エッセイ「最後の秘境 東京藝大—天才たちのカオスな日常—」二宮敦人
漫画版を先に読んでいて、面白かったのでエッセイも読んでみました。
漫画版にはなかったエピソードや、著者の思いなどを知ることができました。
著者は主にホラー小説やエンタメ小説を書いている作家で、著者の奥さんは東京藝大で彫刻を学んでいる学生です。
著者が日々原稿を書く横で、奥さんは何かを作っています。あるときは大きな木彫りの陸亀、あるときは自分の等身大全身像。
執筆作業には静かなイメージ、ノミと木づちでドカドカ木材を掘るには動のイメージがありますが、「なにかを生み出す」という仕事(奥さんは学業ですが)は一緒ですね。
木彫りの陸亀の甲羅にフェルトを貼って座れるようにする計画の理由を著者に聞かれて、「亀に座れたら楽しいからねえ」と答えた奥さん、絶対良い人だと思う。亀に座れたら楽しい、これは絶対にその通り。
そんな楽しいものを企画から製作まで、全部自分でこなせてしまう奥さん、かっこいいよ……!!
藝大には音楽を専攻する音楽学部(通称:音校)と、美術を専攻する美術学部(美校)があって、なんとなく予想していたけど、音校の学生は小綺麗で、美校はいろんな意味で個性的。なんとなく、わかるよ。
藝大は入るのが難しくて有名で、実際3浪くらいは当たり前にいる世界。なぜそんなに入るのが難しいかって、学生数が極端に少ない。
音楽学部が計948人、美術学部が計936人。数字が大きいからそれほど少なく感じないけど、入学定員で見ると、美術学部は7学科に対し234人。音楽学部は指揮科は1学年2人、器楽科は21種類の楽器専攻に対し98人。
藝大に入った人、みんながみんなトップガン。少数精鋭。すごい。
よく「美大や音大に行く人は実家が太い」「自分の芸で売れなくても学校の先生になれば、ずっと好きなことができるからいいよね」とかいう人がいるけど、とんでもない。
実家が太くてお金に余裕があったところで、本人が死ぬほど努力しないと藝大には入れないし、美術教師だって各校に1人か2人しかいないから、そもそも求人がない。
潰しのきく芸術なんてない。みんな死ぬ気で芸を磨いている。
この本では著者の奥さん以外にも、藝大を卒業した人や、目指した人の話がたくさん書かれています。
肩を壊して藝大をあきらめた人、元ホストクラブ経営者の日本画家、口笛世界チャンピオンなど。1人ずつ本が書けるくらい、濃い人生を歩んでいます。
わたしは至って平凡な大学を出て、平凡に就職して、平凡に退職して、平凡に専業主婦をやっているので、この本で藝大の日常を垣間見て、もう驚きの連続でした。すごいなあ。
自分の知らない世界を知ることができる、読書の醍醐味を味わえる本でした。面白かった☺
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