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きみは 核融合 を知っているか

はじめに

本記事は2020年のEEICアドベントカレンダーの11日目の記事です.

EEIC2015のじゃがよこです.
noteに記事書くのも初めてなんですけど.とりあえず書いていきます.

軽く自己紹介から.EEIC2015のB2コース(強電系)に在籍していました.B4では核融合プラズマに関する研究室に在籍し,プラズマの磁場計測をやって卒論を書きました.

その後,柏に移って核融合に関する研究を続けています.現在,博士2年です.修士以降の研究テーマは,核融合プラズマ中の突発的崩壊現象を機械学習を用いて予知・解明する,というものです.
なんのこっちゃわからんと思いますが,最後の方まで読めば多少わかるかもしれないです.

EEICは情報系だけじゃないぞ!ということでガチガチに強電系の立場から,書かせてもらいます.これを機に,核融合というものに興味を持ってもらえたら幸いです.

この記事は長いので先にまとめ

1. 核融合発電は,核融合反応でお湯を沸かして発電しようという方法
2. プラズマ化した燃料を磁場で閉じ込めて加熱するよ
3. みんなも核融合を応援してくれ〜

核融合って聞いたことある人〜

フィクションにおける核融合,という見出しでもいいかもしれない.
実はニコ百にめっちゃ詳しく書いてあります.

一番有名なのは,ガンダムだと思います.ガンダム()の動力源は核融合炉だそうです.ただし,現実とは違う方式です.あの世界にはミノフスキー粒子とかいうチートがあるので…….

ともあれ,もしかしたらそういうフィクション的なもので「核融合」というワードを聞いたことがある人はそこそこいるのかもしれません.

実際のところ,核融合って何なのでしょうか.

核融合と核融合発電

原子核同士を衝突させると,合体してより重い原子核になります.
これが核融合反応です.
この時,合体前の2つの原子核の質量の合計よりも,合体後の原子核の質量は小さくなります.
この質量の差はどこにいったかというと,アインシュタインの式 E=mc^2 に基づいて,エネルギーに変換されます.
このエネルギーを使って発電しよう!というのが,核融合発電です.

核融合発電において有望とされているのは,DT反応という種類の反応です.D,Tとはそれぞれ,水素の同位体である重水素(deuterium)と三重水素(tritium)を意味します.重水素(陽子1個と中性子1個)と三重水素(陽子1個と中性子2個)を衝突させる核融合反応,という意味です.合体するとヘリウム(陽子2個と中性子2個)になります.この時,中性子が1個余ります式と絵で書くとこんな感じ.

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この余った中性子は14.1 MeVという大きいエネルギーを持っている=かなりの速度で飛んでいる状態です.
この中性子を受け止める(減速させる)過程でそのエネルギーを熱に変換し,この熱でお湯を沸かしてタービンを回そう!というのが,最も基本的な核融合発電のコンセプトです.
つまり,火力やら原子力やらと根本的には変わりません.ただ,天然ガスを燃やしたり核分裂反応を起こしたりする代わりに,核融合反応を使おうぜ,ということです.

核融合発電は何が良いのか

燃料の重水素は海水中に無限に存在すると言われ,資源の偏在と枯渇の問題が解消できると言われています.三重水素は放射性同位体で自然界に存在しないため,リチウムと中性子を反応させて,発電プラントで生産するという想定がされています.

また,原理的に安全とよく言われます.反応を起こすための条件が非常に厳しく,もしなにか事故が起きても,反応を起こせなくなって収束するだけで,暴走することはない,ということです.事故が全く起こり得ないという意味ではありませんが,連鎖反応である核分裂反応を制御する必要のある原子力発電とは対照的な特徴です.

最後に,高レベル放射性廃棄物が出ない,という点を挙げますが……誤解を招かないように,少し丁寧に説明します.そもそも高レベル放射性廃棄物というのは原子力発電の運転に伴って発生する使用済燃料のことです.定義的に,核融合発電に伴って発生することはありません.
先程もいいましたが,燃料のトリチウムは放射性同位体です.さらに,反応時に出てくる中性子にさらされることで,様々な装置・建材が放射化します.ですがこれらは高レベル放射性廃棄物ほどヤバいものではありません.放射化した材料については,しばらく置いて冷ましてから再利用する,というような計画もあります.つまり,「放射性物質は取り扱う必要があるが,処分にも困るレベルの核のゴミは出ない」という程度の意味と考えてください.

いいことづくめじゃん!じゃあ今すぐ石油とウランを使うのをやめて,これから毎日核融合をしようぜ!というわけにはいきません.なんででしょうか.

核融合を起こすには

なんでかと言うと,発電できるレベルで核融合反応を起こすのが難しく,現在も研究開発の途上だからです.

前述の通り,核融合反応は原子核同士の衝突反応です.一方,普通に存在する原子というのは,原子核の周りを電子が飛び回っています.原子同士を近づけても,マイナスの電荷を持つ電子同士が反発し,核融合は起きません.そこでまず,原子核と電子がバラバラに運動するような状態である,プラズマ状態にしてやる必要があります.

プラズマは固体・液体・気体に次ぐ第4の状態とも呼ばれる物質の状態で,実は結構身の回りにあります.例えば蛍光灯とか,炎とか,雷とか.半導体系の研究室だと使っているところがあるかも.他に,医療応用とか,そういう方面でも使われています.

プラズマ中では簡単に核融合が起こるかと言うと,そうでもありません.原子核もまた,プラスの電荷を持っていますので反発します.この反発力を乗り越えて反応を起こすために,より速いスピード=高い温度を与えてやる必要があります.必要な温度は数億度と言われています.

高温=高エネルギーの原子核があっても,反応が起こるかどうかは確率的です.原子核に与えたエネルギーが失われるまでの時間(閉じ込め時間)を長くして,反応が起こりやすくしてやる必要があります.

さらに,いかに核融合反応で生じるエネルギーが莫大といえど,1回の反応では発電にはとても足りません.高頻度で反応が起こるように,プラズマを高密度に保つ必要があります.

この温度・密度・閉じ込め時間は核融合発電の実現のために必要な三要素と言われています.プラズマを閉じ込め,加熱して,これらの条件をクリアするために,日夜研究が続けられています.

具体的にどうするのですか

プラズマは原子核と電子からなるので,個々の粒子は電荷を持っています.このような荷電粒子は,磁場があるとそれに巻き付いて運動するという特徴を持っています(サイクロトロン運動).つまり,磁場を使うとプラズマを閉じ込めることができるのです.磁場を使ってプラズマを閉じ込め,核融合を起こそうとする方式を磁場閉じ込め方式といいます.そのままです.

最も単純なイメージでは,磁場を一周ループにしてやれば,入り口も出口もなくなり,プラズマは磁場から逃れられず,閉じ込めることができそうです(よね?).

実際には,電子・原子核の電荷の正負が異なるために両者の分布が上下に偏り,プラズマ中に電場が誘起され,プラズマは円環の外方向へ逃げてしまう.これを防ぐには,分布の偏りを打ち消してやる必要があります.どうするかというと,磁場を「ねじる」という方法がとられています.

磁場をねじる方法の違いによって,磁場閉じ込め方式は2種類に大別されます.

1つ目が,磁場をねじるために磁石(実際には電磁石なので,コイル)をねじってやろう!という考え方.これをヘリカル方式と呼びます.ねじれたコイルを作るのが大変,というデメリットがありますが,プラズマを安定に保ちやすいのがメリット.日本では,岐阜県土岐市にある大型ヘリカル装置(LHD)が代表的です.

2つ目の方式はトカマク方式と呼ばれ,現在世界的にはこちらの方式のほうが研究が進んでいます.トカマクのコイル構造は,ヘリカルに比べてシンプルです.まずコイルを多数並べ,円周方向の磁場が発生させます.コイルの内側にプラズマを作り,プラズマ中の円周方向に電流を流します.すると,円周方向の磁場と直行する方向に磁場が生成されます.これらの磁場の重ね合わせで,ねじれた磁場を実現します.
ちょっと言葉だけで説明するのが難しいので,こちらの図(wikipedia)を参考にしていただきたい.

トカマク方式のメリットとしてはコイル構造がヘリカルほど複雑でないこと,デメリットは磁場の生成にプラズマ電流を用いるので安定な閉じ込めが難しいことなどが挙げられる.また,大きな(MA程度の)プラズマ電流を流すので,ジュール加熱によってプラズマを高温化しやすいというメリットがあり,これによって核融合発電成立のための条件クリアに近いと言われています.日本ではかつて,茨城県那珂市にJT-60という装置があり,世界トップレベルの研究が行われていました.この装置は現在アップグレードが進められており,超伝導コイルを用いた実験装置JT-60SAとして今年〜来年には再始動を予定しています.また,フランス南部にはITERという超大型のトカマクが製作中で,世界全体で協力して研究を進めています.ITERは2025年の運転開始を目指して準備が進められています.

具体的にどうするのですか もっと知りたい人向け

せっかくなのでもう少し細かい話も書いちゃおうかな.
読み飛ばしてくれても全然大丈夫です.

プラズマを閉じ込めて放っておいても,核融合反応は起きません.先述の通り,温度を上げる=加熱してやる必要があります.ここでは磁場閉じ込め核融合プラズマでよく使われる加熱方法を2種類紹介します.もっと知りたい人はこのへんを読んでね.

1つ目が電磁波による加熱.電子レンジみたいなものとよく言われます.イオンサイクロトロン共鳴加熱(Ion Cyclotron Range of Frequencies Heating, ICRF)と,電子サイクロトロン共鳴加熱(Electron Cyclotron Resonance Heating, ECH)の2種類に大別されます.いずれも,プラズマ中の荷電粒子(イオンと電子)のサイクロトロン運動の周波数に近い電磁波を入射し,共鳴によってエネルギーを与えます.

2つ目が,中性粒子ビーム(Neutral Beam Injection, NBI)加熱.中性粒子を加速してプラズマに打ち込み,そのエネルギーをプラズマに与えます.なんで中性かというと,イオンを打ち込んでも磁場に捕らわれてしまいプラズマ中に入っていけないから.ただし,粒子の加速はイオン化して電圧をかけることで行うので,打ち込む前に中性化しないといけない.

このように,加熱ひとつとってもいろいろな方法があり,それぞれの方法について性能向上のための研究が盛んに行われています.

核融合研究のいろいろ

前の節では加熱について触れましたが,これ以外にも色々な研究分野があります.核融合は総合工学と言われ,多くの分野の技術の粋を集めて成立を目指しています.専門ではない分野が多いですが,さらっと説明してみたいと思います.間違ったことは言ってないと思いますが,万が一間違っていたらごめんなさい.

まず,超伝導工学.大電流を流せるコイルを作るには,超伝導材料を使うことが不可欠です.高温超伝導を使えないか,みたいな研究もされています.

次に,材料工学.プラズマを閉じ込める真空容器の内壁は超高温になる上,放射化します.これに耐えうる素材の検討が進められています.液体金属を使おうという研究もやられています.

この他,プラズマの計測技術の開発や,炉内構造の検討なども研究が続けられています.

最近では機械学習とかビッグデータとか,そういうのでなんとか役に立てないかな!みたいな研究も出てきています.僕もその一人で,プラズマが急に崩壊する現象の予知と解明を目指しています.崩壊は炉にダメージを与えるだけでなく,実際に長時間の発電を行うことを考えると,電力供給を不安定にしてしまいます.その解明は大きな課題です.

工学だけでなく,プラズマ物理学の研究もまだまだ行われています.特に,太陽プラズマ(太陽は内部で核融合反応が起きており,そのほとんどがプラズマ状態)の研究のために国立天文台と共同研究しているところもあります.また,岐阜にある核融合科学研究所はスパコン雷神を持っており,シミュレーション研究にも力を入れています.

核融合を応援してくれ

僕たち核融合関係者は,この研究が結実すれば世界を変えられると信じて研究に取り組んでいます.どんな研究でもそうですが,応用としての側面が強まるほど,研究は研究者だけで完結しません.核融合発電が当たり前になる社会までの第一歩は,多くの人にまず知ってもらうことです.そういう気持ちでこの記事を書きました.知ってどう考えるかはそれぞれですが,気になることがあったらぜひ議論をふっかけてください.

この記事で核融合を知り,できれば我々研究者を応援してくれると嬉しいです.

ついでなので宣伝

実は今度そういう本も出ます.一般向けのわかりやすいやつだと思うので,ぜひ読んでみてほしい.僕も買います.

おわりに

明日はEEIC2015のNOBISANだぜ.

じゃあな!

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