フレームワークや思考ツールをうまく使いたい人はこの本を読め!
鈴木 宏昭「類似と思考 改訂版 (ちくま学芸文庫) 文庫」、筑摩書房; 改訂版(2020)
本書は、1996年に共立出版から刊行された「認知科学モノグラフ」シリーズの第1巻をほぼ、全面書き直した一冊である。
原版では、人の思考は、ルールだけではうまく表現できないという主張をした上で、人間の認知能力の一つである「類似」能力により思考が行われていることを主張していた。
本書はこの考え方を拡張し、
1.思考は規則、ルールに基づいたものではない
2.類似は思考を含めた認知全般を底支えしている
3.類似に基づく思考=類推は、三項関係で成立する
の3つを主張している。
印象に残るのは、はやり1.の主張である。1996年に前著が出たあとも、やはり、思考はルール、規則に基づくという考え方は根強く存在している。例えば、ビジネスの思考には、たくさんのフレームワークがあるが、ほとんどのフレームワークにはルールがある。それ故に、多くの人が使っている。
そこで、出てくるのが、MECEのような抽象化された思考ツールである。MECEはもれなく、重なりなく分析するという以外は何も決められていないツールである。MECEを使って行いたいことは現実の課題分析なので、その具体化は非常に難しい。これは、MECE分析をすると、人によって大きな差が出てくる所以である。だから、MECEを使っている限り、マッキンゼーのコンサルタントよりクオリティの高い課題分析ができることはまずない。
これはいわゆるフレームワークでも同じだ。
時代的に、MECEに代表されるロジカルシンキングのツールが注目されるようになってきたのは、正解のない時代と被っている。その中で、正解がないのだから、人によって違うのは当たり前だと考えられることが多い。しかし、研修で正解のある課題分析をMECEでやっても人によって(クオリティの)違いがある。この違いを生み出している理由が、この本のいう類似能力だと思われる。
実は、僕自身はこの主張に影響を受けている。コンセプチュアル思考というツールを開発し、研修で教えているが、10人中9人はルールはないのかという。MECEのマッキンゼーのようにネームバリューがあれば、そういうものだとして受け入れて貰えるが、なかなか、そうはいかないので苦労している。
それで仕方なく、対象分野を分けて、問題解決、意思決定、計画など、いくつかコンセプチュアル思考のルールを決めている。しかし、これは本質的に筋違いだと思っている。こんなルールを使っても思考しているとはいえない。
この本を読めば、どのように考えれば、フレームワークやツールをうまく使えるかが分かる。ぜひ、読んでみて欲しい。
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