【短編】冬休みの白雪姫

 学生時代に短編のお話いっぱい書いたことを思い出したので、ちまちま投稿することにしました。20分程度のラジオドラマ用の台本なので、微妙に物足りない部分があるかも。許して

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


輝く街道に冷たい風が吹き抜ける。カップルが進む道を俺は逆走していた。
鷹雨「…寒いな」
今日はクリスマス。しかし今の俺にとってはどうでもいいことだった。
鷹雨「これからどうするか…」
さっきから同じ言葉をずっと繰り返している。今の俺は何も持っていない…いや、なくしてしまった。羽を失った哀れな鷹だ。
(人とぶつかる音)
鷹雨「いてっ」
カップル男「あ、すんません」
カップル女「ねー早くいこーよ」
カップル男「おう」
鷹雨「みっともないな…俺」
服に着いた雪を払い落とす。なんだかいたたまれなくなって、脇道へと進む。そこには小さな公園があった。
鷹雨「…座るか。あー、さむ」
??「ねぇ」

――その公園が、始まり

??「こんな日にここに来るってことは、一人だってことだよね?」
??「実は私もなんだ。同い年くらいだし…一緒に遊ぼうよ!」

――彼女との出会いが、始まり。

鷹雨「…誰だ?名前は?」
??「私?私はね…」
雪華「白鷺雪華!シラユキって呼んでね!」

――奇跡の冬休みの、始まり。

雪華「ねぇ、君の名前を教えてよ」
鷹雨「…鷹雨。黒羽鷹雨」
雪華「じゃあクロタカだね!」
鷹雨「…シラユキって言ったか?何でこんなところに一人で?」
雪華「君こそ、何で一人でいるのかな?今日はクリスマスだよ」
鷹雨「別に…ただの家出だよ」
雪華「そっかぁ~…。じゃあ、しばらく家には帰らないの?」
鷹雨「…そのつもり。つまらない意地だけどな」
雪華「へぇ~、泊まる場所にあてはあるのかな?」
鷹雨「…ないけど」
雪華「じゃあちょうどいいや!私の秘密基地においでよ!冬休みの間だけ、ずっと一緒に遊ぼう!」
鷹雨「…なぁ、どうして俺を気にかけるんだ?それにさっきの俺の質問にも答えてもらってない」
雪華「そうだっけ?別に大した理由じゃないよ。それにお互いに独り者だし、別にいいじゃん」
鷹雨「…まぁ、泊まれる場所ならありがたいけどな」
雪華「はい決まり!それじゃあ私に着いてきて!暗いし滑るから気を付けてね」
鷹雨「…強引なやつだ」
雪華「これからよろしくね、クロタカ!」
鷹雨「まぁ、しょうがねぇか。俺の冬休み、おまえにやるよ」
雪華「あは、嬉しいな!」

暗い雪道を二人で歩く。シラユキは慣れた足取りでスイスイと進んでいく。俺にとっては知らない道だったので必死に後を追う。
鷹雨「おい、どこまで行くんだよ」
雪華「もう着くよ!ほら!」
鷹雨「これ…小屋か?これが秘密基地なのか?」
雪華「そうだよ!立派でしょ!内装も頑張って充実させたんだ」
鷹雨「…本当だ。よくここまでやったな」
雪華「えへへ、楽しい冬休みにしたかったからね!」
鷹雨「それだけのためにか…?変な奴」
雪華「私にとっては大切なことだから」
鷹雨「は?」
雪華「今日はもう遅いしもう寝よっか。明日からたくさん遊ぼう!」
鷹雨「…不思議なクリスマスだったな」
雪華「ふふ、おやすみ」
鷹雨「あ、ああ…」

その日から二人の冬休みは始まった。
雪華「冬っぽいことをしようよ!」
鷹雨「冬っぽいことって…雪合戦とかか?」
雪華「それいいね!」
鷹雨「あーでもクリスマスっぽいことも結局してないよな」
雪華「それもいいね!全部しようよ!」
鷹雨「…正気か?」
雪華「当然!冬休みは長くないんだし、時間がもったいないよ!」

クリスマスっぽいということでケーキを二人で食べたり、冬っぽいということで雪だるまを作ったり…そういう日が続く

雪華「冬休みはあっという間だよ!次は何をしよっか!」

冬を純粋に目一杯楽しむ雪華の姿が…俺にはまぶしかった。
それは美しく…どこか儚いものでもあったが。

鷹雨「なあ、どうしてそんなに冬に拘るんだ?」
雪華「ん?どういうこと?」
鷹雨「別に冬じゃなくなって、春も夏もあるだろう」
雪華「うーん…そうだなぁ」
雪華「冬休みってさ、特別な感じしない?」
鷹雨「…俺は長期休みは全部特別に感じるよ」
雪華「冬休みは他の長期休暇に比べて短いでしょ?」
鷹雨「それはまぁ…」
雪華「でもその休みの中に、クリスマスとか年越しとか…大きな出来事がいっぱいあるじゃない?」
鷹雨「それもまぁ…確かにな」
雪華「冬休みは短いけども…なくてはならないもの」
雪華「だからこそ、その一日を大切にしたいんだよ」
雪華「それに私には…」
鷹雨「ん…?」
雪華「んーん、何でもない!次は何して遊ぼうかっ!」
鷹雨「そうだなぁ…」

またそうして冬休みを過ごす…。

雪華「ねね、クロタカ!年越しは何をしよっか!」
鷹雨「そういうシラユキは何をしたいんだ?」
雪華「んー…せっかくだしお参りでも?」
鷹雨「初詣か。それもいいかもな」

今まで体験したことのない冬休み。
その時を一緒に過ごすシラユキ…。
俺は間違いなく彼女に惹かれていた。

しかし、時間は進む。冬休みは、終わりへの道を進む。

鷹雨「冬休みもあと一週間だな」
雪華「うん…そうだね」
鷹雨「今日は何をしようか。やりたいことはないのか?」
雪華「う~んいっぱいあるんだけど…」
鷹雨「それならそれをやろう」
雪華「あの…その前に大切な話があって…」
鷹雨「大切な話?」
雪華「私…冬休みが終わったらいなくなっちゃうんだ」
鷹雨「え…」
雪華「そのことを言っておきたくて」
鷹雨「てことは…冬休みが終わったら会えなくなるのか?」
雪華「うん…ごめんね」
鷹雨「どうしても?」
雪華「うん…ごめん…ね…」
鷹雨「お、おい…お前が泣くなよ」
雪華「…ごめんね」
鷹雨「会えなくなるのは寂しいけどさ…まだ一週間あるんだ」
鷹雨「ならこの一週間でできることを精一杯やろうぜ」
雪華「…そうだね」
雪華「ありがとう。クロタカは優しいね」
鷹雨「ったく…意外と泣き虫なんだな」
雪華「な、なにをー!」
鷹雨「それにこの冬休みはシラユキと一緒に過ごすって決めてるからな。最初に言っただろ?俺の冬休みをあげるって」
雪華「あ…、そうだったね」
雪華「うん、やっぱり優しいね」
鷹雨「…で、今日は何をするんだ?」
雪華「あはは、冬っぽいことはだいたいやっちゃったし、今日からは冬っぽくないことをしたいな」
鷹雨「冬っぽくないこと?例えば?」
雪華「花火とか!」
鷹雨「おおう…ほんとに冬っぽくないな」
雪華「今日だけじゃなくて、明日からもそういうことをしたいな」
雪華「冬休みは後一週間だけど…その一週間で一年分、クロタカと遊びたいんだ」
鷹雨「そういうことなら…うん、付き合うぞ」
鷹雨「悔いのない冬休みにしないとな」
雪華「…本当に、ありがとうね」

残りの冬休みで、俺たちは一年分を遊ぶことにした。

――花火
鷹雨「冬の花火も乙なもんだな」
雪華「…綺麗」

――花見
鷹雨「…枯れ木しかないけど」
雪華「これじゃあ雪見だね」

――ハロウィン
雪華「がおー!たーべちゃうぞー!」
鷹雨「そこは悪戯するぞじゃないのか?」
雪華「あれ?そうなの?」
鷹雨「まぁ、似たようなもんか」

ーー海水浴
雪華「うっ…さすがに冷たいね」
鷹雨「これは風邪ひくな…」
雪華「流石に冬にこれは無謀だったね」

ーーー俺とシラユキの一年分の冬休みはいよいよ終わりを迎えようとしていた。


鷹雨「…今日ももう終わりか」
鷹雨「冬休みも…明日で終わりだ」
雪華「…クロタカ」
鷹雨「…どうした?神妙な顔して」
雪華「明日でお別れ…寂しいなって」
鷹雨「ああ…だから悔いのない冬休みにしようって」
雪華「今晩はさ、私の事を知ってほしいんだ」
鷹雨「シラユキのことを?」
雪華「ずっと覚悟してたことだけど…やっぱりいざその時になるととても辛くて…」
雪華「冬休みが終わって…私と会えなくなっても…私のこと、忘れないで欲しいから」
雪華「だから、私の事を知って欲しいんだ」
鷹雨「…そういうことなら、喜んで」
雪華「クロタカはさ、最初に私にした質問を覚えてる?」
鷹雨「…どうして一人でいるのかってやつだな」
鷹雨「そういえばその質問にもまだ答えてもらってなかったな」
雪華「その答えを…今日言うよ」
雪華「クロタカは…童話の白雪姫を知っているかな?」
鷹雨「何となくは知ってる。毒リンゴを食べて眠った白雪姫が王子のキスで目覚める話だよな?」
雪華「私は、その白雪姫と同じなの」
鷹雨「は?」
雪華「童話の白雪姫を簡単に言うと…『美しかった白雪姫をその母が妬み、様々な手を使って殺そうとした。最終的に仮死状態になった白雪姫を王子様が救った』…こんな感じ」
雪華「途中で7人の小人とかも出てくるけどね」
鷹雨「その物語と、シラユキが同じということなのか?」
雪華「私も…母に妬まれて、流石に殺されはしなかったけど…過度ないじめを受けたんだ」
鷹雨「…それで、この冬休みに逃げ出してきたってことか?」
雪華「うーん、残念ながら逃げ出せなかったんだよね」
鷹雨「???」
雪華「…母の長いいじめは時期を問わずずっと続いてね」
雪華「それはもう…行事を楽しむ暇もなく、ただただ苦痛の毎日」
雪華「そんな苦痛の毎日でも、冬の季節だけは他の時期よりも耐えられた」
雪華「雪で傷口を冷やして、その冷たさが生きていることを実感させてくれて…」
雪華「でも、孤独には勝てなかったね。その白雪姫はある年の冬に眠りについたんだ」
鷹雨「眠りについた…ってどういう意味だよ…」
雪華「そのままの意味だよ。眠ってしまった白雪姫は、夢の中でずっと待っていたんだ」
雪華「今まで遊べなかった分一緒に遊べる友達。ううん、王子様」
雪華「私には7人の小人はいなかったから、せめて王子様だけでもって。夢見る少女の…お願い」
雪華「だからこの冬休みに、私を目覚めさせてくれる王子様を、白雪姫をこの公園で待ってたんだ」
雪華「そしてなんと!その王子様は私の夢に現れたんだよ!」
雪華「その王子様は私の我儘に付き合ってくれて、冬休みどころか、今まで体験できなかった一年を一緒に過ごしてくれたんだ!」
雪華「嬉しかったなぁ…。ありがとう王子様」
鷹雨「…どういたしましてで、いいのか?」
鷹雨「シラユキにそんな事情があったなんて知らなかった」
雪華「あはは、どうだったかな?」
鷹雨「どう…ってよりも疑問な点がいくつかある」
鷹雨「シラユキは…夢の中で王子様を待っていたんだよな?話の流れからして、その王子様はきっと…」
雪華「うん、クロタカだよ」
鷹雨「なら…ここはシラユキの夢の中なのか?」
雪華「そうだけど…そうじゃないのかも。クロタカが私の夢の中に来たんじゃなくて、現実に私の夢がやってきたんだよ」
鷹雨「???余計意味がわからんが…」
雪華「結局、私からしたらここは夢の中で、クロタカからしたらまぎれもない現実なんだよ」
鷹雨「なら、シラユキが夢から覚めたらどうなるんだ?」
雪華「それがこの冬休みの終わり。夢が覚めるから、私はいなくなるんだよ」
鷹雨「…だから冬休みが終わったら会えなくなるってことなのか」
雪華「そういうことだよ…」
雪華「…聞いてくれてありがとう。明日でお別れになっちゃうけど…楽しかった」
鷹雨「そうか…明日、なんだな…」
雪華「うん、明日だ」
雪華「王子様、私に、一年分の冬休みを楽しませてくれて、ありがとう」
雪華「白雪姫はまだ眠ったままだけど、夢の中で目覚められたから、幸せだ」
鷹雨「そうか…」
雪華「…あは、全部話せばスッキリするかと思ってたけどそうでもないね」
雪華「やっぱり…クロタカと別れるのは寂しいよ」
雪華「王子様と別れるのは…悲しいよ」
鷹雨「…俺も、だよ」
鷹雨「俺も…シラユキと別れるのは寂しい。悲しい」
雪華「…本当?」
鷹雨「こんな楽しい冬休み…今まで体験したことなかったし」
鷹雨「シラユキと過ごす冬休みは…俺にとってかけがえないのない…」
鷹雨「かけがえのない…大切な…」
雪華「…クロタカ、泣いてるの?」
鷹雨「当たり前だろ…そういうシラユキだって…泣いてる」
雪華「…うん、そうだね。泣き虫だ」
鷹雨「お互いにな」
雪華「あはは!」
雪華「この冬休みの思い出、忘れないでね」
鷹雨「忘れないよ…。忘れるわけ、ないだろ…」
雪華「ねぇ、最後の一日は笑って過ごそうよ!」
雪華「その方が…私も嬉しい」
鷹雨「…泣きながら言うなよ…説得力無いぞ」
雪華「クロタカもずっと泣いてそうだね…」
雪華「…涙は寂しいお別れだから」
雪華「泣かないで」
鷹雨「ああ…そうだな。楽しい一日に…しないとな…」


――冬休みは終わり、春の兆しが見えてくる。
鷹雨「ふー…まだ冷えるな」
俺はかつて彼女と歩いた道を一人で歩く。
鷹雨「…そういえば、あのイベントはやってなかったな」
冬休みが始まった公園へとたどり着く。
鷹雨「夢…じゃない。大切な思い出だよ、シラユキ」
鷹雨「次に会えたらもっといろんなことをしような。特にバレンタイン。俺はお前からチョコが欲しいよ」
吐き出した言葉は澄んだ空へと消えていく。
鷹雨「また、な…」
俺もそれを追うように公園を後にした。


――バレンタイン、かぁ。
――それならホワイトデーもしないとね!
――クロタカとの思い出は、数週間の冬休みじゃ足りないよ。
――だから、また、白雪姫に夢を見せてね
――王子様、待ってるよ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?