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十王裁判エイリアン

 此岸より彼岸へ、無数の死者の魂が雪崩れ込むさまはまこと壮観。これらが虫けらの形をしていなければより風情があったろうが。私は魂の雪崩に虫取り網を突っ込み、数拍置いて勢いよく取り出す。

「ナイスキャーッチ!」

 網から蛆やダニに混じって立派なコーカサスオオカブトの魂が現れる。体長15cmはある大物を前に私は思わず顔が綻んだ。

 私は閻魔大王様のしがない下僕で、虫閻魔と呼ばれている。私の役目はこの雪崩れる虫の魂を断罪し六道輪廻の環に戻すこと、疫病を媒介した蚊などにカルマを上乗せする程度の極めて簡単な作業だ。あまりに暇なのでこうして仕事がてら虫取りに興じている。

 しかしなんと美しいカブトムシか、閻魔様に自慢したい、そんな事をすれば真面目に仕事しろと怒られるのだが。それに閻魔様は今非常に忙しい、私に付き合う暇もないだろう。

 なんでも地上では異星人との大戦争が勃発して、仏様やYHWHらも介入する事態だったとか。結果、地獄に総勢8000万の死人がどっと押し寄せ、閻魔様ら十王はその処理に奔走されている。それでも私のような閑職も動員されずに済んでいるのだから、十王様には感謝しなければならない。

「では偉大な上司に敬意を表し、更なる獲物を求め」

『ZYSHHAAA!!!』

 突如!体長5mはある黒々とした八本脚の巨虫が魂の雪崩を割って飛び出す!私は押し倒され鋭利な脚先で串刺しにされた。

「ウグーッ!?」

 痛い!抜け出せぬ!私は混乱のまま破れかぶれに虫捕り網を突き出し抵抗するが、巨虫の硬い外殻に弾かれ呆気なくへし折れた。

 こんな虫が、否、生命が存在するのか?だいいち衆生の魂が我々に干渉した事例など聞いたことがないぞ。そう考えている間に怪物は頭から5つの眼を剥き出しにし、先ほど捕獲したコーカサスオオカブトの方へ視線を送る。

「あっ」

『SHHHH……§Ι‱∂∂β⊃‴Θ∽?』

 眼球からカブトめがけ放射熱線が照射された!

「あーっ!」

【続く】

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