中原逐鹿

風貌こそ何処にでも居そうな男に見える。
しかし格闘ゲームとなれば別である。強者という言葉では足り得ない。
魔物、異形の者、怪物…例えようは幾らでもある。
彼の炯眼に射られた者は、彼の前に跪くまで追い詰められる。

私は今、山嶺を目指し、鬱蒼とした樹木が茂る道なき道をかき分けている。

或いは涯てしない原野を歩いているのか。

このとき私は気づいていなかった。この道程が、終わりの見えない旅であり、人生であることに。

旅路の途中で、路傍に佇む男が居た。男は、虎であった。

私は男に教えを請うた。どうすれば虎に成れるのかと。

男は自身のことを虎だとは認めなかった。

だが、虎に成る方法は惜しげもなく私に授けてくれた。

私は意気に応え、修練を積んだ。

ある夜、男は曇りのない声で言った。「格闘ゲームに終わりはない」と。

この言葉は私の胸を打ち、そして沁み入った。

私はその時気づいたのだ。これは旅であり人生なのだと。そして私も虎に成りたいと。

グランドマスターになったらこのゲームは上がりだと決めつけていた。

そこが私のストリートファイターのゴールテープだと思いこんでいた。

しかし終わりなど無かった。終わりは自分で決めつけているだけだ。

来た道を振り返ると、もう何処から歩んできたのかわからない程、遠くへ来た。引き返すこともできないだろう。前に進むしか無い。

あの虎の背中が私の道標だ。

頂へ、そして中原に覇を唱えるまで駆けるのだ。


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