ゴキブリープ
リビングの電子時計が13時18分を示す。ここまで超順調、あと20秒後に"G"が姿を現すはず、ここを乗り切ればひとまず新記録だ。
横から殺虫スプレーを二丁持ちした愚弟が震え声で話しかけてきた。
「やべえ姉ちゃん、すごいウンコ行きたいんだけど」
「じゃあ行けよウンコ」
「トイレに居たら怖いだろッ」
この小坊は家にその辺のムカデとかを持ち込みやがる癖、Gが出るとこうもビビり散らかすのだから不思議だ。この一家はGが苦手にも程がある。
そして今から8秒後、トイレ前にGがひょっこり出現したのを弟が発見、殺害する事になっている。少なくとも19周前はそうだった。よって私はトイレから目を逸らさせないといけない。
「ええい!じゃあ野糞じゃ野糞しろ!」
「はぁ!?急にどうした!」
「うるせぇいきな!」
私は困惑する弟の方を掴み庭の方向へ押し込む。リビング床で気絶するパパをうっかり踏み越えたが、いいや。
時計は18分50秒、未踏の時間だ、次はどこに……
ピン ポン
鳴り響く呼び鈴の音
「えっ誰」
一先ずモニターを目視すると、同学年の東雲が玄関前で佇んでいる。
アイツ、先週私に告白してきた奴じゃねえか。これはややこしくなるぞ。
『ごめん峰岸さん、どうしても諦め……あっゴキブリ』
私は目を見開いた!次の瞬間、六本脚の黒く悍ましいブツがカメラ前を這い回る光景が映され。
「いやああーーっ!助け!ヒーーーー」
視界が暗転した。
『み、峰岸さん!?あっ隠れるなエイッ』
「それで、ママからの返事は?」
食卓の向かいからパパが深刻な顔で訊ねてくる。左の弟はスマホでゲーム実況に夢中だ、現在時刻12時33分。
(また戻ってしまった)
これで265回目、256回目だっけ?のループだ。今から2分後この家にゴキブリが現れる、心底殺したいソイツを殺すとここに時間が巻き戻って永遠に未来に進めない。
ホント酷い仕打ちだ。とにかく次は東雲、彼にどう対処するべきか……
【続く】
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