近所の大型犬事情

子どものころから小型犬、中型犬は飼ったことがあるが、大型犬はない。
なので大型犬に対する憧れはなみなみならぬものがある。

大きな身体に優しげな目、お人好しな性格。体躯に似合わぬ無邪気さ…どれをとっても最高すぎる。
わが家はおそろしく狭いので、飼うなんて贅沢なことは言わない、仲良くなれるだけでいい。

そんなわけで、最近は他人の大型犬を愛でることで欲求を満たしている。

うちの近所にはちいさな商店街があり、この通りに二匹の大型犬がいる。
一匹はグレートピレニーズのバニラさん。
バニラさんは真っ白でもふもふの体に優し気な目をした商店街の人気者だ。
道行く人になでられ、かわいがられいつもたっぷりの愛情を注がれている。
誰が見ても美しく、おだやかな大型犬の見本のようなバニラさんだ。

もう一匹はアメリカンピットブルのルーさん。
ルーさんもまたとても穏やかで人が大好き、ちょっと控えめなやさしい心を持つ素敵な犬だ。

だが顔が怖い。

鋭い三白眼に、筋肉質な体。大きな口は常に開かれ鋭い歯が並んでいるのが見える。闘犬の名に恥じぬ迫力がそこにある。
店の前につながれているルーさんがお客になでられているところを見たことがない。
まさに白と黒、商店街の光と闇である。

性格だけで言うとルーさんはバニラさんにまけないくらいチャーミングなやつだ。ルーさんは知らない人になでられるのが大好き。その上、自分がちょっとコワイことを理解しているのか、一挙手一投足がおずおずしている。
比べるとバニラさんは愛されなれているがゆえの客慣れみたいなものがありピュアさでいったら断然ローさんに私は旗を上げたい。

私は週一くらいでバニラさんとルーさんを見に行く活動をしている。
先日、この犬活の最中のこと、ルーさんの前に若い女性二人組が近寄っているのを目撃した。
バニラさんならともかくルーさんに人が近寄るのは事件である。こっそり観察する私。
なるほど事態の全貌がつかめた。彼女らは遠近法で犬をバックにして自撮りを撮っているのである。
なかなか珍しい大型犬だし、ツーショを撮りたい気持ちはわかる。
だが、私の胸ははげしく痛んだ。
ルーさんが、わくわくした目で女性たちを見ているのである。
彼女らが撮りおえたことを確認したルーさんは立ち上がった。撮り終わったら撫でてもらえると思っていたのだろう。うれしそうに、しかしあくまで控えめに尻尾を振りながら彼女たちの方へ歩んだ。が、当然その願いははかなく散った。あっさり立ち去る二人。
「あ…」みたいな顔でまた元の場所にもどるルーさん。

心優しいモンスターかよお前は…!

駆け寄って行って抱きしめたかった。頭をわしわしとなでまくってやりたかった。
でもそれはできなかった。

私は大型犬がこわい。大好きだが万一咬まれたら、と思うと恐ろしくて手が出せない。
ここまで近所の犬を知り尽くした犬通みたいな顔で文章を書いてきたが、近づけないので遠くからじっとり観察してしいれただけの情報だ。大型犬ファンというより、ただのストーカーだ。

私は大型犬と仲良くなりたい。これからも週一の犬活は続ける予定でいる。


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