私の変な不妊治療 その16「ある一日」


病院から帰ってきて、すぐ仕事に出た。もう5キロ以上のものも持てるし、

持ち上げるときに腹圧がかからないよう気にする必要もなかった。

仕事を終えて昼食。久しぶりに薬を飲まない食後。トイレで魔法のステッキを股間に突き刺しにゆくこともなく、ゆったりと食後の休みをとった。

夕方、少し時間が空いたので放置していたバラの剪定に手を付ける。年単位でほっておいた玄関のつるバラがとんでもないことになっていて、切っても切ってもまるで減らない。郵便局員も宅配便も避けながらポストにやってくる始末なので、もう限界だった。一度に運べる量だけ切ることにして、枝を切っては短く切りそろえ、コンテナに入れて手押し車にのせ、裏の畑に捨てに行く。厚手の手袋を二重にして手にはめ、細い枝を何本かまとめてつかみ、よく切れるはさみで切る。短く切りながらコンテナに入れてゆく。太い枝はのこぎりで根本から切り落とし、これも短く刻んだ。

小一時間でも目に見えてバラの姿が変わる。整理されてゆくのがとても気持ちよかった。やればやっただけ成果が出る。

夜、家族に借りた漫画を読みながら干し芋を食べていた。柔らかくしっとりした干し芋。近所の人がくれたものだ。手作りなのか、ジップロックに入ってずっしり重い。買ったら1000円はするだろう。夫にも分けつつ、ほぼ食べてしまった。

病院がえりの車の中でぽろぽろ涙をこぼしたのも今日のこと。

駐車場ですぐにエンジンを入れ交差点の信号を待たずに泣いた。泣きながら運転してまっすぐ家に向かった。どこかに寄れば帰れなくなる。

風呂を終えてビールを飲んだ。美味かった。キムチや残り物の煮物や塩辛を並べて、さらに夫と飲んだ。薬でぼんやりしていた頭が、今ははっきりしている。

ハイバンホー、だめだった。入れた日に、つるりと滑ってでていったような気がして、翌日の体温も上がらなかった。だから、正直そんな気はしていたよ…

でも完全にあきらめたわけじゃなく、ちょっとの希望ものこってたから。毎日、信じてはあきらめてきたから、その分つらいね…

夫は私の頭をなでている。それから一人深夜までゲームをして、空が明らむころにやっと寝た。まったく眠くなかった。

長い一日の中に天国と地獄の両方が存在した。バラ。干し芋。駐車場。「残念ながら、今回は…」。夫の手。

そういうことはある。幸せはどこでも突然訪れる、どんなに悲しい出来事が起きていても。

だからどうしても私は不幸にはなれない。

そんな日があったことをここに残します。ボケがひとつもなくてごめんよ!