医療現場におけるコンフリクトマネジメント①医療の不確実性

医療現場では、日々、患者と医療者の間でトラブルが発生します。
イメージしやすいところで言うと、「あの受付の子、すごく感じ悪い!」みたいな接遇の問題から、「薬の容量間違えられた!」や「家族が医療ミスで死んだ」といったことまで、さまざまです。
ただ、ここで留意したいのは「医療者は悪意を持ってそのエラーを起こしたのか」という点です。
僕の回答は「そういう場合もあるだろうし、そうではない場合もある」です、当然ながら。

この「そうではない場合」、最善を尽くしてもなお、患者に不利益な事象が発生してしまった場合が医療者にとっては悲しいところで、その患者は病院に来ることはないでしょうし、患者は病院不振、医療者不振に陥るでしょうし、もっと攻撃的になると、クレームや訴訟にまで発展し得ます。

そういった不幸な事象による医療者ー患者の対立を緩和し、関係を再構築するためにコンフリクトマネジメントという考え方があります。
そして本稿では、その中の1手法である「医療メディエーション」について紹介します。
自身も研修会などに参加して経験した内容から「万能ではないが有用」と感じている反面、なかなか認知度が広がらないことに歯がゆさを感じており、文章にすることで少しでも医療者や患者の目に留まればいいな、と思います。
かなりボリュームが多くなると思うので、何回かに分けたいと思います。

はじめに(筆者のスタンス)

まず、僕は医療資格を持つ者でもなく、医療メディエーションの専門家ではないので、若干事実と異なる点もあるかもしれません。ご容赦ください。
また、なるべく、医療者・患者いずれの立場にも中立に書くことを目指します。
恐らく自分自身が「医療資格を持たないけど一般市民より病院のことをちょっと知っている者」であるため、医療者・患者それぞれの立場を意識した文章が書けるのでは、と思うためです。

医療の不確実性

一般的にサービスを受ける場合、商品があって、金額が設定されていて、お金を支払って、という流れです。
そして、もし商品に不備があった場合、望む機能を発揮しないなどですが、その場合はサービスの提供側にその旨を伝えて、交換してもらったり、返品をして金額を返してもらったりすると思います。

一般的な認知は「対価を払えば相応のサービスを受けられる」だと思います。

ただ、医療は不確実なものです。
同じ症状の人に同じ治療をしたからといって全員が良くなるとは限らないのです。
ここが最も医療者と患者の間で認知のずれが生じやすいポイントだと思います。

”最善”を尽くしても”最悪”は起こる

医療行為において、過失が無かったとしても、重大な副作用や合併症、事故は起こり得ます。
これは、医療者であれば、全員が知っている”事実”です。
ですが、患者側は過失・無過失関係なく、これら副作用等が生じた際に「医療ミス」と認識されてしまうケースが多くあります。

そのため、病院では患者との認識の差を埋めるため、手術や侵襲性の高い検査の際には、患者に自身に行われる医療行為の内容やリスクを説明し、患者が納得の上で医療行為を受けてもらえるようにしており、同意書を用いてその証拠としています。(インフォームド・コンセント)

ただ、どんなに説明をつくしても、医療者と患者のすれ違いはなくならない、それが実際です。

善良なる医療者と善良なる患者

医療メディエーションの研修の講義で触れるお話に以下のようなものがあります。
・天気予報で「今日の降水確率は1%です」と言われたら傘は持って出かけないだろう。
・医療においても同じような説明がされる時がある。しかし、医療者は「100%安全な治療ではない」という文脈で”1%”を使い、患者は「これは100%安全な治療なんだ!」という文脈で”1%”を理解する。
・そのため、仮に事故などが発生した際に、医療者の「ちゃんとリスクの説明をしたのに!」という言い分と、患者の「安全だって言ったじゃないか!」という言い分は両立しうる。
・なぜなら、同じ言葉を同じ意味で受け取っていないため。

これは医療者にとっても患者にとってもすごくリスクですよね。

かたや医療者は、最善の治療をしたい、患者さんを治したい、と考え、
かたや患者は、健康に戻りたい、先生を信頼している、と考えているのに、
ちょっとしたボタンの掛け違いで、医療者と患者の関係は最悪なものになりうるリスクを孕んでいるのです。

このようなボタンの掛け違いの原因に医療における情報の非対称性の問題も挙げられると思いますが、それは置いといて。

起きた事実は戻らないけれど、壊れ(かけ)た医療者と患者の関係性は戻せる。
そのための一つの方法論が、医療メディエーションです。

前置きが長くなったので今回はここで〆ますが、
今後、医療メディエーションの研修の内容や、医療界での立ち位置など、色々書いていこうと思います。

お楽しみに。(と言えるくらいしっかり伝えられるよう頑張ります)

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