米軍ヘリ低空飛行と羽田空港とオリパラ

 今年の夏は都心部を米軍ヘリが度々、低空飛行して問題となりました。
 そして、その背景には日米地位協定という不平等条約があることは、多くの方がすで指摘されているところです。
 しかし、実はこの事態の背後には日本政府の重大な失態があると言うことがどれほど指摘されているのか、やや心配なので若干、コメントします。

 内田百閒の大正から昭和初期にかけての飛行機関係の随筆を読むと分かるように、当時の飛行機には事故が多かったし、世間的にも大変、危険な乗り物と考えられていました。
 だからこそ、事故防止の観点からも、また、陛下の頭上を飛び回ることは不敬であるという議論からも都心から遠く離れた調布に飛行場が設けられたのです。
 やがて、戦後になって米軍が羽田の漁民を強制退去させ、広大な土地を接収して飛行場を建設し、今日に至って、我が国最大の空港となったわけですが、その間にも事故防止や騒音対策の観点から、都心部を飛行して離着陸する経路はずっと設けられませんでした。

 その結果、羽田に着陸する場合は南側または東側の海上から低空進入するする経路、また、離陸する場合は南側または東側の海上に離陸して海上で高度を上げるか、北側に離陸直後に東側の海上に旋回しながら高度を上げるかの経路が運用されてきました。
 しかし、2020年のオリパラにたくさんの観光客を誘致しようとしているのに、この経路だけでは現状よりも離発着数を増やすことは難しい、という話になったときに、日本政府はどうしたか。
 
 今まで設けたことの無かった、都心上空を低空で飛行させて離発着する経路を開設することにしたのです。

 昨年のオリパラは延長になりましたし、今年もコロナの影響で離発着数が激増することは無かったので、実際にはこの新しい経路が運用された回数は僅かしか無かったと思いますが*、問題は、いつ突然、この経路が運用されるのか分からない、ということです。

 羽田空港の離発着の経路は、羽田空港の管制塔が気象条件や空港施設の都合で独自に判断していますので、突然、問題の新しい経路が運用される可能性は排除できません。

 まして、オリパラ期間が迫ってきた今年の夏になれば、都心上空に民間機が進入してくる可能性が高くなると、普通の頭の人ならみんな思うでしょうし、都心に侵入してくる米軍ヘリとしても、従来の高度を飛んでいて羽田を離着陸する民間機と接触するような事態はなんとしても避けたいと思うでしょう。

 もちろん羽田の運用状況はリアルタムで無線放送(128.8Mhz)されているので、戦闘機なら迅速に行動して危険回避できるでしょうが、ヘリコプターにはそれは難しいので、当然、あらかじめ低空飛行して危険回避するしかない、と言う結果になります。

 都心を低空で侵入する経路を開設しようとした日本政府は、2015年頃から住民説明を行ったり、航空業界との調整を進めてきました。

 当然、そのプロセスの中で、米軍ヘリの低空飛行問題が生ずることは予見できたはずだし、ひょっとすると米軍から事前に警告があったかもしれません。

 それでなくとも、パイロット達からは着陸時の進入角度が高すぎると、危険を指摘する声もあったようですし、国土交通省の航空管制官達にはこうなることが、最初から分かっていたはずです。

 そうした現場の声を聴くことなく、都心上空の航空路開設を強行した結果、米軍ヘリの問題を引き起こした政府与党の失態の責任はけして小さくないのです。

*Flightrader24というサイトを見たり、VHFを聴けるラジオで128.8Mhzの羽田空港の運用情報を聞けば、どんな経路で離着陸させているかが、リアルタイムで分かります。


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