2023年、旅行とか本とか映画とか


旅行

3月に博多・別府、5月に日光、8月にローマ・アッシジ、10月に瀬戸内海の直島・犬島、12月に熱海と四万温泉へ行った。
 8月に足利市美術館で行われた「顕神の夢展」を見るために足利までいったのも、旅行に含めてもいいかもしれない。駅から出るとすぐに大きな川があって、強く吹く風と共に青い草の匂いがしていた。日傘が吹っ飛ばされそうだった。顕神の夢展の不穏なメインビジュアルのポスターが街のあちこちに貼ってあったのが良かった。『カラヴァッジョ巡礼』を読みながら向かった気がする。
 3月の福岡・別府は久々の京都以外への一人旅で、京都なら何をしたいか、どこに行きたいかが無限に思い浮かぶのに、特にやりたいことがない、何をしたらいいか分からない、という時間が生まれて、何か焦ってしまう感じがした。でも本があったから、どこに行くか決めてしまえば、行って本を読めばいいし、もつ鍋屋で長時間並ぶこともできた。『箱男』を読んだ。博多から別府に行く特急で『歩くこと、または飼いならされずに詩的な人生を生きる術』を読んだ。別府ではずっと行ってみたかった書肆ゲンシシャに行ったけれど、要望の伝え方が悪かったのか、あまりいい本は出てこなかった。グロい写真をたくさん観た気がするけれど、あまり覚えていない。切腹プレイ(女性が切腹しているかのようなフェイク写真を撮るプレイ)の話を聞いたのは覚えている。ラクテンチという寂れた遊園地が楽しかった。園内の鳥園でわらわらと集まる鶏たちや、3羽でゆうゆうと同じ道を往復し、動きをシンクロさせるフラミンゴや、2羽がちょっと離れて居る孔雀が見られたのが面白かった。まだ稼働している乗り物には子どもたちが乗っていて、楽しそうだった。
 5月の日光は2022年にも泊まったペンションに行って、大学の友人たちとフレンチを楽しんだ。金谷ホテル歴史館でモダンな日本建築を見たのが楽しくて、自分一人での旅行であれば行かなかったであろう場所だったので、人と旅行する良さを再確認した。中善寺湖のあひるボートも自分一人では乗れなかったと思う。意外と波が立っていて船が揺れて、転覆したら死ぬかも、と思った。山の向こうから夕陽が強く差して、奇麗だった。
 8月のローマ・アッシジは家族と行った。新しく買ったニューバランスを履いて、ひたすら教会をめぐった。
 10月の瀬戸内海旅行は、直島でみた夕陽が心に残っている。犬島自然の家の天体観測望遠鏡の修理が終わったら、もう一度、星を観に行きたい。一緒に行った友達とは色々あって気まずくなってしまって、連絡をほとんど取らなくなった。
 12月は熱海で2泊した。雨の中、熱海アートグラントの会場となっている空き家を巡った。お茶屋さんだった建物を使った作品があった。割れた鏡に映る赤い照明に照らされた自分とか、女性の声が胡蝶の夢をモチーフにした朗読をするのに被さる「Wake up!」と言う男性の声が記憶に残っている。同じく空き家の地下で展示されていた「熱海鰐園」をモチーフにした展示があった。階段を降りていくと壁に人間の片目が映し出されていて、拡声器型のスピーカーから園内アナウンス口調で熱海鰐園の説明が流れてくる。かつて熱海に存在したワニだけの動物園で、衛生状態はあまりよくなく、来場者がワニに石を投げたりしていたらしい。壁に映る目は、かつて熱海鰐園でワニを見たことがある人の目だ。普段は1日2食+間食という食生活をしているのだが、とてもおいしい石川屋のチャーシューラーメンを食べている間にお腹いっぱいで気分が悪くなってきてしまって、旅行先で「食べきれないかもしれない」という恐れを抱えるのは嫌だなと思った。『雪国』を読んだ。観光船に乗ったらカモメたちがついて来て、カッパえびせんでエサやりをしている人たちがいた。景色よりカモメがメインだった。港へ戻るとき、熱海の街に大きな虹がかかっているのを見た。
 年末の四万温泉では日本酒を2人で4号ずつ飲んだ。貸し切りの露天風呂に冷酒を持ち込んで飲んで、朝も7時前から少し飲んだ。酔ってきて自分の声が柔らかくなったことに気付くのが楽しい。五苓散という漢方を飲む前、飲んでいる途中、寝る前、朝の4回飲んだら全く二日酔いにならなかった。温泉街に滞在した24時間くらいで4回お風呂に入った。河が浅いところはエメラルドグリーンで、深いところは群青色で、葉を落とした木の白く細い枝に縁どられていた。温泉の成分のせいなのか岩がしめ鯖みたいに変色していた。同行者の恋人が迎えに来てくれて、仲良しそうで良かった。

 3月末の異動がなかったら、2024年はウズベキスタンに行きたい。既に来年の旅行の予定が複数立ち始めていて、楽しみだ。出来れば毎月旅行したい。

旅行先の良かった場所

・珈琲フッコ(博多、喫茶店)
・ラクテンチ(別府、遊園地)
・中禅寺湖(日光)
・金谷ホテル歴史観(日光)
・UNO port inn cafe(岡山県玉野、ベーグルのカフェ)
・仏蘭西洋菓子モンブラン(熱海、ケーキ屋)
・石川屋(熱海、ラーメン)読書

読書

 年始に弟に借りた『ガラスの街』に始まり、ポール・オースター作品を10冊読んだ。最初に読んだ初期作品群は、主人公が大きな謎に巻き込まれていき、外在していたはずの謎をいつのまにか自分の存在の核として引き受けざるを得なくなるというストーリーが、精神分析の主体のあり方を想起させた。私がポール・オースター作品に惹かれたのは、この点だったと思う。オースター初期作品の男性主人公にとって、父や男友達とは、決して理解できず、到達できない謎である。彼らは主人公の前から失踪する。一方で、女は彼に肌を晒し、彼に触れ、彼も女に触れる。女の謎も、神秘も、彼の存在を揺るがすことなく、彼と共存できる。共存できなくなっても、彼の生活は続く。しかし、彼は父や男友達の謎と運命に巻き込まれ、物語は途切れる。この先は「無い」。彼も失踪する。
 オースター初期作品のそういうところが好きだったから、『ムーン・パレス』、失踪した主人公がしかるべき人間に発見されたり、『オラクル・ナイト』で失踪する人間の心理を描かれてしまうと、自らの作品の神秘を勝手に解明し、あけっぴろげにされたような気持ちになってしまう。それで、オースター作品は読まなくなってしまった。
 『歩くこと、または飼いならされずに詩的な人生を生きる術』は、別に読んでいてそんなに面白いとも思わなかったのに、奇妙に頭にこびりついている。旅行先で旅に関する本を買うようにしているのだが、この本は3月に福岡に一人で旅行に行った際、全国旅行支援のクーポンを使うために福岡の駅ビルの中にある大きな書店で買った。ドクターマーチンのブーツの靴底がぼろぼろになるまで歩き、旅の途中で会った女を抱き、酒瓶を抱えて酩酊しながら進む。そういった描写から浮かび上がる、筆写の肉体の力強さに羨望を覚えた。私の肉体は脆弱だから、そんな風に痛めつけることはできない。でも歩くことの肉体性は私も共有している。

 今年は学術書をあまり読めなかったから、もっと脳みそを疲れさせるような読書もしていきたい。

特に良かった本

・『孤独の発明』ポール・オースター
・『狂気と創造の歴史』松本卓也

映画

 夏頃、現実から逃避するために映画を見るのはもう飽き飽きだという気持ちになっていた。でも、現実から逃避したくて、「たくさん映画をみた」という達成感を得たくて、半分義務のように感じながらも映画をたくさん観ていた。
 9月には「クライムズ・オブ・ザ・フューチャー」の公開をきっかけにデイヴィッド・クローネンバーグ作品にはまって、全部で10作品観た。技術とセックスの関係を、セクシュアルアイデンティティ(LGBTQ+など)の問題としてではなく、自己表現や、他人と交わすセクシュアルなコミュニケーションの内容の話として取り上げているところが面白い。主人公の男性が他の登場人物達と次々にセクシーなメタファーを結んでいく作品ばかりで、それを観るのが楽しかった。初期作品の「クラッシュ」と最新作の「クライムズ・オブ・ザ・フューチャー」は旧式のセックスとは違う方法で性的快楽を得る人たちを描いた映画で、私は自分が不感症であることが怖いのだと思ったし、性欲がなくなるのも怖い。
 「キャロル」と「ブロークバック・マウンテン」という私の中のゲイ映画2大巨塔を久々に観た。「キャロル」は、私が中高生のとき、あんなに素敵に見えていたキャロルが、ひどい女に思えて驚いた。キャロルはテレーズとの関係に集中しておらず、テレーズに寂しい思いをさせてばかりだ。でもキャロルは本当にセクシーで、観ていてずっとにやにやしてしまって、あらためてケイト・ブランシェットはすごいと思った。「ブロークバック・マウンテン」は何度観ても泣いてしまう。ずっとジャックから、家族から、人生から逃げてきたイニスが、最後には自分の人生に向き合えるようになる。娘の結婚式に行くというのはそういうことを象徴していると思う。ジャックが死んで、初めて自分の人生に向き合えるようになったというのが悲しい。

 今年は二次創作をたくさん書いた。数千字の短めのものばかりだったので、もっと長くてストーリーの展開がある作品も書きたい。

特に良かった映画

・雨に唄えば(1952)
・ブロークバック・マウンテン(2005)
・戦慄の絆(1988)
・首(2023)


舞台

 お笑い、ストリップ、音楽、演劇、ミュージカルなど、色々なジャンルの舞台を観た。唐組『透明人間』の考察を深めるのが楽しかった。井戸の中から出てきた女が男を引きずりこむシーンが目に焼きついている。劇中歌として使われていた「風は海から」を何度も口ずさんでしまう。水族館劇場の羽村公演を初めて観た。唐組のテント崩しは集中力の高い濃密な空気が薄膜を破り外へ弾けて消えていくようなイメージで、水族館劇場のテント崩しはそのまま舞台の地平線がどこまでも続いていくみたいだった。演劇をしながら生きていく人たちを観られてよかった。唐組若手公演で私服の稲荷卓郎を見かけて、彼は舞台上ではだしの指をうごめかせているイメージが強いから、合皮のハイカットのコンバースで足をしっかり包んでいたのが面白かった。
 今年も清水舞手を何回か観られて良かった。圧倒的な存在感と表現力で、いつも観たことがないようなすごいものを見せてくれる。歌舞伎超祭に行った。ヒールに下着でトー横を疾走する清水舞手を観られたし、東京QQQのパフォーマンスがどれも良かった。尖っているのに暖かく、自分の居場所だと思えるほど親しくはないけれど、でも観客と繋がっている。王城ビルのナラッキーでのパフォーマンスも良かった。スマホを構えて取っておきたいという気持ちと、目の前で起きていることを自分の目でみたいという気持ちとがどちらもあって、どちらを優先するのかが難しい。今はあとで見返すのが楽しいから、なるべく写真や動画に残すことができるものは残しておきたいと思う。パフォーマンスを見ているとき、「この場面を切り取ってインスタのストーリーに載せたら面白いよな」という視点を持っている自分に気が付く。
 舞台をみたり映画を観たりしていても常に他のことを考えてしまって目の前のものに集中できない時期があったが、ドレスコーズと50回転ズのツーマンライブを観て、久しぶりに没入感を味わった。ドレスコーズの出番では、ステージ前で人に揉まれながら志磨遼平の魅力を浴びた。50回転ズは初めて見るバンドで1曲も知らなかったけど、全力で腕を突きだしたり頭を振ったりジャンプしたりした。

美術系展示/美術館

 何年か前に芸大の卒業製作展で観た原澤亨輔の日本画を観る機会が何度かあって、一つ小さい絵を買った。ベッドの横に飾っている。彼の絵に頻出する雨と横断歩道のモチーフが好きなのに、晴れていて横断歩道もない作品を買った。銀座の歩行者天国にあるパラソルの下で向かい合って座っている2人の絵。
 ずっと楽しみにしていたエゴンシーレ展で買った、ほおずきのある自画像のトートバッグがお気に入りで、ほぼ毎日使っている。かなり汚れたけど、もう一枚予備を買ってあるから来年も使い続けていくつもりだ。
 私は海の絵、鳥の絵、ぐちゅぐちゅとした筆致の絵、黒く細い線で緻密に書き込まれた絵が好きなのだと気付いた。

特に良かった美術系展示/美術館

・エゴンシーレ展
・顕神の夢展
・テート美術館展
・犬島精錬所美術館

音楽、ポッドキャスト

 毎朝メイクをするときにお笑い芸人のポッドキャストを聞いている。真空ジェシカ、ヤ―レンズ、サツマカワRPG、たまにラランドの番組を聞いている。
 音楽を聞くとき、1曲にハマって飽きるまで聞いてを繰り返した結果、Spotifyのプレイリストが聞き飽きた曲だらけになっている。でも飽きたなと思いながら聞いている。なんだかんだSNSで流行った曲をまあまあ聞いている気がする。神保町のミロンガに通ううちに家でもタンゴを聞くようになった。

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