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真実と虚構の短編集

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さまざまな登場人物が繰り広げるちょっと変わった日常。 あなたはこの日常の本当の姿を見抜くことができますか?
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短編小説【真実と虚構の短編集】まとめ

タイトル:【真実と虚構の短編集】 01:名前を忘れた女 02:外泊する女 03:月曜の深夜 04:待ち人 05:オレンジは時計仕掛けか? 06:Before my story... 07:Bad good morning 08:ショッキー奥村という男 09:貧者のジレンマ 10:到着地点とその過程についての考察 11:よういちのビールクッキー 12:ノストラダムスと少年 13:見えぬものこそ。 14:四足歩行で何が悪い。 15:ワレワレハ、ウチュウジンダ! 16:天文学部

【短編小説】世界の跨ぎ方

浅井は、数分間沈黙していた。 京極とその仲間に連れられ、工場が立ち並ぶ地域に入った。 工場ばかりが並んではいるが、稼働している工場は数える程しかないようだ。遠くでサンダーの音や何か固いものを何度も叩く音が聞こえる。 その中の一つの工場の前で車は停まった。 狭くもなく、広くもない。おそらく工場という括りで見れば狭い方になるのかもしれない。それでも数十人は難なく作業ができるほどの広さだ。 京極とその仲間は慣れた感じでその工場のシャッターをあげた。 「浅井さん、どうぞ中に」

【短編小説】世界線は変更されました

とあるマンションの一室。部屋番号は二二九号室。 細かな住所は明らかにできない。なぜならこの部屋に住む住人のうち数名は 社会に認識されない透明人間だからである。 一応、部屋の扉には《マキタ》というネームプレートが貼ってある。 一般人に溶け込むには一般人と同じようなことをしなければならない。 実際に《マキタ》とよばれる男は住んでいる。この部屋の管理を任されている。《マキタ》という名前は偽名である。他にこの部屋に出入りする者は数名いるが、おそらくそのほとんどが偽名だ。 「マキ

【短編小説】後悔の行方

 人が何かを後悔する時は二種類あるそうだ。 何かをした後悔と、何もしなかった後悔。 そして何もしなかった後悔の方が大きいから何かをすべく行動した方が良いという話も聞く。 はたして、この話は正しいのだろうか。後悔は二種類なのか。  確かに経験上、何もしなかった後悔は大きかった。 ああすればよかった、と取り戻せない時間を考えるのは辛かった。 自分が初めて後悔を感じたのはいつだろうと、茜は考えた。  茜はこの施設で育った。 さまざまな理由でこの施設にやってきた子供たちと共同生

【短編小説】盾と矛

 浅井はただ立ち尽くしていた。 手には買い物カゴを持ったまま、スーパーのレジの前に立ち尽くしていた。スーパーで数日間の食料を買い込もうと、スーパーに来てみたはいいものの 浅井が今まで来たことがあるスーパーとはまったく違った。 「困ったな、これから予定があるのに」 浅井は思わず口に出した。 このあと、昔の知人である辻と会う約束をしていた。 このスーパーからだと約束の場所まで一時間はかかるだろう。 —何かお困りですか?— どこからか声がする。周りを見渡しても私に声をかけている

【短編小説】メメント・モリ

 旅人は、この道の先にユートピアがあると信じていた。 しかし歩き疲れてしまってもうユートピアを目指すことはなくなった。 いつも同じアオゾラを見上げて過ごす日々は悪くはなかった。 同じ顔ぶれと暮らすことも悪くはなかった。 昨日と同じ場所で、昨日と同じものを食べることにも慣れた。 「ユートピアなんて最初からなかったんだよ」 巷の人々は旅人、いや元旅人に言う。 「変な噂に絆されたんだなぁ」 巷の人々は優しさと冗談でもって元旅人に接する。 「ここにずっと居ていいんだぞ」 その笑顔は

【短編小説】ふたりで楽しいランチ

風の強い日に、貧乏神と死神がランチをした。 「久しぶりだな。相変わらず貧乏か?」 死神は貧乏神を揶揄う挨拶をした。 「僕は貧乏じゃないんだよ、僕が取り憑いた人間が貧乏になるの」 「最近その仕事の方はどうなんだ?」 「あんまりいいとは言えない。昔みたいに稼げなくなったね。君はどう?」 「あぁ、こっちはてんでダメだ。人間は勝手に死んでいく。おれらの出る幕はないな」 ——そんなに——と貧乏神が気の毒がっていると、店員が注文を取りに来た。貧乏神はランチセット、死神はパンケーキを頼ん

【短編小説】青と緑と可憐な赤

たまに通り慣れた道が違って見えることはないか? それは普段通らない時間帯だったり 普段通らない曜日であったりした場合に多い。 その普段通らない時間や曜日には、あなたが知らない営みが行われている。 そこにまったく関係のないあなたが紛れ込んでしまった、まるで迷子か客人のように感じることはないか? 私はそれを小さなパラレルシフトだと捉えている。 あなたの普段の営みとまったく知らない営みはやもすれば 一生交わらないかもしれない。 一生その違和感を感じないかもしれない。 そういう

【短編小説】もう一歩前へお進みください

こんなに酔ったのは久しぶりだった。 職場の人間の送別会だった。 二十四歳のマキちゃんの寿退社を祝う会である。 マキちゃんは誰からも好かれていた。 あの仏頂面の課長でさえ、広角が上がる。 取り立てて美人でもないし、お世辞にもかわいいとは言えなかった。 しかし、愛嬌だけは抜群だった。 セクハラまがいの話題にも笑って返すことができたし、 つらいお説教もちゃんと耐えることができた。 新人の教育も、持ち前の明るさと面倒見の良さでなんなくこなした。 マキちゃんは誰からも好かれていた。

【短編小説】普通の生活

 毎朝満員電車に揺られる日々。決まった時間に家をでる日々。 決まったことを機械のようにこなす日々。 誰かに媚びへつらい頭を下げる日々。  さも誰かより能力が優れているかのように、誰かに指示や命令を出す日々。将来の不安なんてないと、この日々の先には安泰が待っていると信じている日々。  幼いの頃の夢は未熟だったからと諦め、青春の中で憧れた世界は大人よって潰され、目の前の生活だけを大事にする日々。  終電に乗って家へ帰る日々。酔い潰れたサラリーマンは何か真実を見たが、何もかも

【短編小説】福音は電波に乗って

 朝陽は相変わらず夜勤のバイトを続けていた。 順調に、というわけではなくなし崩し的に行かなければならないという義務感や責任感でしかなかった。  最近、京極とは会えていない。 朝陽からメッセージを送ってもなしのつぶてだった。朝陽の心が晴れないのはそのこともあった。  今日は夜勤のバイトが休みの日だった。 朝陽は休日を持て余した。することが何もないのだ。 朝から洗濯や溜まった食器を洗ったり、掃除機をかけたりした。 飼っている猫のトイレも洗った。 することがないとは言え、やらな

【短編小説】つくりすぎないように

 ある絵描きはすべての画材を捨てた。 絵を描こうとしたとき、すべてがわからなくなった。物の形や描き方、 人体の構造やデッサンの方法、色の使い方などすべてだ。 今日になって急に、そうなった。  絵描きは今まで描いた絵を見直すと、どれもが陳腐で矮小な落書きにしか見えなかった。一番のお気に入りの絵だって幼稚園児が描いたママの絵の方がマシだと思えるほどだった。 才能がないのだ。忽然となくなったのだ。いや、最初からそんなものはなかったのだ、と思って画材をすべてゴミ袋へ突っ込んだ。

【短編小説】二二九号室

——ヱホバ降臨りて彼人衆の建る邑と塔とを觀たまへり。 ヱホバ言たまひけるは視よ民は一にして皆一の言語を用ふ今旣に此を爲し始めたり然ば凡て其爲んと圖維る事は禁止め得られざるべし。 去來我等降り彼處にて彼等の言語を淆し互に言語を通ずることを得ざらしめんとヱホバ遂に彼等を彼處より全地の表面に散したまひければ彼等邑を建ることを罷たり—— 京極は深夜の街を歩いていた。 大半の店の電気は消え、シャッターが閉まっている。 時折、バーやスナックの看板にあかりが灯ってはいるが、その店の中に人

【短編小説】変わらぬ時代と紡ぐ物語

 時代は変わっているようで何も変わっていない。 最近ふとそう思うことがある。 例えばこの前、郵便局に行った時に思ったのは電子メールやメッセージアプリがある中いまだに手紙のやり取りをしているのだな、と実感した。 でもそれは細かいことだからたいして気になりはしない。  キヨトは大学生になった。 別に大学に是が非でも行きたいと想ったわけではなく、なんとなく流れで受験をして、さほど有名でも偏差値が高いわけでもない大学に受かった。 父と母は大学に受かったことには喜んではいたが、私の