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映画ウマ娘 "新時代の扉"の全シーンをダイジェストで振り返る ※ネタバレ全開・再編集版

はじめに(飛ばしてもOK)


新時代の扉、今世紀最高の映画でした。

そもそも私がウマ娘にハマったきっかけは、トウカイテイオーが主役のアニメ2期でした。ありふれた擬人化萌えアニメだと思っていた私の先入観はものの見事に打ち砕かれ、何度も感動の涙を流しました。
RTTTにも夢中になった私は、すっかりウマ娘の映像作品の虜となっていて、映画は絶対に公開初日に観にいくと心に決め、前売り券を握りしめながら5月24日を待ち侘びていました。
そしていよいよ迎えた上映時間、自分の中で完成度へのハードルは上がりまくり。
それでも、文句なしに大満足の素晴らしいものを見せてくれました。
どんなに面白くても、同じ映画を2度観に行くことはまあ無いのが私という生き物なのですが、翌日即座に2回目を観に行きました。それほどの衝撃をこの作品は与えてくれました。

この記事は、そんな"新時代の扉を観終えた人"による、ネタバレ全開の内容です。
全シーンを振り返りつつ、あの感動を分かち合ってうんうん頷きあおうぜというだけの趣旨のものです。
なお、劇中のセリフはうろ覚えです。おおまかなニュアンス以外は間違っていると思います。
文章校正もあまりしないでザクザク書き進めた乱文ですが、それでもよければどうぞ!



本編

まず最初に、ポッケが持っている綺麗なアクセサリーの名称は"サンキャッチャー"らしい。

太陽光は、様々な波長の光が混ざり合った結果、白く見えている。
その光をサンキャッチャーでプリズムのように乱反射させると、波長の違う光=それぞれ色の違う光が、鮮やかに映し出される…という原理らしい。(間違ってたらごめんなさい)


"Twinkle Miracle"

"早春の空の下、クラシックレースの行く末を占う大事な一戦が今、始まろうとしています。"

ウマ娘たちの憧れの舞台、トゥインクル・シリーズ。そのGⅡレース、弥生賞のゲートインは粛々と進む。
8番のゼッケンを身につけた、黒髪ショートのウマ娘 ──フジキセキは、ゲート内で大きく深く息をつき、発走の刻を静かに待っていた。

そのレース場に訪れたウマ娘・ジャングルポケット。愛称はポッケ。
トゥインクル・シリーズとは異なり、非公式の"フリースタイル・レース"で頭角を表す実力者である彼女とその仲間たちは、"中央"で開催される公式レースを興味本位で観戦しにやってきた。

「ここのお嬢サマ連中がどんだけ速ぇのか、見てみようじゃねえか」

物見遊山に観客席へと飛び出した瞬間。
一陣の風が、ポッケの傍を強く吹き抜けた。

その風の正体はフジキセキ。ポッケは、たちまちその姿に目を奪われる。

「(あいつは、──違う。なぜそう思うのか、何が"違う"のかもわからないけれど、あいつは──)」

ポッケがそんなことを感じているうちに、レースは終盤へとさしかかる。
先団のウマ娘たちは苦しげに、追い上げてきた後続のウマ娘の隙間に飲み込まれ、沈んでゆく。
同じく先行していたあのウマ娘も、きっと同様に──

"フジキセキ、埋もれてしまうのか──!?"

しかし、その瞬間。ポッケがフジキセキに感じた"違い"、その真髄がついに披露される時が来た。
フジキセキのショータイムが、満を持して幕を開ける。

強く踏み込んだその一歩から、スポットライトは道筋を照らしだす。
"奇跡"を見せる煌びやかなスターが、眩い光を放って猛然と加速する。

黒い流星が、ポッケの持つサンキャッチャーを光で満ち溢れさせてゆく。
まばたきすら忘れるほどに、その姿から目を離せない。

そのまま先頭でゴール板を駆け抜けたフジキセキは、感涙を零す自分のトレーナー・タナベを視界に捉え、やっと安心したように表情をほころばせる。
そうして、美しく、丁寧な所作で、観客席に向けて一礼するのだった。


あまりの衝撃に心を奪われたポッケは、レースもとうに終わり、夕暮れ時にさしかかったコースをただじっと見つめ続けていた。
背後からかけられた仲間たちの声も耳に入らぬ様子で、ポッケはただ呟く。

「俺も、走りてえ…
俺も、あんなふうに走ってみてえ…
さっきのあいつみてぇに、誰よりも速く…。」

その瞳に、色鮮やかな光が宿る。

「決めたぜ!俺は今からトゥインクル・シリーズに入る!
強ぇヤツをどんどんぶっ倒して…」

天高く投げ上げたサンキャッチャーを、自らの手で掴み取る。

「そんでもって、なってやる!最強に!!」

新 時 代 の 扉


"Ready!! Steady!! Derby!!"

時は流れ、宣言通りポッケはトレセン学園に入学した。

あの日憧れたウマ娘と同じ場所に、やっと来ることができた。興奮しながら、ポッケはフジキセキと激しく握手を交わす。
そんなポッケの姿に最初は驚いた顔をしていたフジキセキだが、彼女のたっての願いで、ポッケの指導は既に一線を退いていたタナベトレーナーに引き受けてもらえることになった。

元々持ち合わせていたフリースタイル・レースでの経験と、恵まれた末脚のキレという才能。
それを武器に、ポッケはデビュー戦での勝利に続き、GⅢ・札幌ジュニアステークスではなんとレコード勝ちを飾る。
その素質の高さに、フジキセキとタナベトレーナーは驚愕した。

生きてく(ハイ!! 意味なんて(ハイ!!
に合わせてゴール板を駆け抜ける演出がオシャレ!

ジュニア級にして目覚ましい快進撃。
ポッケの次戦は、GⅠの大舞台・ホープフルステークスと定まるのだった。


ホープフルステークス

初めてのGⅠ、初めて袖を通す自分の勝負服に浮かれ気味のポッケ。
それを似合っていると褒めながら、フジキセキはポッケのリボンを結び直す。

『君ならやれる』
ポッケにかけられたその言葉は満面の笑みと共にありながら、どこか寂寥感を滲ませるものだった。

タナベトレーナーの説教くさい言葉を聞き流しつつ、意気揚々と地下バ道に乗り出したポッケ。
ターフに向けて歩みを進める途中、白衣の奇妙な勝負服に身を包んだウマ娘・アグネスタキオンと邂逅する。

「よう。噂は聞いてんぜ?
レースで一緒になんのは初めてだな。よろしく!」

タキオンからの返事はない。しかしポッケは、その立ち居振る舞いから"違い"を感じ取る。

「オメー…速ぇな?」

『…どうしてそう思うんだい?』

「匂うんだよ。強ぇ奴の気配がな。隠してたって俺にはわかる」

『…ああ…そういう君は、フリースタイル・レースから来たっていう…。』

突然、無遠慮にポッケの足に触れて撫で回し始めるタキオン。驚きから、ポッケは素っ頓狂な声をあげた。

『なるほど資質は感じるね。このトモの張り、関節の柔らかさも申し分ない。デビュー以来ここまで無敗というのもこれならば納得だ』

身悶えしながら、ポッケは必死に抗議する。

「なにしやがる、なんなんだオメー!?」

アグネスタキオンだ。ジャングル"バゲット"くん?』

「…知ってるよ!そんで俺はジャングル"ポケット"だ!」

『冗談さ。今日はお互い頑張ろう、ジャングルポケットくん』

「…なんだったんだ、アイツ…。」

掴みどころのないタキオンに翻弄されたまま、ポッケはゲートに収まる。

「…まあいい…全員ぶっちぎれば…済む話だ!!」

意気込み十分のまま、ポッケの初めてのGⅠレースは幕を開けた。

レース発走直後の
"ホープフルステークス 阪神 芝 2000m 右 晴 良"
っていう文字の演出がかっこよかった…

余談ですが、当時は
GⅠ・ホープフルステークスではなく
GⅢ・ラジオたんぱ杯3歳ステークス
だったらしいです 阪神開催なのは元のレースがそれだったからっぽいですね

ポッケの一人称視点から見る映像がめちゃくちゃ没入感あって最高だった!周りのウマ娘の動きを見ながら走るってこういうことなのか…!
BGMも一切なく、ただ吹き荒ぶ風と地鳴りのような足音だけが響いていて臨場感がすごかった…

「ここで力を溜めて、最後一気に抜け出す…
俺ん末脚、見せつけてやる…!」

『いいペースで走れているね。ナベさんの指導の賜物かな』

初めての大舞台でも、ポッケは順調に自分の走りをできていた。

「これがGⅠレース…
確かにレベルが高ぇ…周りの圧も半端ねぇ…!
けどな…!
最強は、俺だ!!」

あっという間にレースは終盤。ポッケは絶好のタイミングでスパートをかける。

『よし!!完璧!!』
思わず、フジキセキですら快哉を叫んだ。

──それでも、"超光速のプリンセス"には届かない。

会心のスパートを決めたはずのポッケの顔は、文字通り泥を被り、最後まで遠ざかってゆくその背を見送ることしかできなかった。
レコードタイムを記録した彼女 ──アグネスタキオンは、しかし2着以下の自分たちの事など気にも留めていない様子でただ佇んでいる。

ジャングルポケットは、こうして初めての敗北を喫することとなった。


初めての敗戦、そして有馬記念

腹筋を鍛えつつ、ポッケはタナベトレーナーと前走を振り返る。

『お前の走りそのものは決して悪くなかったぞ。もてる力を充分に出し切って…その上で、タキオンに上回られた』

「あんなやべぇヤツが居たなんてな…。」

『あの圧倒的な勝ちっぷり。おそらくまだ本気も出しておらんじゃろ。並のウマ娘ではないのう。』

「…う…」

『来年のクラシック戦線は、タキオンに話題をさらわれそうじゃ』

「なんだよ、アイツばっか褒めてぇ…!ナベさんは俺のトレーナーだろぉ!?」

このセリフの直後、フジ先輩に頭を抑えられた時のポッケの"😢"って顔がくっそ可愛かった

『カリカリしないよ、ポッケ。
この敗戦をどう活かすかが今後の鍵だと、私は思うけどね。』

手渡されたレモネードを受け取りつつ、ポッケは呟く。

「フジさんは負けなかったじゃないっすか…俺も後に続けると思ったのに…。」

フジキセキは何も言わない。代わりにポッケの頭をひと撫でしつつ、
『有馬記念、始まってるよ!』
と、タナベトレーナーに呼びかけた。


同時刻、旧理科準備室。
アグネスタキオンは、あやしげな液体を試験管から直接飲み下しながら、有馬記念の趨勢を眺めていた。
そこに、旧理科準備室のスペースをタキオンと共有するウマ娘・マンハッタンカフェが、満身創痍といった様子で現れる。

「君もみんなも、そんなにがむしゃらに走って…
なにがそこまで君たちを駆り立てるのだろうね?」

私には理解できないよ、とでも言いたげにタキオンはカフェに語りかける。

『…私は、ただ…"あの子"に追いつきたいだけです…』

カフェは短く、そう返答した。タキオンは再び中継画面に目を向ける。

「本能なのだろうねぇ、我々ウマ娘の。
走らずにはいられない。その先に待つ何かを渇望し、執着し、追い続ける。
ウマ娘の持つ可能性、その先へと──」


有馬記念はついに終盤。画面の中のウマ娘たちの動きが激しくなっていく。
ポッケはブラウン管のテレビに齧りつくようにして、歯痒い展開に息を詰めていた。

「なんだよ…こんなんじゃ、前に出ようにも出られねぇじゃねえか!」

『テイエムオペラオーは絶対王者。徹底的にマークされるのは宿命じゃ』

『勝ちたい気持ちはみんな同じだ。
特に有馬記念は、ファンの期待を背負った子たちが走るレースだからね…
絶対に負けられないんだ…。』
なにか思うところのあるように、目を伏せるフジキセキ。

"テイエムオペラオーはどうするんだ!?残り310mしかありません!!"

誰もが絶望的だと諦めた瞬間。
だがしかし、覇王の眼は一瞬の隙を捉えていて──

"テイエム来た!!テイエム来た!!テイエム来た!!テイエム来た!!"

絶対王者との呼び声に偽りなく、"世紀末覇王"は堂々たる姿で君臨した。
もはや言葉は要らず。力強く掲げられた右腕が、その栄光を高らかに謳う。

フジキセキをして『ありえない』とまで言わしめた、圧倒的な勝ちっぷり。
その全てを目の当たりにしたポッケは、恐れるどころか闘志をむき出しにしていた。

「やべぇヤツばっかじゃねぇか…!タキオンも…オペラオーも…!
へこたれてる暇なんかねぇ…
やるぜ、ナベさん!強ぇやつらがこんなにいるんだ…
負けっぱなしじゃいられねぇ!」

熱く対抗心を燃やしたポッケは、トレーニングに一層励むのだった。


"プランB"の被検体

ゲームでタキオンorカフェの育成シナリオをプレイしていれば、

プランA:タキオン本人の走りで可能性の果てへと到達する
プランB:自らの走りにはこだわらず、観察によって可能性の果てを目指す

という2つのプランについてはよく知っていると思います。別に知らなくても映画の内容にはついていけるように作られてて親切。

「今からタキオンどやしに行くからよ」

『ど、どや…?』

「アイツは強ぇ。強ぇからぜってーぶっ倒してやりてぇ!
そんじゃ、行ってくる!」

『わ!待ってよポッケちゃ〜ん!!』

ポッケの突拍子も無い宣言を耳にした同期のウマ娘・ダンツフレーム。
心配になってそのままついてきたダンツと共に、ポッケは旧理科準備室へと向かう。

「邪魔するぜ、タキオン!」

実験室、その窓際。
"プランA"への懸念をひとり呟いていたタキオンは、突然来訪してきたポッケに対して華麗にスルーを決め込んだ。
無視されたポッケの表情は引き攣る。

『…ポッケちゃん、怒んないで…!』

小声で制止するダンツの努力も虚しく、ポッケはずかずかと部屋に乗りこんでいく。

「無敗ウマ娘のタキオンサマは、普段トレーニングで見ねぇと思ったら、こんなところに引きこもってやがったのかよ」

『カフェ、お客だよ。』

『…あなたのお客のようですが…』

『はぁ、今忙しいんだがねぇ…』

「おいタキオン!
俺に一回勝ったぐれーでチョーシ乗んなよ!」

そこでようやくポッケに視線を向けたタキオンは、

『ああ、誰かと思えば。昨年末"私に負けた"ポッケ君じゃないか!』
と煽る。
→ポッケの声でダバダバ動く奇怪なモンスター爆誕

『用があるのなら手短に頼むよ。私は今忙しいんだ』

狂乱のポッケの挑発を飄々とかわし続けるタキオンにとうとう痺れを切らし、ポッケは椅子ドンと共に宣言する。

「オメーは俺が必ず倒す。最強になるための第一歩としてな。
オメーは強ぇ…だが、俺はもっと強ぇ。
前みてぇな負けは、二度としねえ…」

突然のことに呆然とするタキオンに対し、拳を突き出しながらポッケはさらに続ける。

「勝負だ、タキオン!
俺とオメー、どっちが強ぇか…クラシックで白黒つけようじゃねえか!」

その時、タキオンはホープフルステークスにて垣間見た、ポッケに眠る"可能性"を思い起こし…。

『クックック…!アーッハッハッハ!!
私に勝つ?君が?フッ…フフフ…!』

「…なにがおかしい?こっちはマジで…」

"見つけた"。彼女であれば、"プランB"の被験体としては申し分ないだろう。

『君の挑戦…受けて立とう。』

歪みきった笑みを浮かべながら、タキオンはその挑戦を受け入れる。

『せいぜい頑張って追いつきたまえ。

「そん言葉、そっくりそのまま返すぜ。」

互いに不敵な笑みを浮かべ、ふたりは正面から相対するのだった。


「うっし!」

「併走だぁーーーーーーー!!!!!」

『実験だァーーーーーーー!!!!!』

そしてこの顔である

『さあさあ適当に走ってみてくれたまえ、ほらほら!』

「ってお前は走らねぇのかよ!?」

『私は観察できればそれでいいからねぇ。
自分の脚を消耗するよりも、君たちのデータを優先させてもらうよ』

「イミわかんねぇ〜〜〜!!」

どこまでもマイペースなタキオンに呆れつつも、ポッケは同期のダンツ&カフェのみならず、偶然コースに居合わせた先輩のウマ娘・ナリタトップロードも巻き込み、併走を始める。

かの"世紀末覇王"テイエムオペラオーと競い合った上で、GⅠ・菊花賞を制した実力者であるトップロードですら驚くほどに、ポッケの成長は目覚ましいものだった。

『デビュー1年目でこの加速力…!
私もトゥインクル・シリーズの先輩として…
負けていられません、ねっ!!』

「やっぱいいなぁ、強ぇ奴とやるってのは!アガるぜ!!」

お互いが刺激しあいながら、ウマ娘たちは実力を高めていく。

『"他者と競い合う事により生じる走りの変化"…興味深い!』

スタンドから観察を続けるタキオンもまた、そんなウマ娘たちの姿に影響を受ける。

「まだまだ行くぜ!トップロード!!」

『はぃぃいいいっ!!』

「…そう、まだまだだ。俺の、最強は───!」

勢いづいたポッケは、そのままGⅢ・共同通信杯にて勝利。
クラシック三冠初戦・皐月賞へと歩を進めるのだった。


弥生賞

「い〜いねぇ…実に良い!
共同通信杯でのポッケ君のあの走り!
このまま観察を続けていけば、興味深いデータが取れそうだよ!」

高揚気味に、珍しく実地のトレーニングコースでストレッチを行うタキオン。
その傍のベンチに、マンハッタンカフェは座りこんでいた。その全身からは尋常でない量の汗をかいており、明らかに調子を崩しているようだ。

「そして…弥生賞も近い。
"お友だち"を追う君の走りが、私にどんなデータを提供してくれるのか…
それも楽しみだ。」

そんなカフェの調子を気にも留めず、タキオンはマイペースに語りかけ、楽しげにコースへと走りだした。

カフェは漆黒の雷雲に向け、手を伸ばす。

『"あなた"に追いつく…
誰にも…先を越させない…。』

そのか細い声は、今はまだ遠く。


場面はGⅡ・弥生賞。
先団で軽やかに疾走するタキオンに対し、カフェはまともに走ることもままならないほど体調を崩している様子で、ずっと苦しそうにもがいている。

史実では、前走からマンハッタンカフェの馬体重は-20kgと激減していた。
それでも、上がり3ハロンはタキオンに次いで2番目に早かったようだ。最終的な着順でも4位に食い込んできたのは、流石の実力と言えるだろうか。

なお、1着のアグネスタキオンは、2着と5馬身差で圧勝している。

「ウマ娘の走り、その可能性。」

「我々ウマ娘は、未だ解明されぬ謎と脅威に満ちた生物。
時速70kmにも及ぶ脚力、その走りを支える心肺機能、強靭な筋肉。
──まさしく、走るために生まれてきた存在。」

「知りたい…ウマ娘の脚に眠る"可能性の果て"は?
この肉体で到達し得る限界速度は?

…その実証実験としてのレース…。

限界のその先へ…私自身の脚を極限まで磨き上げ、到達する…!

劇中BGM "LiGhTnIn' TaChYoN"

タキオンはそのまま、他の出走者を一瞬で置き去りにする。
マンハッタンカフェは、そんなタキオンの姿が"お友だち"に追いつきそうになる光景を、遥か後方からその双眸に灼きつけていた。

『おいおい、圧倒的じゃないかタキオンは…!』
『"最強"だろ、こんなの…!』

そんな観衆の声を受け、ポッケは面白くなさげな表情を浮かべる。
しかし次の瞬間には、タキオンに対して不敵な笑みを向けていた。

「そうでなくっちゃなぁ、それでこそぶっ倒し甲斐があるってもんだぜ…タキオン!」

そんな観衆たちの声も、他の出走者たちの存在ですら歯牙にもかけず、彼女はただひたすらに加速する。
"果て"へとこの脚で到達するために。ウマ娘としての本能が叫ぶままに。

「私はどこまで行ける?この先には何がある?
可能性の果て、その光景は…!

恍惚の表情を浮かべながら疾駆するタキオン。
その先に、彼女は確かに"可能性の果て"を視た。
───踏み入れば、自らの脚が砕け散るであろう神域を。

ゴール板を通り過ぎた後、タキオンは自らの左脚に触れて、何かを悟ったように俯く。
そしてすぐさま、後続のカフェと観客席のポッケを見回し、静かに微笑んだ。

「…あるいは、彼女たちか…。
…それもいい───」

呟いた彼女は、とうとう"プランB"へと移行する覚悟を固めるのだった。


後悔と憧れ

弥生賞で圧倒的な走りを見せたタキオンに感化され、一層奮起するポッケ。その成長は目ざましく、ベテランのタナベトレーナーですら目を見張るほどだった。

「どう?ポッケは。」
手品のように現れたスポーツドリンクをタナベトレーナーに手渡しつつ、問いかけるフジキセキ。

『悪くないぞぉ。走りはまだちと粗いが、あの末脚は天性のものじゃな。
タキオンのような強い同期がいたのは、あやつにとっては幸いかもしれん。
負けん気が強い分、ライバルがおることで、より闘志を漲らせておる。
皐月賞…"その先"も、競い合って強くなっていけば───』

そこでタナベトレーナーは言葉を切る。
隣にいるのは、自分が"その先"へと導いてやることのできなかったウマ娘。

『…お前があいつを連れてきた時は、何をいまさら、と思ったがな。
もう何年も現場を離れていたワシに、もう一度新人の育成など…。』

「…ごめんね。でも、私には…
ナベさん以上のトレーナーは、思いつかなかったんだ」

フジキセキは言葉に詰まりながらも、笑顔を取り繕ってそう述べる。

『…何を言いおる。ワシは結局、お前のことを…。』

それきり、目を伏せてしまうタナベトレーナー。フジキセキもまた、返す言葉を持ち合わせていなかった。


そんな中、コースでがむしゃらに走り続けるポッケを、校舎から眺める3人のウマ娘たちがいた。

「ポッケちゃんすごいねぇ…!」
『ロジカルじゃねェ練習量だが、ありゃ器が違ェなァ。』
トゥインクル・シリーズにおいては先輩のヒシミラクル、エアシャカールらも舌を巻くその素質。

この場で唯一ポッケと同期のウマ娘・ダンツフレームも感嘆の声を漏らす。

「すごいなぁ、ポッケちゃん…。
レコード勝ちして、共同通信杯でもすっごく強くて…。」

ダンツの手にした新聞記事の一面は、皐月賞の特集で埋められていた。
紙面に躍るのは、有力視されているポッケやタキオン、ペリースチームらの堂々たる姿。
クラシックレース初戦・皐月賞。一生に一度しか出走することの許されない、GⅠの大舞台。そこには、自分も出走する。

「ほんとに、すごいな…」

しかし思わず零れたのは、憧れのような、羨望のような言葉だけだった。


"Willow Promise"

「いやー、今日も走った走った!」
『いい調子だね。ナベさんも褒めていたよ』
「当然っすよ!タキオンに負けてらんねえっすから!」

タキオンとの再戦を前に、上り調子のポッケ。
その帰路で、フジキセキは不意に柳の葉の下で足を止め、伏し目がちに切り出した。

『…これは、私のエゴなんだけど──…』

その口ぶりに、ポッケも真剣な面持ちで耳を傾ける。

『ポッケには、ナベさんを…
日本ダービーに連れて行ってほしいんだ。
…私には、できなかったことだから』

ポッケがハッと、息を呑む。

『ダービーには夢があるからね…
ウマ娘にとっても…トレーナーにとっても。
…弥生賞のあと、結局私は、レースに復帰する事が叶わなかった。
あれだけ期待をかけてもらったのに、ナベさんをダービートレーナーにしてあげられなかった。
…でも、君ならきっと…。』

柳の陰に隠れたままで、フジキセキは、

『ポッケ。私たちの夢を、叶えてくれないか』

そう告げた。

…その悔しさなら、ポッケだって知っている。
あの日憧れたフジキセキの引退。それは、ポッケにとってもたまらなく悔しいものだった。
けれど、だからこそ。憧れの人の最高の夢を、自分に託してくれるというのなら。

「…任せてください。
俺は絶対最強になって、フジさんとナベさんの夢、叶えてみせますから!」

陽の下で、拳を突き出しながら力強く宣言するのだった。

ご存知の方も多いとは思いますが、実馬のフジキセキとジャングルポケットは、勝負服や馬主、調教師や厩務員、そして騎手の角田晃一さんまでもが全く同じチームでのダービー挑戦でした。

また、アグネスタキオンにも全く同じ境遇・なおかつ全兄(両親とも同じ)の"アグネスフライト"がいました。
ポッケたちの前年度にエアシャカールと競い合い、わずか7cm差でダービーを制した馬です。
タキオンに関するシーンには、飛行機(フライト)を彷彿とさせる演出が散りばめられています。
ここまでの話でも既に、弥生賞のラストシーンでさりげなく飛行機のエンジン音が挟まれていました。


"Tachyon"

「つーわけで勝負だ、タキオン!
今日だけじゃねえ。ダービーも菊花賞も、その先だって俺が獲る!」

皐月賞の直前、タキオンの控え室に押しかけたポッケによる再びの宣言。

長い前髪で目元が隠れたタキオンの表情は、微笑を湛えた口元でしか窺い知れない。

ディスプレイに映し出された"左脚"のレントゲン写真。それを一瞥し、暗い部屋の中で彼女は独りごちる。

「タキオンとは、常に光速より速く移動すると言われる仮想の粒子。
…仮想でも、示しておくべきだろう。
──狂気が生み出す、残光を」

たとえその脚が砕けようとも、"可能性の果て"へと踏み入る覚悟を。


皐月賞

ついに訪れたクラシックレース初戦、GⅠ・皐月賞。
最も"はやい"ウマ娘が勝利すると言われる、一生に一度きりしか挑戦の叶わぬ決戦の場。

"速くなければ戦えない。強くなければ超えられない。
そして、この大歓声に応えられなければ、勝つ資格はない!
ヒーローの条件を満たすウマ娘は、果たして──!"

響き渡るファンファーレ。ゲート内にポッケが収まった、その時…

「さあッ!!見てやがれお前ら!!
俺が全員ぶっちぎって、最強だ!!」

ポッケのみなぎる闘志が言葉となって、空気を震わせる。

『ポッケ…。』『…力みすぎじゃあ…』
フジキセキは困ったように笑いながら、タナベトレーナーは呆れながら零す。

そしていよいよ迎えた出走の時。
その直前、アグネスタキオンは、ゲートの中で何事か呟いた。

個人的な解釈だが、口の動きや語数から鑑みるに、タキオンが呟いたのは

『灼きつけたまえ』

という言葉が有力だと思われる。

ゲートが開き、ついにクラシックレース初戦・皐月賞は幕を開けた。
しかしポッケは気合いがから回ったか、スタート直後に躓いてしまう。
ざわつく場内。慌てたポッケは、それでも必死に自分のポジションをキープするべく加速する。

「ちょっと焦っちゃったかな…。」

『闘志が裏目に出たか…
わずか2000mの勝負、あの出遅れは痛い…。』

「焦らないで、ポッケ…君の脚なら、必ず…!」

誰もが固唾を呑んで見守る中、レースは中盤にさしかかる。先団のウマ娘はスタミナの消耗が激しい。
そんな中でも、ポッケの目に映っていたのはタキオンの姿だけだった。

「前の連中はキツそうだが、オメーはそんなタマじゃねえ…そうだろ?」

アグネスタキオンの目元は長い前髪に覆われていて、表情が読めない。
唯一見えるのは硬く結ばれた口元だけ。それがさらにきつく絞られた瞬間、白衣の彼女は最後の進撃を始める。

ポッケはそれを視界に捉え、対抗心を一気に燃え上がらせた。

「行かせっかよッ!!」

躓いてしまった痛手を負いながらも、ポッケは執念で追い込みをかける。

『直線勝負に持ち込んだ!!
300mしかないが、あとはポッケの末脚次第で…!』

「うおおおお!!タァキォォオオオンッ!!!」

いける。勝てる。追いつける!勝利の手応えに思わず笑みが滲む。
滴った汗のひと雫。

しかし、そこに映し出されたのは、あまりに眩い仮想の粒子の輝きだった。

『──見ていたまえ、私の走りを。
灼きつけたまえ、残光の輝きを。』

幾重もの自分の姿が、道筋の先でひとつになっていく。
ひとつの完成形、ひとつの終着点、ひとつの最適解を導き出す。
実験と計算の成果。彼女は遂に、そこに到達せんと踏み込んだ。

『燃え尽きた骸から…新たな可能性を…』

『呼び覚ませ』

──戦慄が走る。ポッケとダンツの表情に、絶望が色濃く刻まれる。
飛行機雲は、彼女の最後のフライトを描き出した。

"アグネス先頭!!アグネス先頭ッ!!"

光速を超えるかの如き速さで駆けてゆく彼女に、必死に喰らいつく。
しかし、打ち倒すべきその背は、無情に、無慈悲に、ただ遠ざかってゆく。

「アイツに勝つんだ…最強になるんだ…!
絶対に…絶対に…!
…クソォッ!!」

──ふとポッケの胸をよぎったのは、"追いつけねえ"という思い。

『すげえ…』『最強だ…!』
『やっぱり最強はタキオンだ!!』

熱狂の渦が拡がる。誰もが確信を持って、最強たるその名を口にする。

"これは決まったか!?圧倒的才能がさらにもうひと伸び!!"

アグネスタキオンのさらに前を走るのは、ずっと追い続けてきた"可能性の果て"の姿。
自らが砕け散ろうとも構わないと、迷わず踏み込んだ先で、彼女はとうとうその姿に追いつき、重なり──

「タキオン!!!!!!!」

ジャングルポケットのその叫びは、あるいは引き留めるものだったのかもしれない。

空の彼方に、最後の軌跡が描かれる。
ゴール板を駆け抜けた瞬間のタキオンは、屈託のない笑みを浮かべていた。
その表情はあまりにも美しく、それでいて切なさを感じさせるものだった。

ガクガクと力なく震える左脚。あるいは、既に砕け散った残骸。
その持ち主である勝者の背に向け、ポッケは声をあげる。

「…ッしれぇ…おもしれぇな…。
…タキオン!!
…完敗だ…。流石だぜ…やっぱとんでもねぇ野郎だ…お前は…。
…けどな…次はねぇ…。
ダービーだ…全てのウマ娘の夢、日本ダービー…
そこでお前に勝って…証明してやる…。
最強は…俺だってな…!」

悔しさに固く拳を握りしめながらも、リベンジを誓ったポッケ。
だがしかし、タキオンの様子がおかしい事に気づいてはいた。

「…タキオン…?」

『…これでいい。物事は得てして、消去法さ』

そうして、わずか4度の戦いで神話になった彼女は。
ライバルたちを絶望させ、見る者の目を眩ませた超高速の粒子は。
異次元から現れ、瞬く間に駆け抜けていった。


無期限休止

URAの会見室。
そこに集った記者たちのレンズは、みな一様にひとつの方向へと向けられている。
盛んに明滅するカメラのフラッシュが、その報せの衝撃の大きさを雄弁に物語っていた。

『理由を聞かせてください!』『まさか、どこか怪我でも!?』

「ふぁ〜あ…。
…まあ理由は色々とねぇ。真実は常に複合的なものさ。」

退屈そうに欠伸をしながら、その会見の主役 ──アグネスタキオンは答える。

『…事実上の"引退宣言"、なのでしょうか…?』

「それを私に聞いても意味はないさ。確定的な未来なんて、誰にもわからないのだから。」

呆気に取られる一同を置いて、タキオンは告げる。

「ともかくだ。
現時点をもって、わたくしアグネスタキオンは…
レースへの出走を、無期限休止とする。」

ダスカがショックを受けてて胸が痛んだ

ポッケの見開いた瞳に映り込む、衝撃の会見映像。
信じ難いニュースを目にして、ポッケ・ダンツ・カフェら3人は、実験室に殺到する。
しかし、窓辺からゆらりと現れたタキオンの左脚を見て、会見では語られなかった事情を、その場の全員が察してしまった。
普段通りであればすぐさまタキオンに詰め寄るであろうポッケは、ダービーの直後に感じた違和感の正体を、この瞬間に理解してしまったのだ。

「歩けねぇほどひでぇ怪我した、ってワケでもなさそうだな…。
それなら、またすぐに戻ってこれんだろ?」

『会見でも言った通り、私はレースに復帰するつもりはないよ。
これまでのプランを見直した結果、これ以上私自身が走り続ける意味はないと判断した。
時間は有限だからねぇ。"無駄なこと"に費している暇はない』

『無駄な、こと…?』

思わず零れたダンツフレームのその声は、かすかに震えていた。

「…タチの悪い冗談はやめろよ…まだまだこれからだろ…?
もうすぐダービーだ…菊花賞だってある、その先だって──…」

『より有益な実験に集中したいのでね。今後はより効率的に成果を得られる研究へと移行していくつもりだ。』

「…俺はまだ、お前と…」

『…さて、話は以上かな?
それなら、こんなところで油を売っている暇はないと思うのだがね。
私は構わないが、君たちはまだトレーニングやら何やらで忙しいんじゃあないのかい?』

「…ざけんなよ…」

絞り出すように言ったポッケに、なおもタキオンは続ける。

『私は至って真剣だよ。
そもそもレースの勝敗なんて、私にとってはどうでもいい事だ』

そこまで言われて、もはや黙っていられるはずもない。
ついに激昂したポッケは、タキオンに掴みかかる。

「言ったよな!? 俺の挑戦、"受けて立つ"って!!」

『ポッケちゃん!?』

ダンツは慌てて止めようとするが、カフェは微動だにせずタキオンを睨みつけ続けていた。

「勝つためにレースしてんじゃねぇのかよ!!
なんのために走ってんだオメー…!!」

抑え込んでいた感情が、堰を切ったように溢れ出す。

「勝ち逃げなんてぜってえ許さねぇぞ!!
俺とオメー、どっちが強ぇか、ハッキリさせんじゃなかったのかよ!?」

それを受けたタキオンは、しかし
『その件は皐月賞で決着がついたはずだ。』
と吐き捨てる。そして、

『君はあの日。私の走りを見て、
──どう思った?

と、冷たく問いかけた。

──あの日、あの時、あの瞬間。「追いつけねえ」と、そう思ってしまったポッケ。言い返すこともできず、実験室を飛び出していってしまう。

『君たちのこれからの走りには、本当に。心から期待しているよ!
ぜひともその脚を存分に磨き上げ、さらなる可能性を示したまえ。
必要ならば、私の知識や技術も快く提供しようじゃないか。
なんなら、君たちのアドバイザーになってやってもいい!』

まくしたてるタキオンに、応じるものは誰もいない。

『わかんないよ…!あんなにすごい走りができるのに…
あんなすごい才能があるのに…!!
…あなたがいなくなったって、私たちは走り続けるから…!』

宣言したダンツフレームが走り去る。

『…弥生賞の時。
あなたがもう少しで、"あの子"に追いつきそうになるのを見ました。』
「そうなのかい?私にはなにも見えなかったが。」
『…私は追いつきます。必ず。』

覚悟したマンハッタンカフェが姿を消す。

それぞれの思いを受け止めたまま、ひとり実験室に残されたタキオン。
鬱陶しげに、包帯の巻かれた左脚の靴を投げ出し、小さく呟く。

「ああ、それでいい。君たちは…。」

さらなる可能性を見出すために、感情というファクターも決して軽んじてなどいないタキオンは、もしかするとあえて憎まれ役を買って出たのかもしれない。
執念でも復讐心でも構わない。自分の示した"可能性"を超えてみせろ、と。

以下、JRA公式より引用https://www.jra.go.jp/gallery/column/syouzou/pdf/2019-23.pdf

光を超えて

容赦などしない
突き放してやる
置き去りにしてやる

それで終わりか
吠えかかってこい
意地を示せ
追いついてみろ

できないのなら下がれ
光を超えていく私の背中を
そこで見ているがいい

JRA 名馬の肖像・アグネスタキオンより

ちなみに、ゲームウマ娘のマンハッタンカフェ育成シナリオでは、この後タキオンはカフェのアドバイザーとしてトレーニングのサポートに回ることになる。
映画でそうはならなかった理由は、トレーナーが居なかったからなのかもしれない。

普通に買収されてたので別に関係ないかもしれない。


ポッケの独走

自暴自棄になり、あてもなくひた走るポッケ。

街中を走るシーンでも、道のでこぼこっぷりや高低差でポッケの心情を表現していて見事だった…

『トレーニングとは、ただ闇雲に走ればいいというものではない!
ましてやまだクラシック級のお前の身体は発展途上、今無理をすれば…!』

「…うっせぇ…」

『ポッケ!』

「うっせぇ!!」

タナベトレーナーに諌められるも、ポッケは聞く耳を持たずに部室を飛び出して行ってしまう。

走り続けた末に疲れ果て、川沿いの階段で仰向けに倒れているポッケの元へと、タナベトレーナーは現れた。

『今日はもうあがれ。流石に限界じゃろ』

ポッケの隣に座り、タナベトレーナーはゆっくりと語りだす。

『タキオンがお前に何を言ったのかは知らんがな。
あれだけの走りをできるウマ娘が、"たった四戦"でレースを降りたんじゃ。
何事もなかったハズがない』

「…なんだよ、何事って…。」

ムッとして返すポッケに、タナベは言う。

『…ウマ娘に故障はつきものじゃ。
どれだけ気を配っていても、"なにひとつ問題などない"、"絶好調だ"と思っていても。
それはある日突然、訪れる』

タナベは、かつて自分が担当し、道半ばで一線を退いたフジキセキと、現在のタキオンの状況を重ね合わせていた。

『誰だって、怪我なんぞしたくもないし、させたくもない。
それでもみな、訪れた運命と向きあいながら、それぞれの道を走り続けていくしかないんじゃ。』

その言葉は、まるでタナベ自身にも言い聞かせているようだった。

『フジキセキを走らせてやれなかったワシは、レースから去った。
本来であれば、あやつの無念の分まで踏ん張るべきじゃったのに…。』

ポッケはタナベに目を向ける。
指の隙間から覗いた老人の後ろ姿は、ひどく小さく見えた。

『お前は違う。タキオンがおらずとも…
共に競い、高め合うライバルを失おうとも、今もターフに向かおうとしておる』

そしてタナベは、続けて述べる。

『お前には感謝しとる。
…ありがとうな、ポッケ。この老人に、もう一度夢を見させてくれて。』

トレーナーの夢。憧れの人に託された夢。
あの日、フジキセキと交わした誓いを思い返す。

『じゃが無理はよせ。もうワシに、あんな思いをさせてくれるな』

憧れの人が、フジキセキが、その夢を自分に託さざるを得なくなってしまった、その原因。
自分がその悲劇を繰り返しかけていた事に、今になってようやく気づく。

「…ごめん、ナベさん。」

『お前なら必ずなれる。
最強のウマ娘に…"ダービーウマ娘"にな。』

「…ああ。」

託された夢の成就を誓い、ふたりは拳を突き合わせた。

日本ダービー。全てのウマ娘の夢の舞台。
そこで勝利することこそ、最強の証明に他ならないだろう。

…本当に?

"アイツ"のいないダービーで勝ったとして、俺は本当に、自分を最強だなどと言えるのか?

己の"最強"を示す方法、そんなものは単純明快。全員ぶっちぎれば済む話だ。

…では、超えるべき者の姿が、もうどこにもないのだとしたら?
もう二度と、追い抜いてやることは叶わないのだとしたら?

俺はいったい、どうすれば──…

『お前は、皐月賞でタキオンと一緒に走った時…
あやつの走りを、どう感じた?』

突然のタナベの問いかけに、ポッケの表情がこわばる。
そんな顔を見て、タナベはポッケが感じたものを察したようだった。

『ウマ娘の走りは嘘をつかん。思いはそれぞれあれど、その全ては必ず、走りに現れる。』

そしてタナベは、諦観混じりに告げる。

『そしてその思いを正しく受け止められるのも、おそらくは同じウマ娘だけなんじゃろう』

フジキセキは、その全てを柳の陰から聴いていた。


日本ダービー

自分を支えてくれたふたりの想いを汲み、ひとまずは再起したポッケ。
しかし、その胸中に渦巻くのはタキオンへの未練だった。
ターフに向かって歩みを進めるそんなポッケの前に現れたのは、ピンクの勝負服を身に纏ったダンツフレーム。
いつものように柔和な笑みを浮かべつつ手を振っていた彼女は、だが次の瞬間、真剣な表情に変わるのだった。


『…自分では走らないくせに、レースは見にくるんですね』

そんな中タキオンは、観客席の高い位置で、足を組みながら座っていた。
カフェはその横に立ち、恨み言を吐くようにタキオンに言葉を投げる。

「私の走りを灼きつけた彼女たちの走りがどう変化したか。
この目で見届けなくてはならないからね」

ぐりんと首をもたげ、カフェの顔を覗き込みながらタキオンは続ける。

「もちろんカフェ、君の復帰も楽しみにしているよ。
君は大切なルームメイトである前に、大切な観察対象なのだからねぇ」

『…変な人。』

カフェは耳を絞り、露骨に不機嫌な表情を浮かべて歩き去る。

「君たちなら、いずれ私の"代替品"として、可能性のその先へ…。
いやいや、待ち遠しくてたまらないねぇ!」

目を爛々と輝かせながら、タキオンは"可能性の果て"へと想いを馳せる。


『ええか?タナベ。
ダービーはな…特別なんや。ウチらにとっても、生半可な夢やない。
…一生に一度でいい。
自分の担当ウマ娘に、ダービーを獲らせてやることができたら…
それは、どんなにか…。』

観客席のタナベトレーナーは過去を思い返し、フジキセキに語りかける。

『…今でも、お前をダービーで勝たせてやりたかったと思っとる。
…お前の分まで、ポッケが走るよ。』

フジキセキは、いつものように笑顔で返す。

「…私も、そう信じてるよ。
ポッケなら、私の分まで…ナベさんを楽しませてくれるって。」

きっと、そうだ。私は、もう…託したのだから。


突然だが、ここでJRAによるダンツフレームの"名馬の肖像"を見てほしい。

以下、JRA公式より引用https://www.jra.go.jp/gallery/column/syouzou/pdf/2022-12.pdf

次の幕こそ

真ん中に立てないことを
思い悩んでいるのなら
君にこう問いたい

舞台の端や後方であっても
命がけで演じただろう?
いまの力で成し得る
最良の結果を残しただろう?

ならば悲観することは無い
次は大きな役を用意した
君のために開演ベルは鳴る

JRA 名馬の肖像・ダンツフレームより

『"勝敗なんてどうでもいい"…タキオンちゃんはそう言ってたけど、でも…
わたしは勝ちたい。レースに出るからには、絶対に。
勝って立ちたい、舞台の真ん中に!
「…ああ。」
ダンツの固い決意に、ポッケは心の底から同意するような重みで返した。

『今日は負けないよ!』

決意を胸に、ウマ娘たちはいよいよターフへと乗り出す。


"光速を超えたライバル無き今、栄光を掴み取るのはいったい誰か?
日本ダービー…いよいよ、出走です!"

響き渡るファンファーレ。観客席のタキオンは、
『君たちがどこまで"近づけた"か、見せてもらおうじゃないか』
と心を弾ませていた。

自分の遺した"可能性の跡"は、誰にも超えられるなどとは思っていない。
それどころか、並ばれるとすら全く思っていない。そんな傲慢さを包み隠そうともせずに。

それぞれの想いが交錯する中。
ついに一生に一度の大舞台、日本ダービーは幕を開けた。

ゲートが開いた瞬間から、激しい先頭争いが巻き起こる。
その中でも大きく抜け出し、大胆な大逃げを打ったミナミピッチャーがペースを作り始めた。

『…私はきっと、タキオンちゃんやポッケちゃんのような、すごい才能なんて無い。
スタイルもフォームも綺麗じゃないし、最後の決め手が無くて勝ちきれない。
それでも、勝ちたい…勝ちたい!』

ダンツフレームは思いを強める。

『──フゥッ!!』

その傍で、ペリースチームが仕掛けどころと見定めてギアを上げた。

激しい闘志のぶつかり合い。その最中、皐月賞でのタキオンと同様に、ポッケは何事か呟いた。

個人的な推測だが、ここで呟いた内容は
「追いついてやる」
というニュアンスの言葉が最も可能性が高いと推察される。

フジキセキとの約束や勝つための戦術的思考などはこの時点ではポッケの頭になく、とにかくタキオンへの敵愾心のみを燃やしているため、他に考えられる台詞のパターンは少ないだろう。

この直後に連呼する「超えてやる」という台詞の方が場面には最も合うと思うが、どうしても語数が少なすぎるように思える。

「タキオン…お前がどんな思いであんな事ほざいたのかなんて、俺は知らねえ。
だが、あの時のお前の走りは…
脚が壊れたって構わねえ、後先なんて知らねえ、自分を超えてやる、限界を超えてやる…そういう覚悟を見せつけていやがった。
"超えられるもんなら超えてみろ"、ってな…!
だったらよぉ…!」

「超えてやる」

"ペリースチームがバ場の真ん中を通ってやって来る!!
今年のダービーはこのままペリースチームが持っていくのか──!?"


『ォォぉぉぉおおオオオッ!!』

早めに仕掛け、先団にとりついていたペリースチームがスパートをかける。
──その瞳に、怒涛の勢いで迫る双つの影が映った。

「超えてやる…」
『私だって……』
「超えてやる…!」
『私だって…!!』

「いいねぇ…それだよ。」
アグネスタキオンは満足げな笑みを浮かべながら、その光景を観ていた。

「なにもかも超えてやる…
オメーを超えてやる…オメーの限界を超えてやる…
自分自身を超えてやる…!
…なぜならァ…」

「最強は!!俺だァァァああああアアアアアッ!!!」

レース場の全員が、その鬼気迫る姿に目を奪われる。

『私だってぇぇぇええええええええええッ!!!!!』

しかし譲れない。譲るわけにはいかない。
この舞台の主役だけは、絶対に──!

『立つんだ!』
「勝つんだ!」
『立つんだ!!』
「勝つんだ!!」

『私だって勝ちたい!勝ちたいっ!!』

「そうだよなぁダンツ!!来いッ!!」

『立つのは…』
「勝つのは…」
『真ん中は!!!』
「最強は!!!!」

『わたしだぁぁぁああああああああああああああ!!!!!!!』
「俺だァァァあああああああアアアアアアアアア!!!!!!!」

全ての思いを込めたデッドヒート。
それを目の当たりにしたウマ娘の瞳に、競争者としての"フジキセキ"の瞳に、確かな光が灯る。

"ジャングルポケット!!ダンツフレーム!!
インコースからはウジダワラノイロも伸びてきている!!"

「俺がァ!!勝つんだァァァあああああああアアアアアアアアア!!!!」

"先頭はしかしジャングルだ!!ジャングルだ!!ジャングルポケット!!"

「トレーナー…」
『ああ…!』

「…やったね…。」

"ジャングルポケット1着!!2着にダンツフレーム!!
食い下がったダンツフレームをゴール前また突き放して、
新時代の扉をこじ開けたのは、ジャングルポケット!!!"

フジキセキとタナベトレーナーが果たせなかった夢。
ポッケはその意志を継いで叶え、ふたりの未練を断ち切ってみせた。

『ポッケが…ポッケがやってくれたぞ…!』
「うん…すごいね…。」

涙を拭いつつ、フジキセキは深く喜びを噛み締める。

「すごいや、本当に…!
おめでとう…ポッケ…。」

託した夢の成就を祝い、ふたりは拳を突き合わせた。


『…さすがだね…。
おめでとう、ポッケちゃん…
…うぅ…っ!』

勝者は必ず、敗者を作る。
己の番号がはっきりと2着に刻まれた掲示板を見上げながら、ダンツフレームは嗚咽を漏らした。

それでも、彼女は決して諦めはしない。
夢見るように。恋焦がれるように。
今はまだ遠くとも、いつか主役になれる日を目指して。


一方、高みから観察していたタキオンは、明確に変化の兆しを見せ始める。

『素晴らしい!!対抗心、闘争心、期待以上の走りじゃないか!!
彼女たちなら、いずれ本当に辿り着ける!!私の代わりに…!』

『…私の…代わりに…?』

不可解にも揺れ始めた心。そこに響き渡るのは──

『うぉぉぉぉぉおおおおおおおオオオオオオオオオオッ!!!!!』

ジャングルポケットの、渾身の勝利の雄叫びだった。
その咆哮は、自らの栄誉を高らかに掲げるものだっただろうか。歓喜に打ち震えて発せられたものだっただろうか。
──否。

「最強は俺なんだ」「ここに立っている俺こそが」
そう誇示するように、虚勢を張ったものだったのだろう。

そんな彼女の姿に、思わず釘付けになるアグネスタキオン。
その左脚は弱々しく震えながらも、確かにターフの方向を指していた。


夏合宿

ダービーに勝利した後、多くの取材依頼や特番への出演依頼などが次々に舞い込んだポッケ。
託された願いを見事に叶え、至上の栄誉を得たはずの彼女は、しかしいつまでもうわの空な様子だった。

そんな折、ウマ娘としての実力を大きく向上させるための重要な行事である、夏合宿のシーズンが到来する。
バスでの移動を経て、トレセン学園の生徒たちは海辺の合宿所へと集まった。

砂浜のトレーニング場の近くには、ポッケ、ダンツ、そしてクラシック期前半のほとんどを休養に充てたカフェの姿があった。

「体調、だいぶマシになったみてぇだな。」

なんの気なしにサンキャッチャーを弄びながら、カフェに声をかけるポッケ。
それに対しカフェは、

『…ええ。この秋からは、本格的に始動するつもりです。
…貴方と会うのは、菊花賞になるかと。』
と告げる。

カフェにとってそれは、ようやく告げる事ができた勝負の宣言のはずだった。
しかし、短く「そっか」とだけ言葉を返したポッケは、どこか闘争心を欠いている様子だった。

『…追いつきます。
みなさんにも、あの時のタキオンさんにも…
"お友だち"にも。』
『カフェちゃんも合流して、充実した夏合宿になりそう!』

明るく言うダンツに頷くポッケ。3人はトレーニング場へと歩き出す。

その時。

「…!」

──大切なものを、取り落としたような感覚があった。

フジさんの「トレーニング始めるよー!」という声かけに対して、ダンツの
『はあ〜〜〜〜〜〜〜い♪』
って返事がズルすぎた
親に向かってなんだその間延びした声は!!可愛すぎんだろ!!!!!(心臓を押さえながら


"全てのウマ娘の夢"であるダービーウマ娘になったにも関わらず、ポッケはどこか浮かない表情をしている。
コースに姿を表したはいいものの、合流せずにスタンドでストレッチをしているなどと、その姿はまるで全力で走ることを恐れているかのようだった。
なにか重たいものでも引きずるように、ウエイトトレーニングやタイヤ引きなどに打ち込む。
そんなポッケの様子を、ダンツとカフェは心配そうに見ていた。

一方、雌伏の時が長かったカフェは、それでも折れず、ひたむきに"お友だち"に追いつくための努力を続けていた。
見違えるように力をつけていくカフェの姿を見ているうちに、ポッケは少しずつ焦る気持ちを募らせてゆく。

集団でのランニングの時もカフェは先頭を走っており、夜のコースでは他のウマ娘たちを内ラチ沿いから豪快に追い抜く姿も見せている。
食事シーンではおかわりをしに向かっているような描写もあることから、食欲と筋肉量を取り戻しつつあるようだ。

史実では、マンハッタンカフェの馬体重はストレスなどのさまざまな要因によって、デビュー当時から合計で-42kgと激減してしまっている。
4月頭のレース後から放牧(競走馬にとっての休養)を経て、8月末のレースでは+46kgもの増量に成功し、元の体重を取り戻したことを示す描写と見て間違いないだろう。

以下、坂崎ふれでぃ氏の参考資料を引用↓


夜のランニングコース。
ダンツとカフェのふたりは、連れ立って走り込みを行っていた。

『ダービーの時のポッケちゃん、ほんとにすごかったなぁ。
きっとこれからも、どんどん強くなっていくんだろうね…。
追いつけないなぁ…いつまでも…。』

思わず弱音を漏らすダンツ。それに対しカフェは、

『追いつきます。必ず。
みんなより遅れた分、みんなより、強く、早く。
そうでなければ…いつまで経っても、本当に追いつけない…。』
とはっきり告げる。

街灯に照らされ、静かに現れる不思議な影。

「…うん、そうだね。追いつかなくちゃ…!」

そんなカフェの力強い言葉を受け、ダンツは奮起するのだった。

そんでアヤベさんは自重してください!!
ふわふわ語りをするアヤベさんに対するカレンチャンの
『早く寝ましょ?(半ギレ)』
で一番笑った


花火大会

わたあめ推奨アヤベさん、自重してください

ポッケは夏合宿の練習に加え、ダービーの取材などにも追われて忙しそうにしていた。
その慰労も兼ねて、フジキセキはポッケを夏祭りへと連れ出す。

『それにしても、ダービーは凄かったね。
ナベさんなんてボロボロ泣いちゃって。
思わず、私も…走り出したくなっちゃった。
レースに復帰するのも、悪くないかな?』

その言葉を耳にして、ポッケの瞳がにわかに輝いた。
フジさんが復帰してくれるのなら、またあの走りを見られるのなら、それは、どれだけ嬉しいことだろう。
そうだ、タキオンだってきっとそうなんだ。まだ一緒に走るチャンスは、勝負するチャンスは、きっとあるはず──

『なーんて。
…もう、私の時代は終わってしまったから…。』

「…笑えねえっすよ…。」

本当は、わかっていたはずの事だった。それでも、一縷の希望に縋ってしまいたかった。

『…ごめん。でも、そう思ったのは本当だよ。
きっと、これは私たちの本能なんだ。
凄い走りを見たら、追いかけたくなる。
…自分の脚で。』

冷えたラムネを2瓶購入し、再び歩き出したフジキセキが問いかける。

『ポッケは、どうだったんだい?』

「…俺…?」

『皐月賞の時。君はウマ娘として、タキオンの走りに何を見た?』

心の底を見透かされたような感覚に、ポッケは小さく息を呑む。

『あの時のタキオンは、あの場のウマ娘全員に見せつけているようだった。
"私に勝てるか"、"ついてこられるか"…って。挑戦状だよ、まるで。』

「…正直、マジでビビったっす。
今でも、あの姿が目に灼きついてて…。」

『だろうね。あの子はそれだけの走りをしたんだ。
この先も、きっと永遠に語り継がれていく…
まさに、一瞬の煌めきだ』

"一瞬の"…。ポッケは表情を曇らせつつ、本心を吐露する。

「多分、一生消えないっすよ…。
だって、アイツと走って勝つ事は、もう…
二度と、できないんすから…。」

『ポッケは強いよ。もうタキオンにだって引けを取らない。私が保証する』

「…そっすかね…。」

『宣言通り、君はダービーに勝って"最強"を示したじゃないか。』

「…ダービーには、勝ったっすよ。でも…。」

『…実感、ないかな?』

歩き続けるふたりは往来を抜け、会場の端まで辿り着いていた。
陽の落ちた真っ黒な空のキャンバスを、大輪の花火が彩っていく。

『ポッケ。まだ、ちゃんとお礼を言えていなかったね』

『ダービーウマ娘になってくれて、ナベさんの夢を叶えてくれて、ありがとう。』

フジキセキは、心から感謝を述べる。

『目を覚ます走りを見せてくれて、ありがとう。』

憧れの先輩からもらった、これ以上ないほどの言葉。
それでも、ポッケはそれをまっすぐ受け止めることができなかった。
自分自身の作り出した幻に負け続けているのだから。
自分の魂が、自分のことを"最強だ"などと認められていないのだから。


…あの日のダービーを思い返す。

勝利したはずの自分の、さらに前方。そこには常に、光速を超えるかの如き速さで駆けてゆく、アグネスタキオンの影がある。
追いつかなければ。超えて示さねば。アイツをぶち抜いて、最強を──…

しかし、打ち倒すべきその背は、無情に、無慈悲に、ただ遠ざかってゆく。

いつしか心の中に巣くっていた、自分自身の"幻"が攻め立てる。

「(追いつけねえよ、オメーん力じゃ。
オメーがどれだけあがこうが、アイツはとんでもない、やべぇ走りで、オメーの前にいる。)」

合宿明けの初戦、札幌記念。嘘のように足が前に出てくれない。

「(わかってんだろ?オメーにも。)」

クラシックレース最終戦、菊花賞。摩天楼の幻影は、遥か遠く。

「(勝てねえ。)」

まるで、見えない幻に頭でも押さえつけられているかのような呪縛。

「(勝てねえ。)」

練習なら毎日積み上げてきた。決して嘘なんかじゃない。

「(…勝てねえ。)」

それでも、自分自身の、この魂が。

「(タキオンには、絶対に、勝てねえ)」

嘲るように、そう囁いてくる。

「俺は、ずっと…!
…最強じゃねえ…!」

煌びやかな夢を映していたはずのサンキャッチャーは、いつしかその手のひらからこぼれ落ち、傷がついてしまっていた。

街頭ビジョンやデジタルサイネージ?をジャックするタキオンの悪夢が本当に怖かった


菊花賞

合宿明けの旧理科準備室。
菊花賞で勝利したカフェのレース映像を繰り返し再生しながら、無意識のうちに椅子の上でバタバタと脚を動かすタキオン。

その姿を忌々しげに見ていたカフェに対し、タキオンは
「"お友だち"には追いつけたかい…?」
と弱々しく語りかける。

返答はない。代わりに、カフェは内心で告げた。

『…見せつけてあげます。
私の世界を土足で踏みにじり…勝手にいなくなった貴方では、届かなかったその先へ。
私は追いつく…必ず…。』

それは、彼女なりのタキオンへの発破のかけ方だったのかもしれない。

欲を言うなら、菊花賞の描写はまた別の作品でもいいからもっと深く描いてほしいですね 今回はポッケが主人公なのでやむなし…。


"Triangle Relay"

ポッケがチームの部室に残していった、傷のついたサンキャッチャー。
それがポッケにとって大切なものであるということを知っていたフジキセキは、それを目にしてついに決意する。

気の合う仲間たちとつるんでいても、なかなか晴れはしないポッケの心。
ひとり抜け出した先に現れたのは、憧れの大先輩・フジキセキだった。

『傷がついちゃってるね、これ』

夜闇の中で、鈍い輝きのみを放つサンキャッチャー。それを横目に、ポッケは俯く。

「…ぼーっとしてて…。」

ごまかすポッケに、フジキセキは切り出した。

『もしもタキオンがダービーに出ていたら、どうなっていたんだろうね』

自分の苦悩は、やはり見透かされていたのだと悟ったポッケ。思わず顔をこわばらせる。

『レースにたらればは禁物だ。それでも、どうしても考えてしまうんだ。
あの時、私が故障さえしていなければ…まだ私の時代だったら…って。
出たとしても、勝てたかなんてわからないのにね』

追う側と、追われる側。
立場こそ違えど、その苦しさなら、私だって知っている。

『たった、四戦。その四戦の幻が、今も消えない。』

無敗のまま、大きな期待を寄せられたまま、ターフを去った自分と"彼女"。

『ポッケなら大丈夫だと思ってた。…君も、"幻"を見ているのかな』

フジキセキにしか言えない、フジキセキだからこそ口にした時に重みのあるそれらの言葉。
本心を暴かれたポッケは、ついにその苦悩を訥々と語りだす。
その頭上では、飛行機のエンジン音が低く唸りをあげていた。

「…ダービーに勝とうが…誰になんと言われようが…
アイツはずっと、俺の前を走ってて…追いつけなくて…。
俺はずっと…最強なんかじゃなくて…
…俺は…もう…。」

その告白を受けて、フジキセキは心を決めた。
結局のところ、私たちウマ娘の間には、こうする事でしか伝えられないものがある。

『でも、君はまだ走っている。
…まだだよ、ポッケ。君は、まだ走れる。』

そして、ポッケとの間に約束を取りつけた。

『"これ"は明日まで預かっておく。朝、川沿いのコースに来て』


翌朝、約束の時間。
ひと足先に待ち合わせ場所で待機していたポッケは、柳の葉を分けて姿を現したフジキセキの格好に驚愕する。

『おはよう、ポッケ。朝早くにごめんね。
苦しんでいる君を見てたら、いてもたってもいられなくなって。』

フジキセキは、現役時代の勝負服に身を包んでいた。

『ぜひ、楽しんでいってよ!』

困惑気味に、ポッケは尋ねる。

「え…フジさん、その格好…なんで…?」

僕らもそう思います(胸元ヤバすぎ)

そんなポッケに対し、フジキセキは語る。

『夏祭りで言ったことは嘘じゃないよ。思わず私も、走り出したくなったんだ。
それに…私の時代は、もう終わってしまったとしても。
自分を超えるためには、結局、走るしかない。』

『さあ、走ろう』

かつてフジキセキの煌めきを受けて、七色に輝いたサンキャッチャー。
傷ついてしまったそれは、フジキセキの手によって天高く投げ上げられた。
朝日を反射して七色に煌めき、宙を翻るうちに、その傷はまるでトリックのように塞がっていき──
再び、ジャングルポケットの手のひらへと受け渡される。

『ポッケ…見てて。』

それを合図に、2人は駆け出した。
早朝の澄んだ空気の中、遥か彼方に富士の山がその威容を誇っている。

『…脚が重い…。』

本来ならこの手に在ったはずの、輝かしい未来。

『程遠い…あの頃の自分には…。』

かつての自分の幻は、手の届かない遥か遠くへ。

『だからといって!!』

強く踏み込んだその一歩から、スポットライトは道筋を照らしだす。
"奇跡"を見せる煌びやかなスターは、今も変わらず、ここに在った。

『君は私と同じだ。
タキオンに負けた、自分自身の幻に負けている。
苦しいよね…"もしも"に囚われて、立ち止まりそうになって…。』

自分に憧れてくれた後輩の、もがき続ける姿を見てきた。
その苦しみは、自分も痛いほど知っている。

でも、君はまだ走っている!
もう走りたくないと言うのなら、それでもいい。
けれど、まだ立ち止まりたくないと、少しでも思っているのなら…!』

『私も…!まだ…!!』

その後ろ姿に、ポッケは確かに見た。
あの日憧れた、鮮やかな黒い流星の姿を。自分の走る理由、その原点を。

「…フジさんは、まだ、諦めてないんすね…。」

『ブランクを取り戻せるか、わからないけどね…
…超えてみせるよ、自分自身の幻を。』

「…芝の匂いだ…。」

全力で駆けたふたりは、土手で仰向けになって息を切らしていた。
彼女たちのその表情に、もはや曇った影はどこにもなかった。

「…思い出した。
まだ走るのも、負けるのも怖いけど…
なんで走りたいと思ったんか…なんのために走ってたんか…それだけは…。
フジさんのレースを見た日に感じた、あの時の気持ちが、まだここに残ってて…。」

傷の無くなったサンキャッチャーを、ポッケは大切に握りしめる。

「走ります、俺。フジさんの分も、自分に負けねぇように。」

自分の幻の打破を誓い、ふたりは拳を突き合わせた。

「目ぇ覚ますレースをしてくれて、ありがとうございます。
また一緒に走ってください!」

時を超えて、あの日あなたに伝えられなかった感謝を、やっと伝えられた。


もう少し走ってきます、と笑顔で駆け出したポッケ。
フジキセキはその背中を、緩やかに手を振りながら見送った。

『…鍛え直さなくちゃ。』

小さく息をついたフジキセキの眼前に、スポーツドリンクが差し出される。
そこには、自分を優しく見守るタナベトレーナーの姿があった。

「おかえり。そして、ありがとう」

『思いを正しく受け止められるのは、おそらくは同じウマ娘だけなんじゃろう』
という言葉は、諦観混じりではあっても、決して責任の放棄などではない。

一歩引いたところから、いつだって支えている。
思えばタキオンの休止宣言の直後、やけになってあてもなく走り続けたポッケが最後に行き着くであろう場所もしっかりと理解していたから、すぐさま声をかけてやれたのだ。

フジキセキは、はにかんだような笑顔を浮かべながら、誓いを告げる。

『今度はもっと、あなたを喜ばせてみせるよ。"トレーナー"さん!』


"RGBreeze"

…無駄。無益。唾棄すべき非合理。

"もう一度、全力で駆ける事が叶うのなら。"

…この身は既に燃え尽きた。時計の針なら、自ら壊した。

"あの緑の芝の上を、私のこの脚で走れたなら。"

…だというのに、嗚呼。
そう、きっとこれは、ウマ娘としての──

「うわきったね…掃除ぐらいしろよ。」

ジャパンカップ直前。
タキオンの実験室を訪れたポッケは、部屋のあまりの散らかりっぷりに呆れながら、窓際で佇む部屋の主へと声をかける。

『…これはこれは。こうして話すのはいつぶりだろうねぇ。
どうしたんだい?今日は。』

「あー…なんつーか、その…。
…併走、してくれねえか?」

タキオンの瞳が大きく見開かれる。

「ジャパンカップに出る。」

そう告げたポッケの目に、もはや迷いはなかった。

「これまでのレースとは違う。
国内だけじゃねえ、世界中から強ぇ連中が東京に集まるレースだ。
中でも飛び抜けてるのは、"世紀末覇王"…テイエムオペラオー。
去年なんかは年間無敗。文句なしに、今トゥインクル・シリーズで最強だ。
海外の連中が相手でも、関係ねぇだろうな。
だから俺も、できるだ強ぇ奴と走っておきたくてな…。」

ひと呼吸おいて、ポッケは続ける。

「…ああ、お前は強い。
今だって怖ぇんだ。皐月賞でのお前の走りが。
一生追いつけないかもしれねえ、一生勝てないかもしれねえ…
お前がまだ走っていたら、俺が走る意味なんて、もしかしたら無いのかもしれねえ…って。」

この宣言は意外だった。
"最強"を掲げるからには、傲岸不遜で怖いもの知らずな性格の方が向いているだろう。
しかしポッケは、自分以上の存在に対する恐怖をしっかりと抱えたまま、それと真正面から戦っているのだ。

"私の走りを見て、どう思った?"
今になって告げられる、あの時の回答のすべて。それを知ったタキオンは、果たしてなにを思うのか。

「それでも…。」

ポッケの顔に、屈託のない笑みが浮かぶ。

「走りてえ。走りてえんだ。
意味があろうがなかろうが、やめられねえ、やめたくねえ。
今走るのをやめちまったら、お前に勝てる"可能性"すら生まれやしねえ。
俺は一生そうやって、自分に負けたままなんだ…。」

"走るのをやめてしまえば、可能性すら生まれやしない"。
既に足を止めてしまったタキオンは、その言葉に、なにを思うのか。

「それに…とんでもねえ強さの奴らを、手前の足でぶち抜いて…目の前がパーっと開けて…。
あの時の感覚…忘れられねえんだ。」

穏やかな風が、窓際のタキオンの髪を撫ぜながら吹き抜けていく。
しかし心とは裏腹に、口を衝いて出たのは拒絶の言葉だった。

『…私はもう走るつもりはないさ…前にも言ったがね…。
私でなくとも、カフェやダンツ君がいるだろう?』

「…そうだよな…悪ぃ。
ダメ元で来てみたけど、お前はお前なりになんかあって走らねえんだもんな…。」

と、ポッケはそれを受け止める。

休止宣言の直後もそうだったけど、ポッケはオラついているように見えて、その実ちゃんと相手の気持ちを汲める優しい心を持っている子なんだな、というのを感じられた。
舎弟がいっぱいいる理由、そのカリスマ性の根拠をしっかりと見せつけられた…。

「まあ…気が向いたら、いつでも戻ってきてくれよ。
やっぱり、お前のことも…ぶち抜いてみたいからさ。」

ポッケの姿と重なるように、カーテンの隙間から差し込んでいた一条の光。
彼女が歩き去ると同時に、徐々にその光は閉ざされていった。

ここで流れるBGMのタイトルは"RGBreeze"。
RGBとは光の三原色、Red,Green,Blueの頭文字。Breezeはそよ風を意味する。

窓際に吊るされ、風に揺れるサンキャッチャー。
観察するだけで満足だと思っていたその色鮮やかな光は、タキオン自身の手によって閉じられたカーテンに遮られた。

その色彩は、眺めているだけでは到底足りない。
かくして、暗く妖しい実験室は再び動き出した。

他の誰でもない──彼女自身のやり方で。


ジャパンカップ

『ジャパンカップはダービーと同じ東京2400m。最強を決めるのには相応しい場じゃ。』

タナベトレーナーの言葉に、スポーツドリンクを飲み下しながらポッケは頷いて告げる。

「フジさん!
観客席から見ててください。
リボン、もう自分で結べます。」

ウマ娘のことだから、この描写に意味がないなんてことはないだろうと思って検索をかけたら、予想通りちゃんと意味がありました。
競走馬・ジャングルポケットは、このジャパンカップを境に、フジキセキの主戦ジョッキーである角田晃一騎手から乗り替わりがあったそうです。
さすが期待を裏切らない小ネタの仕込みっぷり…!

拳を突き出しつつ、ポッケは続けて言う。

「次にフジさんとレース場で会うのは、勝負する時っす!」

言うようになったね?とでもいうような、いたずらっぽい笑みを浮かべながら、フジキセキもまた拳を差し出す。タナベトレーナーもそんなふたりに続いた。

ポッケとタナベトレーナー。
タナベトレーナーとフジキセキ。
そして、フジキセキとポッケ。
3人がそれぞれ突き合わせてきた拳。
その全てが、この瞬間、ひとつに重なった。

緑の広がるターフの上には、一番人気を悠然と背負って立つテイエムオペラオーの姿があった。
絶対王者として君臨する"世紀末覇王"は、すべての出走者に向け、高らかに口上を述べる。

『騎士たちよ!
そして、黄金を打ち砕かんとする若きウェルテルよ!誇りたまえ!!
──ボクの前に敗れ、覇道の軌跡の一頁となることを。

地鳴りのような歓声が轟く。誰もが信じて疑わない、その"最強"たる貫禄。

そんな中、ポッケはサンキャッチャーを握りしめながら呟いた。

「走ればわかる。
俺の心が、本能が…
俺が、俺を"最強"だと思えたのなら。
それが…。」

長い苦しみの果て、ポッケは迷いを振り切った。
ジャパンカップのゲートはついに開く。
その最中。

『待ってくれ…』

みなに背を追われ続けたファントムスターは、ついに彼女らの背を追う側へ。


ここに集うは世界の強豪、灼熱の闘志をまとった15名のウマ娘たち。
己が覇道を示すため、好敵手として隣に立つため、かけられた期待に応えるため。
思いはそれぞれあれど、誰もがただ一心に、勝利へ向けてひた走る。

『私が…!』

『私が!』

呼応するように、ウマ娘たちの対抗心は燃え上がってゆく。

『『『私が!!!!!』』』

「───ボクが」

『『『『『「勝つ!!!!!」』』』』』

「ほぉ…。」

そんな中でタナベトレーナーは、心身ともに成長したポッケの走りに見入りながら、サングラスの奥で瞳を輝かせていた。

「あれほどのメンバーに囲まれても、引けを取らんのぉ…。」

その身は知らず、コースへと乗り出していた。
そんな姿を見てフジキセキは、負けていられないな、と微笑む。

レースは中盤。
外に持ち出したテイエムオペラオーは、一気に先頭へと躍り出た。
しかし誰もが譲らない。燃える闘志はせめぎ合い、絶叫が空気を震わせる。

『負けるかぁぁあああッ!!』
『まだまだァァアアアッ!!』

この場にて覇を競うのは、いずれ劣らぬ優駿たち。
敬意と称賛を以て、天上に座す王は力強く応える。

『それでこそ!我がライヴァルたちよ!!
不屈であれ、高めたまえ!
道の果てまで己の脚を、己の成すべき覇道のために!!
ボクのさらなる飛躍のために!!!』

熱狂の渦の外でただひとり、自分の幻と戦い続けていたポッケの心は、その熱に呑まれて震え上がる。

「まいったな…とんでもねえ奴らだ…。
ああ…怖ぇなぁ…。
負けるかもしれねえ、追いつけねぇかもしれねえ…。
怖くて怖くてたまらねえ…
たまらねえよ…!」

「…けど…!」

目を向けた観客席に立っていたのは、ずっと恐れ続けてきた宿敵の姿。
自らの"最強"を否定し続けてきた幻影。
その本人に向け、ポッケは強かに言い放つ。

「──先に行くぜ」

無限の可能性をまとい、限界の先へと駆け出すジャングルポケット。
白衣の観測者は、ついに衝動のままレース場を飛び出した。

『…本能でわかる。彼女たちは辿り着くだろう。
私の代わりに。私では辿り着けなかった領域へ。
…だというのに、いまさら…。』

おぼつかない足取りに合わせ、落ちた路傍の枯れ葉が再び舞い上がる。

『そうだ、そうなんだ!意味がない!!
他者の到達する光景など!!』

狂気の哄笑が、秋空にどこまでも響き渡る。

『私は!
私自身のこの脚で!!
私自身のこの眼で!!!』

理性の殻をかなぐり捨てれば、残るのはただ、本能がもたらす叫びだけ。


東京レース場、その最後の坂を駆け上がり、ついに"覇王"が覚醒する。
年間無敗を成し、七冠を戴いた彼女は、なおも玉座を明け渡すつもりなどない。
先頭を駆けるその身はさらに加速し、他者を突き放してゆく。

眩しい光をまとい、最後のスパートをかけるポッケ。
しかしその顔を押さえ込むように、無数の"幻"が行く手へと立ち塞がる。

「(勝てねえ)」「(勝てねえ)」
「(オペラオーには)」
「(勝てねえ)」

──ああ、たとえそうだったとしても。自分よりも強い存在がいたとしても。
自分が足を止める理由になんてならない。走る意味なんて──

"生きてく意味なんて、ぶっちぎった後でついてくる"──!

「ァァァああああああああああアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

ジャングルポケットは、自らの幻を遂に打ち破った。

偉大なる覇王を討ち取り、新時代の扉を開く時。
"最強"の意地を賭けた一騎討ち。その終幕が目前に迫る。

襲いかかるジャングルポケットを視界に捉え、テイエムオペラオーは思わず言葉を零す。

brava…!!

雌雄を決する正念場の中にあっても、絶対王者の口を衝いて出たのは、称賛の言葉だった。

そして、数多の挫折と敗北を越えて、世紀末覇王さえ凌駕した彼女は。
"最強"の名を、魂で体現したそのウマ娘は。
高らかに、東京レース場に勝利の雄叫びを轟かせたのだった──


新たな可能性

時は流れ、いつかどこかのレース場。その地下バ道には、出走を控えた4人のウマ娘の姿があった。

「…来たか。
やっぱいいな…アガるぜ。
お前らみたいな、強ぇ奴とやるってのはよ!」

集ったのは、ジャングルポケットとその同期たち。
ダンツフレーム、マンハッタンカフェ、そしてアグネスタキオン。

"勝たせてもらう"よ。』
『負けないよ!』
『…させません。』

ウマ娘としての本能をむき出しにして、3人はそう告げた。
ポッケの瞳が、光に満ち溢れたいまを映して輝く。

「さあ、走ろうぜ!
"何回でも、何十回だって"!!」

駆け出したウマ娘たちの、未来のレース結果は、まだ誰にもわからない。

「そんでもって、なってやる!最強に!!」

彼女たちは走り続ける。瞳の先にある、ゴールだけを目指して。


ウイニングライブ

ウイニングライブの曲名は"PRISMATIC SPURT!!!!"
『!』が4つ並んだこのタイトルにも、きっと意味があるのでしょう。

『七色 プリズムのなかへ
眩くなる でも今は怖くない
光まとい 駆け抜けて生きてけ
煌めきが明日を縁取ってく』
やっぱり歌詞がいい…

あとこのシーンのカフェ美少女すぎない??
ダンツの "><" なおめめもめっちゃかわいい!!!

『『『「今日は!」』』』

『私の』『私の』『私の』「俺の!」

『『『「ライブに来てくれて、ありがとう(ございます)!」』』』

誰ひとりとして譲らず、全員が"自分の"ライブへ来てくれたことへの感謝を述べる。
しかしその次の瞬間、タイトルロゴの横を走るウマ娘のシルエットを、観客である私たちは確かに目にしたことだろう。

元々はポッケが描かれているように、その作品の主人公が載せられるスペース。
そのシルエットが、4人全員に切り替わるあの瞬間を。
それはまさしく、4人全員が主人公だったということ。
全員が述べた感謝の言葉は、誰ひとりとして的外れなものなどではなかったということ。

始まりから終わりまで、ずっと描写され続けてきたサンキャッチャーというプリズム。
それが意味するのは、みんなそれぞれ波長が違っても、そのどれもが鮮やかな色彩だったということ。
集まれば、それはまさに光のような眩い輝きとなるだろう。


筆者の感想・その他小ネタなど

これにて本編は終了です。ここから先は筆者の感想になります。

RTTTの時から思ってたけど、群像劇を描くのが上手い!
主役は間違いなくポッケだったけど、他のみんなもキャラがしっかり立ってて良かった…。
特にタキオンとフジキセキ、オペラオーたちがかっこよすぎた!!
ダンツにも大きな見せ場があってよかった…
カフェはここからが…っていうところだから少し物足りなかったような気もするけど、それはまた別の作品で描かれることを期待したいですね…なにとぞ…。

レース中の作画はもはや言うまでもなく圧巻の素晴らしさだったけど、特に凄いと思ったのは、モブキャラがモブじゃなかったところ
思い切って逃げを打った子やジャパンカップで絶叫してた子は特に印象深いし、誰ひとりとして「この子は脇役だな」っていうのを感じさせないような描き方が素晴らしかった…
全員にモデルになった競走馬がいて、その全員が誰かにとっての主人公ですもんね…リスペクトをしっかりと感じられました…。

そんでファンサの量も尋常じゃなかったっすね!
上映開始直後にすごい速さで流れていく映像を含めれば、ほとんどみんな出演してたんじゃないかな…。
それ故に、アストンマーチャン推しのわたくしとしては、どんな状況でも"辻映り"してくるというこの子の特性上、1周目では常に画面全体を見回してその姿を探すことに注力してました。でも幸せな時間だった!!
ちゃっかりマートレ(inマーちゃん着ぐるみ)も居るのは笑った、メインキャラ以外のトレーナーとしては唯一の出演じゃないですかね…。

ダスカは記事内でも言ったけど、スイーピーもやたらと登場してて良かったね…グランマに甘えまくってるの可愛かったな…。
ほとんどずっとなんか食ってるミラ子についてはいつもの事だからともかくとして、アヤべさんとカレンチャンがギャグパート担当になってるのには本当に笑った RTTTでのあの儚さとクールさはいったいどこへ…。

アニメと違ってますお&みなみみたいな解説役がいない代わりに、実況&解説の人がちゃんと説明入れてくれたのも助かった
しかも元ネタの再現度も高かった!
よく語り草になるのは有馬記念のオペラオーの実況だけど、ダービー発走直後の
『内から…』
で一度口籠もって、もう一度
『内からコブシノルート(実際はキタサンチャンネル)』
って言い直す実況もそのまんまで感心した…
あと皐月賞も残り200mって時の実況さん、目がキラッキラしてて可愛かったですね


おわりに

ウマ娘は結構前提知識が必要だったりするものも多いと思うんですが、映画は何も知らなくても充分楽しめるように作られてて見事でした
ゲームウマ娘をやってない友人も大いに楽しめたみたいなので、そこの部分は安心していいと思います ぜひ周りのご家族や友達にもオススメしていきましょう!
史実を知らなければ、展開が読めなくて面白いだろうし
先の展開を知っていても、『どう描くんだろう…』という楽しみになるのがいいですね…。
皐月賞ゴール直後のタキオンの笑顔とかも、史実を知らなければ泣くことはなかったかもしれないけど、その先を知っていた私はめちゃくちゃ泣いてしまいましたし…。

あと、今回の映画でタキオンに惹かれた人は、ぜひともマンハッタンカフェの育成シナリオをプレイしてほしい…!
カフェのサポートに回って"プランB"を進めた展開のタキオンもめちゃくちゃ良いので…!

なんにせよ、とにかく最高の作品でした!!
元からかなり好きだったけど、無事にタキオン沼にどっぷりハマりました…

ぜひとも劇場版は第二作、第三作と続けていってほしい!
その時のタイトルは、ダイワスカーレット主役で
"劇場版ウマ娘プリティーダービー 開かれる夢の扉"
でどうでしょう!?
今回のタキオンみたいに、ライバルのウオッカ視点なんかも描いたらいい感じになると思うんです!!

そしてアストンマーチャンをよろしくお願いします。

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