実は知られていない? 陶器のできるまで
陶器は誰でも使ったことのある、身近なものだと思います。
ただ、「制作に時間がかかることが理解されていないな」と感じる場面が多く、もしかしたらどうやってつくられているのか詳しくは知らない方が多いのかもしれないと思っていました。
陶芸をやっている人にとっては当たり前すぎて別段語られない、基本的な制作工程について書いてみることにします。
1.つくり
伝統的な窯業地の陶芸家さんなどは、山から採取した原土から陶土をつくってきました。そのため、良い土が取れることが、良い窯業地となる条件の一つだったわけです。
しかし個人の陶芸作家さんは陶土メーカーから購入していることが多いですし、私も土からつくっているわけではないので、「陶土がある」という状態から書いていきます。
最初に陶土を練って空気を出し、水分量を均一にしたら、形をつくっていきます。たぶんここが一番テレビなどで見たことがある陶芸の工程なのではないかと思います。
「一般的にイメージされる陶芸=電動ロクロ」になっているように思いますが、土を均一の厚さの板状に伸ばして切り出したパーツからつくっていくタタラ、ケーキ台のように手動で回転させる手回しロクロと、主に3種類の作り方があります。
このつくりの工程にどれくらい時間がかかるかは、つくるものの難易度とつくり方によって大きく違ってきます。
コップやお茶碗のようなそれほど大きくない(極小でもない)正円を電動ロクロで引くだけならば、数分〜数十分でできてしまいます。
タタラでたくさんのパーツを接着していくような場合は、何日もかかることもあります。
2.削り、接着
オブジェなどでは最初のつくりの段階で成型を完了できる場合もありますが、基本的に器の高台(底面)は、削り出していきます。
つくりの段階では陶土が柔らかくないと成型できませんが、削りではせっかくつくった形を歪めないためと、そもそも柔らかいと削りづらいということもあり、半乾き程度に乾燥させる必要があります。カチカチに乾燥させるのも固すぎて削れなくなるので禁物です。
また、マグカップの取手など、後から貼り付けるものも、削った後に接着していきます。ものすごく小さなパーツであれば大丈夫なこともありますが、取手などのパーツは削りより前に制作しておき、接着時に器本体と乾燥度合いが同じくらいになるようにしておくことが大切です。どちらかの乾燥が進んでいたりすると、剥がれてしまいます。
私はクチバシやら足やらフリッパーやらを接着するような作品が多いので、接着パーツづくりと接着作業で結構な時間を費やします。鳥モチーフにさえしなければすぐにできるのに…と思ってしまうこともたまにはあります(笑)。
3.乾燥
前述した削り前の半乾き状態は、霧吹きをしてビニール袋に入れたり、発砲スチロールに入れたりしてある程度コントロールすることができます。
そうはいっても、あまりにも長く置いておくと固くなって削りにくくなり、接着したものが剥がれるリスクが高くなってしまいます。
ここは専業の陶芸家ではなく、私は本業が別にあるからこそ時間の使い方が難しくなるところなのですが、つくったものが乾燥しすぎない間に削りの作業ができるスケジュール組みをして、それが可能な個数しかつくらないようにする計算も必要になります。
本業が忙しくてしばらく削り作業の時間が取れないということはないか、イベント出展などに向けて素焼きが済んだものの釉掛けを優先する必要はないか、といったことを考慮していきます。
電動ロクロだと短時間でつくれてしまうので、その後の接着工程に時間がかかることを忘れて、乾燥しきらないうちに処理できないほどつくりすぎないかということにも注意します。
削りや接着後は、さらに乾燥させます。
パーツの接着や化粧土という装飾用の土を使った場合などは、急速に乾燥させると乾燥が進んだ部分と内側の乾きづらい部分などで水分差が大きくなり、パーツや化粧土の剥がれや形の歪みの原因となります。そのため、ビニール袋や発砲スチロール、ムロなどに入れてゆっくり乾燥させていきます。
4.素焼き
きちんと乾燥させたら、800度前後の低温で素焼きをします。
もし水分がまだ多く残っている状態で素焼きに入れると、作品が水蒸気爆発してしまいます。
ルーシー・リーは素焼きせずに釉掛けをして焼成していたことは有名ですし、釉薬の馴染みが良いなどの理由からあえて素焼きしない陶芸家さんもいらっしゃいます。
しかし、素焼きしたほうが釉掛け時などに扱いやすいので、特別な狙いがない場合は素焼きをしている作家さんが多いのかなと思います。
私は「素焼きに入れていたら展示に間に合わない!」という理由で、本焼きのみの焼成をしたことはあります。素焼きしたものと、特に変わりなく出来上がりました。
5.釉掛け、下絵
素焼きが終わったらやすりがけをして表面を整え、濡らしたスポンジなどで粉気を取り除き、下絵具を施したり釉薬をかけたりします。
窯に入れたときに棚板に接する裏側の部分に釉薬を塗ると棚板とくっついてしまうので、撥水剤でコーティングしておきます。
私は高台を鳥の足にすることが多いので、これは毎回頭を悩ませる問題です。
足がベースの陶土と同色の鳥ならそのままでよいのですが、裏側だけ釉薬が塗れない中で適切な足色にするためには、あまりベタベタしない下絵具を塗るか、顔料を混ぜた化粧土を塗るか、あらかじめ土に顔料を混ぜて成型するかの方法で対応しています。普通の和食器作家さんだとしなくていい苦労なのですが、足をつくるのが好きなので仕方ありません。
釉薬は1〜2色使う程度なら、ざぶんと浸してすぐ終わりますが、鳥類の身体の色に合わせて絵付けや色分けをすればするほど、手間がかかります。
同じ種類の鳥でも、白文鳥とノーマル文鳥では釉掛けの手間が3倍くらい違ってきます。
6.本焼き
釉掛けが終わったら、1,200〜1,250度程度の高温で本焼きをします。
これだけ高温だと、焼成が終わっても熱すぎてすぐに窯から出すことができません。また、急激に温度が下がると割れてしまうこともあるので、強引にに冷ますこともできません。どれくらいで冷めるかは環境や窯にもよりけりだと思いますが、私の場合は焼成開始から窯出しまで5日ほどはみておく必要があります。
また、素焼きも同様ですが、窯の中身がいっぱいにならないと焼けないというタイミングの問題で、焼成完了までに必要な期間も変わってきます。
上絵をしない場合は焼成が済んだら完成です。高台にやすりをかけて仕上げます。
7.上絵、金彩
上絵具や金彩を施す場合は、本焼き後に絵付けをして、700〜800度前後の低温で焼き付けます。
私が通っている陶芸教室はごくたまにしか上絵焼成をやらないので(焼成温度が違うため上絵作品だけで大きな窯を満杯にしなくてはならないため)、私は家のオーブンで焼き付けができる上絵具か漆で装飾しています。
細かい作業工程や温度、期間などは作家さんの環境やこだわりによって違ってくるかと思いますが、ひとまずざっくりと工程をお伝えし、どういう理由で時間を要するのかということに重きを置いてまとめてみました。
普段出展しているイベントは鳥類括りではあっても、「ペンギンメイン」「飼い鳥メイン」「野鳥メイン」さらにその中でテーマ性があるなど、求められる作品が違ってきます。そのため、たまたまイベント内容にマッチした在庫がたくさんある、とういう状況でもない限りは、ありがたい出展のお誘いを数カ月前にいただいてもすぐにはつくれないので断らざるおえないことが幾度とありました。
前述のように、陶芸は単純に工数が多いというだけでなく、時間をかけて乾燥させなければいけない、時間をかけて冷まさなければいけないなど、急いでどうにかできない時間が必要となります。
また、焼いてみないと目指す色や装飾などが実現できるかわからないところがあるので、初めての色(あるいは色の組み合わせ)や技法ではテストピースを焼く必要があり、すでにつくっている作品の色違いを制作するだけでも試作のための時間を要することがあります。
つくっていてもすぐに完成しないのがもどかしく感じることもありますが、その分うまく焼けたときには喜びが大きいです。
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