自殺ごっこ

いつものそれとは違う、物凄く澄んだ気持ちだったのを覚えている。鬱々とODする訳でもなく深酒していた訳でもなく、とにかく晴れやかな気分だった。

明け方、後数時間でパートナーの起床の時間。
るんるんと隠してあったロープをクローゼットから取り出していい加減に調節した。バスタオルを床に敷き、ドアノブの取っ手にロープをかけた。ゆっくりと腰を下ろしてロープを首に回した。
体をずらす瞬間、窓を見た。真っ暗な部屋に唯一光があるような、明け始めた空がうっすらと見えた。
あぁやっぱり何度めだろうが苦しいなぁ。ぎぎぎ、とドアノブが音を立てる。それでも心はただ死に向かって忠誠だった。

次の記憶は、その日の夕方。ベッドの上でパートナーに抱きしめられながら掠れきった声でごめんなさいと泣いていた。これが現実か解らないまま謝り続けた。そんな姿を見せてごめんなさい?大変な時期に仕事を休ませてしまってごめんなさい?驚かせてしまってごめんなさい?
全部違う。また死ねなくてごめんなさい、だ。
パートナーの体温がまた死に損なった私に生きていることを教えている。

残ったのは鬱血した首から耳にかけての内出血と、喉の激痛と激しい吐き気だけ。生を嫌でも実感させてくる苦しみだけ。
寝室を出るとぐちゃぐちゃのバスタオルも切れたロープもそのまま床に散らばっていた。死ねなかった私を、どこまでも中途半端でしかない私を嘲笑うかの様だった。

あーあ、きょうもいきてた

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