【#絵から小説】 「ぼくが君について、言えることといったら」

窓ガラスの向こうに見えた絵に吸い寄せられるように、
ぼくは、そのギャラリーに入っていた。

受付の女性に、軽く会釈をすると、
“ゆっくり見ていってくださいね”と笑顔を返してくれた。

画像1


その絵は、夕日の中、たたずむ人を描いているようだった。
グラデーションがかったオレンジ色は、
本当に、目の前に夕日が広がっているような感覚にしてくれた。

ポケットに手をいれたように立つ姿は、女性だろうか?
なぜか僕は、その後ろ姿に、凛とした強さを感じていた。


彼女が眺めているのは、彼女の故郷の風景だろうか?
旅立つ時なのか、帰ってきた時なのか、
ぼくには、もう戻らないと決めた時のように感じられた。

自分だけの世界に入っていたぼくを、男の人の声が現実に呼び戻した。
“妻なんです”
聞こえてきた声のほうを振り返ると、自分より10歳くらい上に見える男性が立っていた。

やさしげな表情、ちょっと背は低めだけれど、薄手のブルーのジャケットがとても似合う、おしゃれな人だった。


あまり人と話すことが得意ではない僕は、小さな声で、“素敵な絵ですね”というと、別な絵のほうに移動して、会話が続くことを避けてしまった。

20枚ほど飾られた絵の中で、人物が描かれていたのは、その絵だけだと、しばらくして気がついた。
いつもの悪い癖で、人を避けてしまった僕は、何か言いたそうだった彼の話を聞かなかったことを後悔した。

きっと、描かれている奥さんもやさしく、おしゃれな方なんだろうなと、彼らが仲睦まじく暮らしている姿を想像しながら、僕は出口にむかった。

“よかったら、どうぞ”と、受付の女性が、
絵の説明が書かれたチラシを渡してくれた。

いくつもの賞をとっているようで、
経歴とともに、受賞歴が載っていた。

ぼくは、紙を裏返し、絵の説明を眺めた。


『感情の情景』
5月19日
妻が亡くなった日の夕焼け


亡くなったという文字を見て、彼におくやみを言えなかったなと、また後悔した。

そっか、あの色は、悲しみの色だったんだ、そして彼女は、旅立つところだったんだと、絵のほうを振り返り、
彼女にさよならを言った。


そして、チラシをカバンにいれようとした時に、一番下にある女性の写真が目に入ってきた。

ぼくは、動けなかった。

大学の頃の友達とは一切の関わりを絶っていたぼくは、
あの4年間、毎日のように一緒にいた、
大好きだった彼女のその後を、何も知らなかった。

“夕日を見ると、私、今、生きてるなって思えるんだ”
いつもぼくに勇気をくれていた、あの声が、ぼくの脳内に響いていた。

*******
作品は以上です。

noteは、その一歩を踏み出せずにいました。
今回、インスタで知ってから、応援をしていた清世さんの企画に、
思い切って参加することにしました。
これが初投稿です。
noteの作法など、もし間違えていたらすいません。


以下、清世さんの記事引用

【参加条件】
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