e-スポーツの「プロ」って何だろう

※今回のこの話は格闘ゲームシーンの場合です。

 2021年3月現在、プロゲーマーという肩書を持つ日本人は非常に増えた。
現在、日本e-スポーツ連合が発行するプロライセンスを持つ選手は232名、そして13のチームが認定を受けている。
 だがあくまでこれはライセンスを発行されている選手だけであり、対象タイトルから外れているゲームのプレイヤーや、法人やチームからスポンサードないし契約を行っている選手も含めればその数はもっと増えるだろう。

 それと同時に語られることは、何をもって「プロ」とするのかというところである。

 ゲームでお金を稼いでいたらプロなのか?

 ライセンスを持っていればプロなのか?

 プロはアマを超える存在なのか?

 これらよく話される疑問について、他のスポーツ競技が辿った軌跡を元に私なりの考えを書いていきたい。

 まず第一に言葉の意味合いに多少の違いがあり、それを分けて考える必要があるということを提示したい。「プロゲーマー」という言葉と、競技シーンの第一線で活動する選手を表現する言葉を分ける必要があると感じたからだ。今回は仮に最前線で競技者として活動する選手を「eスポーツプレイヤー」と表現することにする。

 正確に表現すれば「プロゲーマー」という広義の大きなカテゴリーの中に「eスポーツプレイヤー」という狭義のカテゴリーがあると考えてもらいたい。

 わかりやすい例を挙げれば、高橋名人はプロゲーマーだが、eスポーツプレイヤーではないというとご理解いただけるだろうか。

 競技シーンの中ではなくともゲームでお金を稼いでいる人もいる。この人が最も広い意味でのプロゲーマーと呼べるだろう。簡単に言えばゲームで金を稼いでいたらプロ、ゲーム配信者などもプロゲーマーと言っていいだろう。

 今回はこのプロゲーマーではなくeスポーツプレイヤーというカテゴリーに入る人たちの中でのプロアマ論を考えたいと思う。

 今現在のe-スポーツシーンはまだ誕生して間もないこともあり、プロアマの明確な線引きができるものは、「ライセンスを所持しているか」、「スポンサーがついているか・チームに所属しているか」の2つしかない。ただ、現状この二つのうち片方だけを満たしている選手を高く評価する風潮は無いと感じられる。
 
 私はよくe-スポーツシーンとプロゴルフシーンを近しい存在として見ている。ゴルフシーンでは才能あるアマチュア選手が大会上位に食い込むということもしばしばみられる。これはe-スポーツシーンでもよく見られることであり、アマが食い込む余地がある貴重な競技シーンといえる。ハニカミ王子といわれた石川遼選手や、宮里藍選手もアマチュア時代からプロツアー大会で上位に食い込む活躍をしていたことは記憶に新しい。いや15年前のことを記憶に新しいと言っていいかわからないがそうなのだ。

 ゴルフの場合はプロテストを受験してそれをパスする必要がある。e-スポーツでこれにあたるのが大会結果に応じてのライセンスの発行だ。これはある程度の実力を担保するものとしてのライセンスである。このライセンスは実力面における「プロ」としての一つの証明であることは間違いない。

 2018年に日本e-スポーツ連合(JeSU)が発足し、対象タイトルのライセンスの発行が開始された。まだ開始から2年と少々の期間ということで、プロに値する実力を持つ選手全員にライセンスが行き渡っている状態にはなっていないというのが実情だろう。

 何より「プロ」という発想が近年生まれたものであるため、今でも伝説的と評されながらも、プロシーンがなくプレイヤーとして生活ができずに引退をしてしまった人達の存在が未だに色濃いため、プロとアマの実力差が曖昧な状況にあることは間違いない。

 ただライセンスの発行基準は決まってはいるものの、その基準が本当にプロと呼ぶべき実力があると証明しているかどうかは判断ができない。

 じゃあe-スポーツのプロって何なんだ。

 ということになってくるだろうが、皆さんにはこういう考え方を持ってもらいたい。

「プロ」はゴールではなくスタートだということ。


 ここで他のスポーツを例にイメージしてもらえたらと思うが、例えばプロ野球だと年に一度行われるドラフト会議で指名された選手は「プロ野球選手」としての人生がスタートする。
 ドラフトで指名され入団契約を結んだ時点で「プロ野球選手」と呼称されることになるが、いきなり一軍のスタメンで大活躍する選手はほんの一握り、大半の選手は入団し、そこから二軍でさらに厳しい競争や練習を経てようやく1軍の舞台に立つことができる。つまりプロになってからの方がより高いレベルの研鑽を積む必要があるというわけだ。
 ドラフトで指名され、プロの肩書がついたから上手になるということは決してあり得ない、そこからさらにうまくなるために努力をするほかないのである。
 
 今のライセンス取りたて、スポンサー付きたての若い選手に「プロならアマに負けるな」という厳しい言葉を投げかけるのは控えてほしい、長い歴史を持ち、天才が集まっているはずのプロ野球ですら2軍選手が社会人チームに負けることは珍しくない。それだけトップアマとプロの下部との差は薄いものだ。

 特にe-スポーツにおいては競技の環境がトッププロと一般のプレイヤーにおいて差がないことは実力が伯仲する最大の要因であり、e-スポーツの最も素晴らしいところと私が感じているところだ。
 格闘ゲームの場合、ゲームソフト、PC、コントローラー、モニター、通信環境さえ整えばトッププロと今日始めた人と全く同じ環境でプレーできる。こんなにコストと手間がかからない競技は他にないだろう。

 だからこそトップアマの層は厚くなり、プロを飲み込もうとしている。ハイレベルな環境を作っているのはプロだけでなくアマの機運の高さがあってこそだ。

ここまでをさらっとおさらいすると

 ライセンスを取得ないし、スポンサードを受けている選手、このどちらかだけを満たしている選手はこのスタートラインに乗っかった状態にあるとみていいだろう。 
 少なくともトッププロと評される選手はほぼこの両方を満たしているのは間違いない。実力人気ともに認められ、なおかつ研鑽を止めないプレイヤーたちといえる。

 これから年数を重ねることでプロとアマと差は少しずつ見えてくるだろう、ただその時が来るのは今しばらく先、いまはこのプロアマ戦国時代の中でアマが大会を制するようなセンセーショナルな出来事も期待したいし、トッププロが貫録を見せつける姿も見たい。

 どうかファンの人たちにはプロになったばかりの人たちを温かく見守ってもらいたいものだ。彼らが実力をつけたとき、また感慨深い気持ちになれるはずだ。スポーツのプロシーンは成長を見守り、その選手がいずれ結果を残すをの見届けるのも醍醐味の一つなのだ。

e-スポーツもスポーツと近しい楽しみ方ができるようになってきた、いやもはやスポーツなのだろう。

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