事情 : 赤と飛頭蛮
「赤いマフラー、赤いマフラーはありませんか」
そう僕に尋ねてきた黒セーラー服の少女は、首から上がからっぽだった。古めかしい服屋の店内、レジを挟んで店員の僕と首なし少女が向かい合っている。
僕は困惑した。決して目の前に魑魅魍魎の類が立っている事にではない、今や彼らは社会の一員として馴染みつつある、日常光景だ。奇妙なのは彼女の本体である筈の頭部が行方知らずな事……
「黒、緑、青の物はあります、赤は……」
「でしたら赤以外でも……あっ!」
少女の体が入口の方へ振り向き、つられて僕もそちらを見る。そこには茶髪セミロングのいかにもギャル的なメイクの女性……その頭部がこちらへ飛んで来ていた。
「お姉ちゃん!」
姉と呼ばれた女性の頭はスポリと、空の妹の首に収まった。そして気怠そうに言い放つ。
「マフラーは絶対赤、これだけは曲げないって言ったっしょ」
怪異の世界は、まだ僕の知らない事ばかりのようだ。
【続く】
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