スリバチ地形、下からみるか、上からみるか。~元麻布で掃除してるおじさんがチリトリ片手に1時間道案内してくれた話
こんばんわ。
来年故郷の新潟移住をひかえているトレイルランナーです。
松本泰生著『東京の階段』掲載の126の階段を巡り、そこを走ることで移住前の想い出づくりをしています。
『東京の階段』は2007年発行なので、すでに開発で消滅してしまった階段も結構あります。
先日、元麻布へ階段ツアーに出たのですが、どうしてもこの階段が見つかりません。「元麻布・木戸のある階段」(著者命名)
町内をぐるぐる回っていると、道端をほうきではいているおじさんを発見。明らかに地元民のいでたち。これは聞いてみようと思いました。しかしコロナ感染もあるので、遠慮がちに、少し離れたところから声をかけてみました。
「すみません。この近くにこの階段はありませんか?」(本の写真をみせる)
眼鏡をはずして本をのぞき込んで、「ああ、これはね、なくなったったんですよ」
やっぱり。
「どこら辺にあったか教えていただけますか?」
指さして「あの台上に、いくつか新しい家が建っているでしょ?あのあたり。案内しましょうか?」
コロナもあるし、掃除中に悪いと思いつつも、これも何かの縁。本人あまり気にしてないようですし。階段巡りをして地元の方と交流するのもこれがはじめてということもあり、お言葉に甘えていろいろ話をきかせていただくことにしました。
おじさんは、拾ったごみが入ったチリトリとホウキを持ったまま、案内してくれました。
いわく、もう3代もこの元麻布に住んでいて、同級生はみな家を売って出ていったとか。
また麻布というと高級住宅街・外国人が住む街というイメージがあるが、山の上と下では生活者が異なる。もともと台上はお殿様、下は庶民が住んでいて二極化していたと。
近くの麻布十番も今はブランド力のある街だが、もともとは災害のたびに庶民が押し寄せる避難場所だったとか。関東大震災の話をしてました。おじさんもまだ生まれていないはずだが?
このおじさんの自宅の前も通りましたが、ただ古いというだけでなく、意思をもって建て替えない気概を感じる渋い外観でした。
さて、このおじさんに声かけてつくづくよかったと思えたのは、地元民でなくては絶対足を踏み入れられない、私有地に入れたこと。「木戸のある階段」があったところに新築中の家も、完全に私有地ですが、どかどか入っていきます。(地元民でもNGでは?)
「ここらへんに木戸があって、みんなこんな風に開けて通ったんだよ」
戸を開けるジェスチャーまでしてくれます。
これで目的は果たせました。お別れしようとお礼を伝えましたが、おじさん、私が古い街ウオッチャーだと思ったのか、もっと面白い場所があると案内し始めました。
まず、地元民でしか知りえないようにな、極細の下水道上の道=暗渠をとおり、
元麻布のくぼ地にある長屋に連れて行ってくれました。
映画のセットかと思えるような住居群。こんな街並みが都心の残っているのが不思議です。スリバチ状の台上は高級マンションに取り囲まれており、そのコントラストは見事です。
大正時代からある建物もあるそうですが、中にはカフェがあったり、ものづくりのショップがあったり、この景観を逆手にとって?力強く生活していることがうかがえます。外国人も好んで住んでいるようです。
ふと学生時代、この台上のマンションで家庭教師のバイトをしていたのを思い出しました。お医者さんの家でした。その時にこの長屋エリアを見おろした記憶があり、なにかみてはいけないものを見てしまったような居心地の悪さを感じたのを覚えています。
あれは、自分が台上側の人間としてみていたのでしょうか。。。
そこから、また私道の階段をどかどかと上ってお寺に連れて行ってくれたり、タモリが訪ねたという江戸時代からあるため池がに案内してくれました。(マンション敷地内で見えなかったですが)
スリバチ地形の上をぐるっとまわったところで、六本木ヒルズを指差し、
「あれ邪魔なんだよね。」
日本を代表するランドマークも、子供のころからみなれたせっかくの眺望を遮るものでしかないようです。
気が付くと、このおじさんに1時間も案内してもらっていました。
階段もそうですが、下からみるのと上からみるので、位相が全く変わってきます。高低差の地形を体感するということは、複眼的に物事を見る眼を養ってくれますね。
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