20231106

嘘なら嘘と言って
罪を憎んであなたを許そう
リアルだけじゃ足りないから
嘘は選んだ あなたを選んだ

全てが上手くいって
あなたは嫌っていた孤独とつるんだ
リアルよりも危ない
秘密を誰かに伝えたくなっても

在日ファンク - 「嘘」

嘘をついてくれるアイドルが好きだ。というとすごく悪い言い方になってしまう。アイドルにおける嘘と本当は私達が生きる日常生活のそれとは全く別物で、とても曖昧な境界線の上に成り立っているような気がする。何故なら嘘か本当かなんて実際はどうだってよくて、アイドルの前では「本当の真実」なんてものが、全ての効力を失ってしまうから。


クリスが逮捕されてから3回目の誕生日を迎える。この1年は裁判に関する報道があったので、簡単にここに記しておきたい。詳しくは「クリス・ウー逮捕後の動き」などを見てもらえると分かりやすいと思う。

まず忘れもしない2021年8月16日の逮捕から1年3ヶ月後の2022年11月、遂に第一審の結果がニュースになった。クリスに言い渡された判決は「強姦罪で11年6ヶ月と公然わいせつ罪で1年10ヶ月、合わせて懲役13年。更に強制送還」というもの。そしてここにきて、今まで全く知らなかった「2020年に3人の女性を泥酔させて性行為に及んだ」「2018年に女性2人を飲酒させて乱暴な行為に及んだ」という別件の罪が追加となった。後者には共犯者がいるらしいが、その相手が誰なのか、既にクリスと一緒に捕まっているのか、今でも何も分かっていないままだ。

今年、2023年7月には第二審が非公開で行われているというニュースもあった。私たちはここで初めて「クリスが第一審の結果を拒否して控訴を行っていた」という事実を公式的に知ることになる。今まではクリスの友人を通じて「恐らく控訴したのではないか?」という半ば希望的観測を含めた噂のようなものが囁かれていただけだったからだ。とはいえ、中国の司法が刑事事件に対して二審開始を許可することだけでも割と珍しく、よっぽどのことがなくては開かれないらしい、ということは調べていてなんとなく分かった。と同時に、カナダ大使館の外交官が裁判への立ち入りを拒否されていたことも分かった。少しずつではあるけど事件は動きを見せていて、恐らくもうすぐ「(あくまでも公的な)結果」と言われるものに辿り着くのではないか、ようやく出口が見え始めているのではないか、という感じがする。その先が天国か地獄かは分からないけど、できる限り真実が明るみになって欲しいと思うし、クリスのなけなしの名誉が必要以上に踏み躙られるようなこともなくなってほしいし、今でも中傷の的になってしまいがちな被害者もきちんと守られて欲しいと思っている。

この1年間、なんだか色々考えさせられる出来事が多かった。特に旧ジャニーズ事務所の性加害疑惑問題が自分としては打撃だったと思う。ただこの件には個人的にかなり前から注目していて、自分が元々ジャニーズのファンである以上に、告発者や被害者を嘘つき呼ばわりしたり誹謗中傷を繰り返す一部ファンの有様がクリスが逮捕された頃の自分と重なってしまったことで、余計に他人事とは思えなかったのは大きい。

私たちは大切なものを守るためなら時に心を鬼にしてでも誰かを傷つけてしまうかもしれないし、その根本はどこか優しさや正義感みたいなものから来ている感情だとも思う。だからと言って言葉でも物理でも誰かに暴力を振るうことは許されないのは大前提だ。それでも「好き」という一つの感情が持つパワーは決してポジティブなものだけではなくて、バカみたいに認知力を低下させ、判断力を奪う危険物質であるということも、私たちは忘れてはいけないのかもしれない。あの時クリスを必死に庇いたくて身が引きちぎれるような思いをした自分や、今でも必死に旧ジャニーズ事務所を擁護し続けるファンを思うと、「好き」であるからこそ慎重に判断するべき状況下というものは確かにあるのだと痛感させられた。

つい先日、とあるアイドルがファンアプリを通じて「ファンにプレゼントをねだっている」「プレゼントに関するメッセージにだけ反応をする」という暴露と、その流れで「彼は計算高い」「自分が利用できそうな人を選んで付き合っている」などという話でネット上が炎上しているのを見た。彼のことはサバイバルオーディション番組で知っていたし、自分なりにどういうキャラで売ってる子かは把握していたから衝撃的ではあった。その一方で「プレゼント以外のメッセージにも反応してくれてる」「サイン会で日本のファンとコミュニケーションを取るために日本語を勉強したノートを机に置いて頑張って喋っていた」などの話もあったりして、炎上から派生して番組内での発言や今までの行動までもが悪い方に捉えられてしまう流れに不安の声を上げるファンの投稿も見て、胸が痛かった。

クリス事件以降特に、こういう暴露や炎上の過程で特定の誰かが強く非難されているのを見ると、なぜか自分までもが人格否定されているような気がしてしまう。だって私たちが見ているその人の印象は、こちらから見えているほんの一部に過ぎない。先日観た実話を元にした映画でディカプリオは心から愛する奥さんのルーツである民族たちの虐殺に加担していたし、ジャニー喜多川氏による性加害疑惑に声を上げた人たちは喜多川氏の葬儀に笑顔で参列していたし、私だって何かに腹が立って全員死んじまえ!!と思った矢先でも満員電車で高齢者を見かければきっと席を譲るだろう。きっと思ってる以上に人間の行動に一貫性なんてなくて、私たちはいつも矛盾ばっかりだ。それくらい人間は複雑で、みんなが思うような極悪非道の悪人だって存在しないかもしれない。もちろんその逆も然りで、完璧な善人なんてのもきっと存在しない。キラキラと輝く誠実そうなアイドルを応援する上で、全てを投げうって心からファンだけを愛してくれる究極のアイドルなんて本当は存在しないことを私達は心のどこかで知っている。人生を生きていて本当に心から信じられるものになんてなかなか出会えない。それでも信じたい、信じてみたいと思える、思わせてくれる、たとえ嘘だとしてもそれを行動で示して、信じられるものを与えてくれる人が好きなだけだ。少なくとも私から見た事件以前のクリスはそういう人だったし、今好きなアイドルもそんなクリスに少し似ている気がする。救われるかどうかは問題ではなく、救おうとしてくれているかどうかが重要で、それが本当か嘘かなんてどうだっていい。だって信じることで頑張れている、救われている私がここにいることは、紛れもない「本当」なんだから。

たびたびweiboで話題になる噂としてこんなものがある。「クリスは拘置所内で優れた成績を収め、副班長となって他の受刑者のために曲を作ったり詩を書いたりしている」「同じフロアにいたから名前を呼んでみたら、挨拶してくれた」というものだ。なんでも元ネタは実際に拘置所から帰ってきた人の話だという。拡散したのは日本でいう滝沢ガレソみたいなアカウントだと推測されるので真偽は定かではないが、そこにクリスのファンとしてのフィルターがかかっていない分、少しだけ真実味があるように思いたくなる。もしもこの話が本当なら、あんなに大変な思いをしても尚自分ではない誰かの為に拘置所の中で創作活動を続けているんだと思うとあまりにも健気すぎて、想像しただけで泣けてくる。もちろんそんな気持ちは、被害者のことを思えば本来口に出してはいけないものなのかもしれないけど。クリスはどうしているんだろうか、少しでも健康でいてくれてるだろうか、今何を思ってどう過ごしているんだろうか。そんなことばかり考えるのも、誕生日の今日だけ許して欲しい。次の誕生日を祝う頃には状況が変わっていますように、もう必要以上にクリスや被害者を傷つける人がいませんように。クリス、33歳のお誕生日おめでとう。今でも顔を見るだけですぐ泣いてしまうし、何度も思い出しては落ち込んだりの連続だけど、それでもあなたはずっとずっと大好きな私の王子様だよ。今日だけもう一度そう思わせて、ほんの少しだけでもクリスの幸せを願わせてください。本当にお誕生日おめでとう。