海外製VRCアバターの実態とその歴史
皆さんはVRChatに初めて入ったとき、どんなアバターを先に目にしましたか?
多くの人は海外産ジョークアバター、または上の写真に写ってるようなMMDモデルを元にした改変アバターを先に見たのではないでしょうか?
現在ではBooth.pmでのアバター販売が主流となりましたが、それでも海外産アバターと和製アバターの違いは目立ちます。その違いが気になったことはありませんか?
この記事ではその実態と歴史を少しだけ紐解き、情報をまとめます。
具体的にはこんな感じにまとめています:
①TDA、IMVU乱用の時代
②クリエイター同士の殴り合いの時代
③現在の海外製アバターの販売形態
④和製アバターとの違い
⑤後書き
前置きとしてこの記事はあくまで私が見て聞いた過去の出来事と体験談から起こした記事なので界隈のすべてを代表して書いるわけではないことを留意していただけると助かります。あくまでこういう話もあるよということを伝えるために記事を書かせていただきました。
①TDA、IMVU乱用の時代
パブリックアバターの時代
2019年頃はまだBooth上のアバターは少なく、改変したり自分でアバターをアップロードする行為が今ほど普及してなかったのでPublicアバターを漁り、ブックマークするユーザーが大半でした。
(私自身もよくアバター漁りをしていた身です)
TDA式の改変が多かった当時、クリエイターは他ゲームからリッピング(データを抜く行為)したアセットを利用しTDA式改変のモデルを多様化していきました。これはいわゆるMOD文化から派生したと考えています。
MODとは?
MOD(modificationの略)は何かしらの土台を自分好みに変えていったり、改造、データを追加する行為のことで、ゲームではよく見られる行為ですがその過程で著作物の侵害やデータ抜きで得たアセットが利用されることが多々あります。
VRChatも例外なくこの文化が健在です。ゲームやアニメで見た景色がワールドにアップロードされていたり、アバターのぶっこ抜きもよく目にします。
(OverwatchよりHanzoの面白おかしいSubway店員改変)
完全なぶっこ抜き、またはその改変もあれば…
(映画「9 〜9番目の奇妙な人形〜」より主人公の9)
こちらのように完成度の高い完全自作のファンメイドアバターもあります。
この類のコンテンツの正当性や合法性は複雑な話なのでこの記事ではあえて触れませんが、良しとするか悪とするかの線引はものによってはかなりグレーです。
高まる需要
VRCでは自分専用のアイデンティティーが欲しくなるのはごく自然な事です。2019年は買える正規のものも少ない時代だったが故に多様性のあるアバターの需要が高くなるばかりでした。
その高まる需要にビジネスチャンスを見出したたくさんのアバタークリエイターがついに規約破りなTDAフランケンシュタインアバターを大量に売り出し、後の大乱闘につながってしまいます。
著作権意識・所有者意識の低さ
MMD・ゲームアセットモデルの大量流用・販売の背景にはMOD文化に通ずる著作権意識の低さがある程度影響していると私は考えています。
別ゲームでのMOD文化に接触している人にとって著作物に対しての意識はとても低く、例えるならMinecraftで僕のヒーローアカデミアMODがあっても問題視されないのでVRChatのアバターでそのキャラクターを使用しても問題ないだろうと言う。
その際、アバターのモデルファイルの入手法などは考慮せずに手に入れたキャラクターを自分の好きなように改変する。それを個人で楽しむ範疇ならまだ許容範囲なのですが、これを売りに出した途端話は変わってしまいます。
販売の問題
当時よく販売されていたアバターの問題点は大きく2点に別れます:
①著作物やゲームのぶっこ抜きの乱用(IMVU、MMD等)
②販売ストアが疎らで取締しづらい(Gumroad、Discord内取引等)
①著作物やゲームのぶっこ抜きの乱用(IMVU、MMD等)
説明せずとも分かるかとは思いますが、MMDモデルの製作者は人によってはVRCでの利用を禁止しており、殆どの方は販売や商用利用を全面的に禁止しています。
多くの人が利用していたTDA式MMD、実はVRChatでの利用は許可しているのですが、利用規約には以下の文言が:
・お金が発生するような行為はしない
(データを売る、グッズを売る、再生収入を得る、広告収入を得る、カンパを貰う等)
さらにはパーツ取りに関しても厳密にNGと記述してあります。
他にIMVUや別ゲームはそれぞれEULAや利用規約等に似た文言を記しています。
ではここで一つ例としてその頃の海外製販売アバターをちょっと見てみましょう。(※2019年当時の販売品ページは軒並み消されており、見つけることができなかったので少し最近のものにはなりますが例としてこちら挙げさせていただきます)
これは既に商品ページも紹介動画も消されているTDA式素体をベースにした商品の宣伝です。PR用のDiscord鯖に残っていた投稿文を拝借しました。
宣伝文の構成は以下:
・アバター機能の表記(服のオンオフや指ペン、揺れもの等)
・値段
・クレジット表記(自作ではないパーツの製作者)
・販売ページURL
・宣伝動画
クレジット表記はあくまで流用したパーツを拝借した先の名前のみで元の製作者かどうかも不明瞭です。どのパーツを誰から取ったかも記載不足で問題だらけの商品となっております。この投稿もアバターの画像を見るまで本当にTDA式改変が入っているのかどうかも判別できません。
②販売ストアが疎らで取締しづらい(Gumroad、Discord内取引等)
ここでまた別の販売投稿文を見てみましょう。
海外製アバターの販売形態は現在も多種多様です。
最初の例で見た投稿はGumroadというBoothに似たシステムを利用した販売形態ですが、こちらの投稿のようにDiscord上のDMのやり取りでのみ販売するタイプもあります。
DM上での取引はPaypal等デジタルウォレットを使った販売メソッドです。利用する理由は色々で手数料や手続きが面倒な方、住んでいる地域が原因でストアページが使えない方、購入者を徹底的に管理したい方、しっぽを掴まれることを危惧する違法アバター販売者等理由は様々です。
ストアページもストアページでGumroad、Payhip、Shopify、Booth等いろんなプラットフォームの利用が増える中で自分のものが流用され販売されていても自分から気づきづらく、他者が警鐘を鳴らしてくれることに頼らざるを得ません。こればっかりは残念ながら現在も続く問題ですが、ある時を堺に違法アバターの販売が一気に激減します。
②クリエイター同士の殴り合いの時代
2021年頭から徐々に減っていった海外製MMD流用アバターの販売。私自身どちらかと言うと基本消費者側なので具体的な時系列を知らないことについてはお許しください。
IMVU問題
まず最初に起きたのがIMVUアセットのBAN祭り。当時TDA式の体にIMVUの装飾といったアバターの作り方が主流でした。
2020年初旬、VRChatでは大抵の場合利用を全面的に禁止されていたIMVUのアセットを使う人に対しDMCAの通告書が大量に届きます。多くのクリエイターはこの時初めて著作権の存在を実感し、さらにそれを侵害しているという自覚を持ったかと思われます。
この問題が根を張り議論を繰り返す中、TDA式MMDを利用し販売する行為をやっと問題視する人が増えていきます。
魔女狩りの始まり
この頃からMMD離れの意識が広がりだし、自身で作った素体を売り出す人が増えます。多くのアバタークリエイターはこの頃からMMDや素性の知れないアセットを含むアバターの販売を中止し、その履歴を消し始めます。
この頃はクリエイター同士の殴り合いも多く、「まだ違法アバター売っている」「お前も前は売ってた」等のレッテルの張り合いが多発。いろんな権利者からDMCAも多く飛び交う中、ほぼ毎週誰かしらが炎上。
その後の対応
ほとぼりが冷めたのは2021年の春頃で、この時期を堺にTDA式を含むMMD、またはゲームのデータから抜いたアバターの販売が激減。
ディスコードで鯖を持つクリエイターは販売品宣伝のルールをかなり厳しく管理されるようになり、今では見つかった場合販売者同士のコミュニティーでのブラックリストに追加されたりと取り締まりが行われるようになりました。
例として「Hazie」様の現在のサーバーの販売宣伝の規約がこちら:
・TDA式、IMVU、Second Lifeのアセットを含むモデルを禁止する
・アバター検索のチャンネルにTDA式を含むものを貼らないこと
・マーケット(宣伝板)にモデルを宣伝する際は使用パーツの製作者の名前とDiscordタグ等のクレジット表記必須
・他クリエイターのアセットをそのまま流し売りする行為を禁止する
サーバーによってルールは変わりますが、一貫としているのが「利用許諾のないアセットを含むモデルの販売の宣伝を禁止する」もので制作物の著作権に対しての意識が変わった事が伺えます。
③現在の海外製アバターの販売形態
著作権に対しての意識が変わる一方でパーツを組み合わせてモデルを作る文化は消えず、現在も続いています。
大きく変わったのはこの3つ:
①販売者向けの販売
②クレジット表記が呪文化
③利用規約の普及
①販売者向けの販売
ゲームやMMDの素体が使えなくなった今、自身でフルスクラッチのアバターを作る方も居ますが大半が既成品を利用してのアバター作りをしています。その既成品の素体を作るクリエイターがおり、アバター販売者向けのビジネスが新しく展開されています。
こちらのスクショは「Pandaabear」様のGumroad販売ページ。体の素体や顔パーツを売り、その利用規約に再利用して販売品に含むことを許可する旨が書かれています。
この販売形態を簡単にまとめるとこういうサイクルになります:
パーツ売りをし、そのパーツを利用した完成品を売ることを許可する
↓
パーツを購入する(またはパーツを利用し再販するライセンスを買う)
↓
パーツを使いアバターを作り上げ、販売する
アバターによってはパーツの数が多く、販売の際はクレジット表記が必須となった今の御時世、その表記が大変なことになっています。
②クレジット表記が呪文化
ここにとあるアバターのクレジット表記を見てみましょう。
目が痛くなるほど文字だらけ…ですがこれくらいしないとすべての制作元を辿れません。もちろん、全て自作する人も居ますが大半のアバターは何かしら別のものを借りているものなのでこの表記がない場合は逆にかなり怪しまれます。
そしてクレジット表記をするに当たって必要になり増えた項目が利用規約。
③利用規約の普及
普及したとはいえBoothの和製アバターにあるようなスタンダード化した利用規約はまだありません。
雛形が無い分、書き方も内容もまだまだですが販売品には「再利用して販売OK」と「再利用して販売する場合は別途ライセンス購入必須」、または「再利用不可」の表記がほぼ必ず含まれるようになりました。
Vtuberや配信活動等で利用されたい場合はすべてのパーツの所有者に利用許諾を求めなければいけないため、そういった意図を持っての購入の場合はやや面倒くさいことになります。
利用規約すらなかった無法地帯の状態から抜け出しそれなりのクリーンな状態になりつつある海外製アバター。興味はあったけど著作権の問題等を気にして敬遠していた方はある程度安心して探せるくらいの治安にはなっているので見てみるのも悪くないですよ。
(もちろん未だに取り締まられてない違法アバターもちょこちょこあるので気をつけてお進みください)
④和製アバターとの違い
この記事を読まれている方は和製アバターの販売形態をよく知っているかと思いますのでここは手短に書きます。
和製アバターは手っ取り早く言うと「球体関節人形」で、海外製のアバターは「カスタムプラモ」のようなものです。作り手がすべてのパーツを丁寧に組み立て作る和製アバターに比べ、海外製のアバターは組み合わせたら良さそうなパーツを寄せ集めてくっつけてから売る。
その影響で海外製のアバターは基本改変がとてもしづらいです。パッケージ内のコンテンツが整理整頓されている和製アバターに比べ、マテリアルもオブジェクトも中途半端にマージしてあったり、干渉メッシュが変に削られていたりしてるので複雑な改変向きではありません。なのでカスタムプラモ型の海外製アバターを購入する際は後に改変したいから買うのではなく、そのままの状態で使いたいから買うことを前提に考えることをおすすめします。
改変のしにくさに代わり平均価格が和製アバターに比べ比較的に安かったり(20ドル~40ドル)するのが海外製。もちろん物によってはピンキリですが基本的な価格帯は2022年1月現在は30ドル前後です。
例として私が個人的に買って気に入っているアバターを一つ紹介します。「Cicieaaa」様制作のKissuというアバターで販売当初は35ドルで購入。少しMMDアバターに似ていますがクレジット表記を確認すると著作権クリーンなアバターであることが確認できます。
ただ、前述の通り改変がしづらいアバターなので今はたまにしか使っていません…。
以上、海外産アバターの販売形態とその歴史を私の視点からまとめさせていただきました。まだまだ治安が良いとは言えませんが、状況がかなり改善されているので興味のある方は一度買ってみたり、売ってみたりしてみるのはいかがでしょうか?
私は消費者側から大人しくいろんな方々の素敵なコンテンツを正しく消費し続けたいと思います(笑)
⑤後書き
ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。
私は普段からVR界での日英翻訳をしており、少しでも英語圏と日本語圏の間にある摩擦が減ればいいなと思い以前からこの記事を書こうと思っていました。ただ、文才も無く、時間も無く…中々書くことができず思い立ってからだいぶ時間が経ってしまいました。
海外製アバターは問題が起きやすい、または違法性が高い、そういうレッテルが過去の事象でつくのは当然のことです。私も恥ずかしながら元々著作権等に対しての知識が薄く、VRChatを始めた頃に無知の状態でTDA式の素体を利用したアバターを購入してしまった身です。それ故にこの件についてそれなりの知識を持つきっかけになり、ここ一年でアバター販売界隈が少しずつ良い方向に向いているのを見てそれを伝えたくこの記事を書かせていただきました。
前置きに書いたとおり、この記事はあくまで私が見た情報をベースに書いていますので他に起きた事象の記述漏れがある可能性が大いにあります。できるだけのファクトチェックはしましたが、情報がある程度削除されていたり錯綜しているため根拠の取れなかった内容は意図的に省いています。
最後に記事に対しての質問等あればTwitter(@potatovrc)でリプまたはDMを送ってください。できるだけお答えします!英訳のお仕事も受けておりますのでVRクリエイターの方で英訳が必要な方はぜひ声をかけてください~!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?