さみしい夜の死体を隠して

午前三時、台所、もきゅもきゅとちくわを食べていると、なんだか悲しくなってきて、またそれに気付かないふりをして、からしを付け、しばらくの間食べ続けた。ひどくさみしい夜。二十年早いやさぐれ方をしながら、俺はどこに向かっているのだろうと思った。三時間の映画を観終わるともう誰も起きていなくて、その映画の考察サイトなんかを見ているうちに、この世界に存在しているのは俺ひとりなんじゃないかって深夜にありがちな虚しさを覚え、冷蔵庫を開けた。冷蔵庫の中身は昼間と同じように疎らで、だけどその箱は冷たい台所の隅でひとり、昼間には出さない声で泣いているようにも思えた。いつも起きてる友達も今日は多分眠ってしまったみたいで、夜を共有する相手がいないさみしさに少し参りそうになる。部屋に戻ってもう一本映画を観ようとしたけど、なんとなく気が乗らなくて、文を書くことにした。夜は思いの外短い。四時にもなれば少しずつ朝の空気が漂ってくるし、三時半という時間は残り三十分で夜を裏切る、その合図のようだった。学習机のライトだけが、太平洋に浮かぶ孤島の灯台みたいに夜を照らしている。俺の部屋の面積に対していささか立派すぎる暖房が頭上から息を吹きかけてきて、その生ぬるい風は俺の唇をひどく乾かした。唇を舌の先で舐めると瞬間的に潤いを取り戻したが、またすぐに乾燥状態に戻る。リップクリームを塗る気にもなれなかった。そのうちに目も乾いてきた。これは眠気かもしれない。瞳が熱く、だんだんと質量を帯びていく。一回一回の瞬きが長くなってくる。しかし俺はまだ文を書いていたくて、眠気を振り払うように目を見開いた。乾いた風が当たる。暖房が強風設定になっていたことに気付いて、微風に直した。吹きかける息とその音が随分頼りなくなったが、この部屋にはそれくらいがちょうどよかった。強風設定では部屋を暖めすぎるし、何よりうるさい。その音が消えてしまうと、余命の少なくなった夜が最後の力を振り絞るように襲いかかってきて、またひどい孤独感に包まれた。だけどそれはどこか、やさしさすら孕んでいるように思えた。走る車の音が夜を切り裂く。時計を見ると、既に四時を過ぎていた。もう朝は目の前だった。そして俺は、夜の死体を抱きかかえるようにして、四時半、ベッドに潜り込んだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?