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2024年1月4日 ニコニコ動画「歌ってみた」カテゴリーの思い出

ニコニコ動画の「歌ってみた」カテゴリーの動画にハマっていた時期がある。
それはニコニコ動画の黎明期である2007年から2008年にかけてのことだ。

「歌ってみた」動画については・・・おそらく多くの方々にとって説明は不要ではないだろうか。
それぐらい現在において、この「歌ってみた」という概念は、ことインターネットにおいて浸透しているのを感じている。
もし詳細を知りたければ、下記ニコニコ大百科などを参照されたい。

2007年から2008年にかけての「歌ってみた」カテゴリーで流行っていた動画は、その当時のオタク界隈で人気を博していたアニメソングや美少女ゲームソング、ボカロソングやJ-POPの曲のカバー、あるいはそれらをメドレー形式にした楽曲である、「組曲『ニコニコ動画』」や「ニコニコ動画流星群」などを、オケ音源をバックに歌う動画であった。

その当時から色々な歌い手さんがいたが、特に人気を博していたのが「ランティス組曲」という、ランティスの楽曲をメドレー形式にしたものを歌唱した方々であり、私もこの方々の動画はよく再生していた。
こちらも詳しくは、下記ニコニコ大百科記事に譲りたい。


この「歌ってみた」というカテゴリーについては、当時から高い人気を博していたものの、それと同じくらい否定的な声も多くあり、匿名掲示板やまとめサイト等にてバッシングの声が多く挙がっていた。
その理由として、素人の歌なんて聞いていられないとか、著作権侵害にあたるのではないかとか、検索の際に見たくもない「歌ってみた」動画が引っかかるのがウザいとか、ファンのコメントが見ていられない、とか。
・・・とにかく挙げていくとキリがないほど色々あるにはあった。

ただ、今にして振り返るとそれらは基本的には建前で、本質的には動画配信サイトにおいて、プロではない一般人が色々な人々からの注目を集めるという現象それ自体が一般的ではなく、ゆえにやっかみや嫉妬の感情を受けていたというのが一番の理由ではないかと考えている。

一般の人が動画配信サイトやSNSなどでのインターネットでの活動から注目を集め人気を博し、そこからプロの道に進んだり、ひいては国民的な知名度を獲得しスターダムにのし上がるなんていうことは今でこそ珍しいことでなくなった。
むしろ、2024年現在においては、王道ルートの一つと言っても差し支えはないのかもしれない。

だが、当時は今ほどインターネットからスターが誕生するというその現象が当たり前の時代ではなかった。少なくとも私はそう認識している。
「出る杭は打たれる」という言葉もある。
一般人がインターネットで持ち上げられるというその状況を面白く思わない人の数も多かったのだろうと、今は振り返っている。

さて、当時の私はニコニコ動画の「歌ってみた」カテゴリーの動画に対してどうだったかというと、当時中学生であったがゆえの純粋さゆえであったのだろうか、しかし冒頭でも述べたように、とにかくそれらの動画にハマり楽しんでいた。

確かに、プロの歌手やミュージシャンと比べると、歌唱力など技術的な観点からは引けを取ってしまう部分があったかもしれない。
だが、むしろそこが良かったのだと思う。
技術的には荒削りであるからこその、プロのアーティストの音楽にはない瑞々しさや斬新さ、そして親近感があり、それらは魅力として映った。
音楽において、歌唱力というのは確かにその音楽の魅力を引き立てる大きな要素の一つではあるけれど、それだけではない。
むしろ不思議なことに、歌唱力の面では未熟であるからこそかえって魅力的に聞こえるということだってあるのだ、ということを学べたのは、この時の経験が大きいかもしれない。

それから、プロではない一般の人々の中にも、魅力的な歌を歌う人たちがこんなにいるんだ・・・という衝撃である。
というのも、当時の自分にとって、聴くことのできる音楽といえばプロのアーティストが出しているCDの音源やその有線放送などしかなかった。
プロではない歌手やバンドの人々が、インディーズでのライブ活動や自主制作CDの販売を行っていることなどは知っていたが、当時は動画サイトでの曲の配信といった概念もほぼなく、ゆえに歌を聴く手立てもなかったため、プロではないアマチュアの歌手・ミュージシャンの技術というのはどんなものなのだろうというのがよくわかっていなかったのである。
それが、「歌ってみた」の動画を通じて、その当時アマチュア・インディーズで音楽活動をしていたり、あるいはかつて行っていた人々の歌が聴けるようになった。
中にはプロのアーティストに匹敵するのではないかと思うくらい魅力的な歌を歌う人もいたし、それが自分の中でかなり衝撃的で、誇張表現一切なく世界が大きく広がったと今でも思っている。

さらに、同じ曲であっても、歌い手の人が変わればその曲の色は歌い手の人によって全く変わってくるのである。
特にアニメソングや美少女ゲームソングというのは女性歌手によるものがほとんどであったので、それを男性の歌い手の人が歌うとこんなに全然違った角度の曲になるんだ・・・という衝撃は大きかったように思う。
また、「あの曲そのうち◯◯さんが歌ってくれないかな・・・」などとぼんやり思いながら日々を過ごし、しばらくしたら本当に◯◯さんによるその曲の歌ってみた動画が投稿されたときはとても大喜びしたりしていた。
同じ曲について、歌い手の人の違いによる様々な魅力を味わうことができるというのは、「歌ってみた」カテゴリーの動画それ自体の大きな特徴であり魅力であったのではないだろうか。

このように、私なりに楽しんでいた「歌ってみた」カテゴリーの動画であるが、2009年に入った辺りから急速に興味を失い、ほとんど見なくなった。
嫌いになったというわけではないし、見なくなったのも大きなきっかけになる明確な理由があったというわけではなかった。
ただあえて一つ理由を挙げるとすれば・・・非常に身も蓋もない言い方になってしまうが、飽きてしまったというやつである。
というのも、プロではない一般人の歌い手の人の歌ならではの魅力として映っていた、荒削りさであったりとかアマチュア感であったりや、歌い手の人によって同じ曲でも全然違ったものになるというその要素自体が、だんだん自分の中で普遍的になり、斬新さのようなものを感じなくなってしまった。
「歌ってみた」カテゴリーの動画の歌というのは大まかにこういうものなのだという図式が、自分の中でなんとなくできてしまったのだと思う。
あとは最初の方から好きだった歌い手さんが実生活での多忙なのかそれとも単純なモチベーション低下によるものなのか、だんだん投稿ペースが落ちていったり、あるいは全く投稿しなくなるといったことも見られるようになったのもあったように思う。

今、というよりも、2009年以降のニコニコ動画の「歌ってみた」カテゴリーがどうなっているのかはほとんどわからない。
正直に言うとあまり興味がないし、当面は再び興味を持ち始めることもないような気がする。
が、2007年から2008年にかけてのニコニコ動画黎明期において、「歌ってみた」カテゴリーの動画を楽しんでいる自分がいたし、そしてそれは自分のインターネット遍歴を振り返る上で外すことができないものであったのは確かであると、あらためて実感している。

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