2021年1月17日 「エレパレ」こと「ザ・エレクトリカルパレーズ」にハマった話
2021年1月16日の日記を更新した後、この動画を観ていた。
ニューヨークを始めとする東京吉本のお笑い芸人のYouTube動画ではよく出てくるタイトルで、それまでは気になっていつつも2時間という長尺動画であるため尻込みしていたのだけど、今回重い腰を上げて視聴に踏み切ったらとてもハマってしまった。
この日記を読んでいただいている方にも是非観てほしいと思い、1月17日の日記はこの動画の紹介としたいと思う。
「ザ・エレクトリカルパレーズ」とは?
ザ・エレクトリカルパレーズ(以下、エレパレ)って何っていう話なんだけど、NSC東京校17期(以下、NSC17期)のメンバーによって結成された、イケイケ集団。
今風のネットスラングを使えば、いわゆる「陽キャ」のグループ。
ただし養成所の講師陣からはなまじ高評価を受けていてそのメンバーのほとんどが選抜クラスに入っていたことから選民思想が強く、エレパレ以外の養成所同期を見下す素振りを見せていたり、あとメンバーの名前が入ったTシャツやテーマソングまで作ったりと、傍から見ればかなり「イタい」集団として周囲からは認識されていた。さらに女性関係でも悪い噂が絶えなかった。
その養成所期間はブイブイ言わせていたエレパレなのだけど、卒業後すぐにあることをきっかけに自然消滅のような形を辿ってしまう。
エレパレの消滅からはもう9年近く経っていたのだけど、ある日ひょんなことからそのエレパレの話を聞きつけた構成作家の奥田泰氏と、お笑いコンビ・ニューヨークの2人(NSC15期卒業)が、NSC17期出身の元エレパレメンバーの芸人とそれ以外の芸人にインタビューを実施し、その全容を解き明かしていくというもの。
内容としてはドキュメンタリー映画に近い。少しだけミステリの要素もある。
ちなみにNSC17期の主な卒業生としては、空気階段、オズワルド、ガーリィレコード、ラフレクランなど。彼らもこの動画に登場する。
語る者による「視点」の違い
ニューヨークの2人と奥田氏がNSC17期のメンバーにインタビューを実施していくのだけど、ほとんどのエレパレ以外のメンバーからは当時のエレパレに対して「気持ち悪い」「寒い」といったような、およそ否定的な印象を持っていたことを話している。
一方で、元エレパレのメンバーに話を訊くと、その多くが「楽しかった」「青春だった」と当時を思い出しながら目を輝かせて語っている。
多くの養成所同期からは敵対視されていたエレパレだけど、当の元エレパレメンバー本人たちにとっては「青春」という輝かしい思い出として今でも記憶に強く残っている。
いくら周囲からは冷たい目で見られていたとしても、エレパレ当人たちにとって「青春」だったことは間違いなく事実なのだろうし、それを否定することはできない。してはいけないのだとも思う。
そういった、語る者のそれぞれの視点からの印象の違いを見られることも、この作品の魅力だともまた思う。
「エレパレ」は身近にあるということ
あるコミュニティ内でブイブイ言わせるイケイケの集団っていうのは別にお笑い養成所に限らず、あらゆるコミュニティにおいて多く出現するものなのだと思う。エレパレはお笑い養成所という特殊な環境で生まれたがゆえにその特異性がより強化されたという話であって。
例えば学校生活では運動神経抜群で性格も明るいメンバーが集うようなイケてるグループとそうでないグループに分かれるなんてのは自然なことだし、社会に出た後だって例えば同期メンバーの中でも頻繁に飲み会を開催したり休日も同期同士で遊ぶようないわゆるイケてる組とそうでない組で研修期間の時点で分かれたりすることもきっと珍しくない(僕の入社1年目は実際にそういうことがあった)。
あと社会人サークルや習い事のような趣味のコミュニティにだって多かれ少なかれそういったものはあるものだろうし、それからママ友コミュニティや、何なら老人ホームにだってそういうカーストのようなものがあっても全くおかしくない。
そういった意味でこの「エレパレ」はお笑いがそこまで好きでなかったり詳しくなかったりしても身近に感じるものは十分にあるだろうし、きっと多くの人にとって楽しめるものになっていると思う。
お笑い養成所内における「カースト」と養成所卒業後について
お笑い養成所における、いわゆる「カースト」については、このエレパレの動画が投稿される2ヶ月も前に、馬鹿よ貴方は(M-1グランプリ2015 ファイナリスト)の新道竜巳氏が自身のYouTubeチャンネルのラジオ動画にて語っている。
こちらも興味深いのでここに紹介したい。
新道さん曰く、
・養成所のいわゆる1軍メンバーはヤンキー気質の人が多い。あとは喧嘩の強いスポーツマン気質の人。
・養成所の「面白い」という基準はプロの「面白い」という基準とは明らかに違う。声の大きさや動きの機敏さといった、いわゆる「運動能力」が評価の対象にどうしてもなってしまう。
・その理由としてはお笑いの芸風が養成所の一年やそっとじゃ固まらないから。
・養成所在学中だと声が出ていなかったり、自分のやりたい表現はあるけど伝え方がわからない人は多い。
・だけど「運動能力」のある人は声の大きさや動きでごまかすことができる。そこで、養成所内における評価という点では圧倒的な差が生まれることが多い。
・したがって純粋にネタの中身が面白かったり斬新な芸をやっている人というよりも、決まったことができる人や、発声力が高かったり動きが機敏であったりなど、いわゆる基礎ができている人が評価されやすい。
・そういう人たちは最初の数年はそこそこテレビに出始めたりとかしてスタートは良いんだけど、それが長続きすることはほとんどない。やがてコツコツとやってきた同期に抜かれるようになる。
・その理由としてはちゃんとした努力をせず、お笑いを遊びだと考えている人がほとんどだから(やたらに海行ったりとかキャンプ行ったりとか、いわゆる大学生ノリ)。
・で、そういう人たちは集団で集まった時に怖い空気出してくる。
・・・おそらくこれらのすべてが当てはまるわけではないのだろうけれど、ただオズワルドの伊藤氏もニューヨークに「(エレパレは選抜だったぐらいには評価されていたわけだけど)当時悔しいとは思わなかったの?」と訊かれ
「いや、(彼らがやっていたことって)お笑いとは別のあれだったので・・・そうとは思わなかったです」という発言をしている。
それ以外のエレパレ以外のNSC17期のメンバーへのインタビューからも判断するに、エレパレメンバーの多くはおそらくその新道さんの言うところの「運動能力」という、お笑いの能力とはおよそ関係ないところを講師陣から評価されて養成所内の選抜メンバーに選ばれていたのだろうと思う。
で、養成所内での評価ゆえに肥大化した選民思想のために、エレパレ以外の養成所同期を見下すようになっていた。
当然ながらエレパレ以外の養成所同期からは反感を買うようになる。
エレパレの元メンバーのその後はというと、現状M-1グランプリやキングオブコント、R-1グランプリなどの三大賞レースで決勝進出といった大きな実績を残していたり、テレビやラジオ番組に多く出演しているコンビはいない。
むしろNSC17期は、2年連続でキングオブコントの決勝に進出している空気階段や、同じく2年連続でM-1グランプリの決勝に進出しているオズワルド、2021年1月時点でチャンネル登録者数80万人を超え、YouTuberとして絶大な人気を有しているガーリィレコードなど、エレパレを「外から観ていた」コンビが現状成功を納めている。
ここでも新道さんの分析の通りとなってしまっている。
賞レースでの実績やYouTuberとしてのチャンネル登録者数の獲得を一概に「成功」と見做していいかはともかく、少なくとも指標の一つにはなるだろうと思う。
ただし、上記三大レースの決勝進出までは届いていないものの、元エレパレのメンバーで言えば昨年ではラフレクランがキングオブコント準決勝・M-1グランプリ準々決勝まで進んでいたり、ワラバランスおよび侍スライスもM-1グランプリ準々決勝に進出しており、着実に結果を残し始めている(何なら侍スライスは2018年にM-1グランプリ準決勝にまで進出している)。
なのでもしかしたらこの序列にもそう遠くないうちに変化が生じる可能性は十分ある。
そこは僕個人として楽しみにしているところでもある。
「あなたにとってエレパレとは?」
動画の最後の最後でインタビューを実施した芸人全員が「あなたにとってエレパレとはなんですか?」とニューヨークの2人から訊かれ、それに対して皆答えるのだけど、その答えもまた多様性があって面白い。
個人的にはガーリィレコードのフェニックス氏が言っていた「強すぎる光」というのが一番しっくりきた。
僕も学生時代はエレパレのようなイケてるグループの人たちのことは直視すること自体が精神的につらかった記憶がある。
運動能力の高さとかコミュニケーション能力の高さに起因した「華」という僕にはない要素を彼らは持っていて、そんな彼らが集まってワイワイやっている様子は「華」をむき出しにして見せつけられているようで、それは太陽の光のように眩しかったことを今でもよく覚えている。
あとエンディングに入る前にラフレクラン西村氏が「皆それぞれのエレパレがある」「ただただ皆エレパレ」という結論に無理矢理行き着けようとしていてその強引さにはちょっと笑ってしまったのだけど、冷静に考えると思い当たる節があるなと感じる。
Twitterに普段から入り浸っている人間としては、例えば「○○界隈」なんて言われるようなコミュニティだってある人から見れば「エレパレ」のように映ることだって珍しくないだろうし、そういった意味では身につまされる話だと思う。
以上です。
そんなわけで「エレパレ」、是非観てほしいです。