silver story#36

#36 溢れんばかりの星空を見上げていると右手奥の茂みからなんとも言えない奇声が聞こえてきた。 オレンジの光が木々の間からチラチラ動きながらこちらに向かってきていた。
まるで大蛇のようにクネクネ動いて向かってきていた。

その奇声は、一定のリズムがあり、一人の声をベースにして幾つかのパートに分かれていた。
それは、よく知られているケチャのリズムではなく、なんというかどこかで耳にした日本の旋律だった。
んんん。なんだろう。ここまで来ているがイマイチそれが出てこない。
暗がりから松明と共にその奇声の主たちが徐々に現れてきた。
二列に並ぶ彼らは、途中から四列になり祠の方を向いて止まった。その間中ずっとあの奇声は、止むことはなく、どうも列の真ん中近く祠の前に一人そのリズムを作る人がいるようだった。

四方から照らされた松明の炎の光はゆらゆらと揺らめいて柔らかでもあるが、照らし出す物の何かを隠すようにぼんやりと見えたりしていた。列の真ん中あたり、ちょうど祠の前に村長さんがいた。

さっきから、奇声と共に調べを作り出していたのは、村長さんだったのだ。いつも話す低くて優しい声とは似ても似つかぬその声に、私は思わず身震いした。

彼らの顔をゆっくり見ていると、あるものは優しげな微笑みを浮かべながらあるものはカーッと目を見開いて叫ぶように、また、あるものは一心不乱にそのリズムを繋げていた。
これから起こる何かに押しつぶされないように各々が、その身を守る呪文のようにその旋律を唱えていた。
奇声と言える旋律が止まると、村長さんが何か言い始めた。

「お母様、何を言ってるのですか?」
「あ、あれは、今からバリの神々に捧げる聖なる儀式の始まりの言葉です。神様に伝える独特の古い文言が盛り込まれているから私もよくわからないのです。」

へー。お母様でもわからない言葉とは、どんなのだろうか?

またあのどことなく懐かしい旋律が始まり、村長さんは、それにのせて抑揚を付けながら語り始めた。
いよいよハジマルのだ。

見上げると真っ黒というより銀色の輝きの方が圧倒的に広がっているバリの夜空が横たわっていた。

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