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鬼頭はるか お前がヒーローだ

 今週のドンブラザーズ第10話、あるゆるヒーローコンテンツをひっくるめてもマスターピース級なのではないか。そう思わせられるほどに完成度が高く、素晴らしい内容だった。

 思えばこの戦隊、明らかにヒーローの素質とは縁がなさそうに見える、ヤバめの連中でメンバーが固められていた。実質主人公とも言える鬼頭はるかは割りかし嫌な奴として描かれているし、無実の罪を主張する犬塚も逃亡の過程で軽犯罪を重ねている。猿原は社会的にダメで、雉野は凡庸さが逆に危うく、その危うさは既に爆発してしまっている。リーダーである太郎も変身したとたんに支配欲と暴力性が発露されたりと、傍目から見て非常に心配だ。

 隊員のアクが強ければ、ドンブラザーズというシステムも一層きな臭い。牢屋に閉じ込められた謎の親父と様子のおかしい前作主人公が運営している時点であやしく、ドンモモタロウへの中央集権ぶり、現地集合&解散で名乗りがないのも違和感が満載だ。そうした違和感が決定的になったのが途中から明かされたキビポイント制度の存在。

 ヒーローが武功を挙げると願いが叶ったりするシステム、どうしてこうも厭〜な感じがするのだろう。我々が見返りを求めない高潔なヒーロー像を内心で求めているからなのか、先行作の事例を思い浮かべているからか、それとも単に演出のハッタリが効いているだけなのか。ともかくこのキビポイントがだいぶアレな代物なのは間違いない。さあ、そんな怪しげな勧誘に今回乗っかったのがオニシスター、鬼頭はるかだ。

 漫画家としての再起を目的とする鬼頭はノータイムでポイントを消費(この時のマスターの意外そうな表情よ!)、他のメンバーと話し合うこともなく、彼女の物語は幕を閉じた、が、そう都合よく物事が進むはずもない。いつの間にかオニシスター役が別の人に挿げ替えられていて、盗作疑惑という不幸も、綺麗にそのままおっ被せられていたのだ。な、なんちゅう冷酷なシステム。

 ここで出てくる新イエローは真利菜という元写真家で、彼女がどのドンブラメンバーより真っ当な人格をしているのだから面白いよね。事件解決に超前向きで、問題児たちとも(先代より遥かに)折り合えている。深い悩みを抱えながらも戦士としての使命と向き合い、今の自分を肯定しながら戦い続ける。なんたるドンブラ世界の治安にあるまじき高潔さであろうか。なんか盗作された自作に突然ナイフをブッ刺したりもするが、ドンブラ世界の治安を考えれば許容範囲だろう。

 かくしてヒーローの引き継ぎは完了した、鬼頭はるかよりもずっとふさわしい者へと。きっと世界の平和も守られバラ色の漫画家人生が待っている。なに?彼女はまだ写真家の夢を諦めていないって?いやいや、今何もかも上手くいく流れじゃあありませんか。何も気がかりな事などない、後悔など、何も、何も......



有難ッス......オレ漫画家辞めます


 なんてことをするんだ鬼頭、これじゃまるでお前が、見返りを求めない高潔なヒーローみたいじゃあないか......!

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 第1話の頃のドンブラザーズって、ゼンカイが霞んで見えるレベルでラリってるヤバい奴、みたいな印象だったけれども、そこからこれ程まで情緒と光の溢れる回が来るとは思わなんだし、むしろ序盤あんなんだったからこそ話が効果的に働いているんだろうなとも思う。ともかく制作陣に翻弄されてて楽しい。

 あと他の人も大体褒めてた箇所だが、はるかがマスターに問い詰める下りも素晴らしかったよね。奴ならこうするだろうという解釈一致度も高いし、同時に信用に置けぬ管理者サイドに一矢報いる場面にもなっててカタルシスがある。新シスターの写真がちゃんとガチなのも、途中で獣人のスリラーシーンまで挟む貪欲さも好感度高い。ラストカットも完璧で、総じてエンタメ地力が高いのをひしひし感じさせられる。現時点でもいい番組だとおもうが、この調子で最後まで走り抜けられたらもう大変なことになってしまうのではないか。



 そんな『暴太郎戦隊 ドンブラザーズ』はAmazonプライムでも視聴可能だったりするぞ(最新話は水曜更新)。まだ1クール未満とあって追いつくにはまたとない機会。袖振り合うも多生の縁、躓く石も縁の端くれ、まだ観ておられないという方も、ぜひ足を踏み入れてみてはいかがか。

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