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読書メモ 『チョーク!』チャック・パラニューク

『チョーク!』(チャック・パラニューク 著, 池田 真紀子 訳)

 別れ際になると嫌になるくらい魅力的になる、でも普段は退屈、そういう種類の人っている。そのとき最後に記憶に残るのは、やっぱり途中のつまらない日々ではなく、結末の鮮やかさだったり、別れ際の泣き顔だったり、笑顔だったりするんじゃないだろうか。

『チョーク!』では、著者のこだわりである母子家庭での男子、セックス依存症、(『ファイト・クラブ』の高級石鹸のような)社会を裏からハックする収入の得方、がやっぱり前面に出てくる。Kindleのページを左スワイプをしながらTinder風にNOPEと言いたくなる時もあった。

タイトルとなっているチョークは「窒息する」という意味だ。主人公は毎晩何件もレストランを訪れ、子供のころに体験した食事を喉に詰まらせる状況を再現する。慌てふためいてレスキューする人たちは、彼の命の恩人となり「レストランで食事をしていたときに息をつまらせた青年を救ったんだ」というヒーローの物語を与えられる。救った人たちには丁寧に御礼状を送り、クリスマスカードを交換する。なになに、生活に困っている? じゃあちょっと小切手を送るよ、とにかく元気でね。そうやって稼いだ金で主人公はアルツハイマー型認知症で入院している母親の費用を捻出している。

全体の4/5は、合う合わないでいうなら合わなかったし、小説としてグッとくる部分もなかったけれど最後がとても良い。そんな?! 最後だけ良けりゃいいんですか? 途中は? 過程は? と理知的に聞かれると、答えに困る。でもそういう時にいい言葉がある。嫌いになれない。

『ファイト・クラブ』映画版の鮮やかなエンディングのように、嵐の後にとても静かな終わりを迎える。もうこれ以上悪くなることはないだろう。物事が一段落して、真夜中の爽やかな気分にちょっとした再会が添えられると――たとえそれがズボンをクソまみれにしながらの出会いでも――なんだかこれからいいことが待っているんじゃないかという気がする。嫌いじゃないぜ、そういうの。



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