欲望という名の電車

沢尻エリカ目当てで新国立劇場で上演中の「欲望という名の電車」を観てきた。
伊藤英明と沢尻エリカが抱き合うメインビジュアルを観れば誰しも、二人の性愛にまつわる何かしらの出来事を期待するし、二人の性愛にまつわる決定的な何かが物語の山場になると想像するだろう。沢尻エリカ演じるブランチ・デュボアは、妹夫婦が暮らすフランスの田舎町に押しかける。いままで都会で阿婆擦れのように振る舞ってきたのを妹の夫によって暴露され、恋中だった優しい青年に誕生日の約束をすっぽかされた上に襲われかけ、遂に妹の夫(伊藤英明)に抱かれる。伊藤英明が言う「いつかこうなるって分かってただろ」は、デュボアに向かうセリフであり、また観客に向かって発せられるセリフでもある。

伊藤英明が沢尻エリカを押し倒すと舞台は暗転し、次に明転したとき、沢尻エリカ演じるデュボアが、完全に自分の妄想の世界に入り込んでしまったのがわかる。どこにも居場所がないという現実を受け入れられず、百万長者が迎えに来てくれる、という自分がついた嘘の世界に入り込んでしまうのだ(millionaireを直訳したら確かに百万長者だ、億万長者という言葉の方が聞き覚えがあるから、違和感満載だったけど)。そうして精神病院に行くことになったデュボアを見送って妹が慟哭する中、舞台装置は半分に割れ、奥に赤い背景と、線路が現れる。白いドレスを着た沢尻エリカがトランクと葬式花を持って微笑み、花びらが雪のように降る。ここが山場だった。
ポスターの雰囲気も屋台崩し的な演出も、私が大好きな唐組、アングラ演劇っぽくて楽しかった。

デュボアが「死ぬことの反対は欲望することでしょう」みたいなセリフを発するシーンがある。何らかの理由で身寄りも後ろ盾も失ってしまった彼女は、男達から欲望されることで、男達から欲望されることを欲望することで、なんとか生きてきた。でも男達から欲望されるののなんと虚しいことか、それに気づいてしまったから、現実への執着を捨ててしまったのだと思う。それでも彼女の欲望は、ミリオネアの男に欲望される、という形を取る。

この物語が、ループものとして演出されていたのだとしたらどうしよう、と怖くなった。だってブランチ・デュボアは、線路沿いをトランクを引っ張って登場したのだから。

沢尻エリカはセリフが聞き取りやすくて良かった。

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