チカラ強さと しなやかさと 気持ち良さと|sioのトリセツ
思わず走り出したくなるような、高揚感のある10皿。
10月13日から装い新たに、秋の新コース。
※今月のコースのネタバレになります。内容をご覧になりたくない方はこれ以上は読み進めないよう、よろしくお願いいたします。
レストランsioは塩加減にこだわり、美味しさを追求する。
sioは、
s しゅうさく
i いつも
o おいしい
の略である。
今回も3、4、5皿目のクリーンナップが活きるように編む。
はじめは必ず、シンプルなスープから。
1皿目 舞茸香るコンソメ
″肌寒い中、ありがとうございます″
舞茸の香りと、コンソメの旨味と塩味を点で合わせた始まりの一皿。
やさしい味わいと秋を感じさせる舞茸の香り。期待感が高まる温かいスープ。
2皿目 シン・馬肉のタルタル
僕らのスペシャリテ。
味わいは、甘くて酸っぱくてしょっぱい。
自家製の食パンで作ったラスクの上に、鮎魚醤はちみつ卵黄で馬肉のタルタル、クミンの香りを纏わせたビーツのラペ。
全体のバランスにこだわり、ブラッシュアップされた一皿。
3皿目 スフレオムレツ
イタリアン出身のシェフは、シンプルに素材の美味しさを楽しんでいただく料理も必ず用意します。
今回はスフレオムレツ。フォンダンショコラのように、中は半熟とろりと卵が流れでます。
生クリームのまろやかさ、チーズのコク、ビネガーの心地よい酸、トリュフオイルの香りも熱々のオムレツと合わさり至福の美味しさ。
ルルソールさんのフォカッチャをソースにつければ最上級のフレンチトースト、とでも言いましょうか。悶絶です。
4皿目 フォアグラマロンのクレープ
今回のコースの4番打者。
シンプルな美味しさに続くは、複雑で奥行きのある味わい。通称、5味+1。
チョコクレープに、ブルーベリージャム、黒いちじくのサラダ、バナナ、栗甘露煮、レバーペースト、キャトルエピス、コーヒーパウダー、そこにこんがり焼き上げたフォアグラを乗せ包み、食感のアクセントにごぼうのチップス。栗の泡と黒トリュフの2種類のソースをあしらう。
甘じょっぱいをおふくろの味とするのであれば、食べたことない衝撃の甘さとしょっぱさの応酬の中、苦味や酸味そして香りもふわっと押し寄せる。これを僕らは、ネオおふくろの味とも呼んでいる。
今回のコースは、この時点で相当の満足感があるが、真の衝撃は次の皿にある。
5皿目 根セロリのラビオリ
真打ち登場。
根セロリとじゃがいもの甘さ、りんごと根セロリのサラダが気持ち良い。
自家製のラビオリは歯切れの良い食感がこだわり、なめらかなピューレとのコントラストがたまらない。
3皿目は ″動″
4皿目は ″重なり″
イタリアン、フレンチの良さを踏襲しながら、自分らのイズムを纏わせていく。
余裕がある間に情報量のある=力強いお皿を食べていただく。
異なる力強さのお皿は、ストレスがかかる。
そのストレスを解放する水風呂のような、爽やかさ。コースとして、サウナ理論を取り入れたコース展開。
今回のコースで1番気持ちが良い皿だ。
6皿目 鰆のポワレ味噌ヴァンブラン
西京焼きの分解再構築。
しっとりと焼き上げた鰆に合わせるのは西京味噌と蛤で旨味を加えたヴァンブランソース。
蓮根の酢漬けがアクセントとなり、旨味を受け止めながらさっぱりといただける一皿。
7皿目 岩中豚のローストンカツ
アカリヤスからチラリと覗くピンク色の断面。
レストランの豚カツは驚くほど柔らかい。鋭いナイフは、スッと切り離す。それもそのはず、プロの研ぎ師に僕らはメンテナンスをお願いしているのだ。
包丁と同じほどに切れるナイフでメインのお肉料理を提供している。
奥に隠された白と黄のソース。
まろやかなブラータチーズとタスマニアマスタードの酸味と食感。黒にんにくのピューレで遊ばせながらペロりと平らげた過去最強の豚カツ。
8皿目 きのこのタリアテッレ
水分を飛ばしながら旨味を凝縮させた様々なキノコのソテーに合わせるのはバターとクリームでシンプルに和えたタリアテッレ。歯切れの良い食感でまとめ上げたこの皿は噛めば噛むほど馴染みが出てきて不思議な感覚すらある。確かめるように食べ進めればいつの間にかなくなり残るのは口福感だ。
8皿目+α 雲丹のタリオリーニ
良い雲丹が入った際にオプションでいただけるのは、甘みを最大限に引き出すためにティエド(あえて温く)仕上げたタリオリーニ。
バターと鮎魚醤の間違いない組み合わせ。ベストオブ甘じょっぱうま。タリアテッレも慈悲深く食べていただきたい美味しさだがこちらも間違いなく食べた方が良いパスタ。悩ましい選択をさせて申し訳ないほどである。
9皿目 ブラックオリーブガトー
粉砕したガトーショコラ、そばの実、キャラメリゼしたヘーゼルナッツ、フランボワーズビネガー、ブラックオリーブにオリーブオイル。全体をまとめるのはマスカルポーネチーズ。
鳥羽が得意とする5味+1を搭載したお口直しは、今回もリズムがあり楽しい一皿である。
10皿目 sioアイス
ブリアサヴァランという白黴タイプのチーズを使用したミルクジェラート。こだわったのはなめらかな口どけ。お客様の来店に合わせて都度作り上げるスペシャリテのデザートは全十皿を力強く締める理由がある。
それは、絶妙な″sio″加減。
素材の味を活かしたシンプルなスープは、味わいを探しに行かせる。旅の初めにふさわしい優しさは、チェンジアップの後のストレートや変化球は効き目があるように、前後に必然性を持たせる。
最後に正統派のクローザーで締め括るのがレストランsioなのだ。
あらためて思う。
皿一つの中にも、コース全体にも文脈があるからこそ、伝えたいことがたくさんある。
考え得る全てを尽くして、美味しさを届け切りたい。
結局、いつも美味しい、ってそこなんです。
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