはそうした問題を解決する糸口がある、とこの講師の女性は確信しています。彼女の挙げた具体的なやり方は、次の四つです。

1.紙芝居の舞台の両側にA言語とB言語の話者が立ち、一画面ごとに交互に読み聞かせる。

2.紙芝居を今日はA言語で聞かせ、あすはB言語で聞かせるというサイクルを繰り返す。

3.紙芝居の登場人物の特定の人物に外国語をしゃべらせる。

4.観客参加型のお話の場合、聴衆に外国語で答えてもらう。

1と2のやり方は、トルコ人の多い幼稚園や、ドイツ語・フランス語のバイリンガル幼稚園などで使われているやり方で、子供たちは同じ話を繰り返し二つの違う言語で聞くことによって、バイリンガルに育ちます。

3の具体例として、『そんなのいらない』(クロムハウト/野坂悦子/福田岩緒作)の主人公のクマの坊やだけ英語で話す場合と、『おかあさん まだかな』(福田岩緒昨)の子リスのコリが出会うキツネ、クマ、ウサギが(なんと)アラビア語を話す場合を実演して見せてもらいました。すると、観客も言葉が分からないものですから、異文化の中に放り込まれた子リスやクマの坊やの心細さがひしひしと伝わってくるという効果が生じました。

一番面白かったのは、実は4番目でした。観客参加型の『ごきげんのわるいコックさん』(まついのりこ作)では見ている子供たちが「コックさん、こっちむいて」と絵に向かって呼びかける場面があるのですが、そこでいろいろな外国語で呼んでもらうのです。まず、英語で呼んでもだめ、フランス語もだめ、中国語もだめ、でもクルド語で呼んだらニコニコ顔のコックさんの顔の場面が現れ、読み手が
「そうか、コックさんはクルド人だったんだね」
と言って、
「じゃあ、みんなでクルド語で呼んでみようね」
という風に話を持っていくのです。こうすることで、普段はあまり注目されない少数言語に脚光を当てたり、クラスの中であまり友達のいない、おとなしい子供の言語を取り上げて、みなで後押しができるのです。

今まで考えもしなかったやり方があるのに驚きました。

多言語教育のための紙芝居についてはフランスがやはりパイオニアで、すでに英、独、仏+他の言語という四か国語並記紙芝居が市販されています。
ドイツでは、フランクフルト市が全国に先立って『KAMISHIBAI, kleines Theater, große Wirkung(紙芝居ー小さな芝居で、大きな効果)」という43ページのパンフレットを作成し、教育機関に配っています。同市にはまもなく登録法人フォーラム・紙芝居が設立され、今後ますます紙芝居文化が広まっていくことでしょう。(2019年10月)

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