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血管シリーズ第三弾 Penumbra(PEN)ってどんな会社?(最新決算10/28)


いや、最近、血管づいてるんです。決して肉親が脳梗塞になって急遽調べだしたわけではございません。たまたま、Shockwave Medical(SWAV)という会社を知って、その技術を目にしたときに、血管内で繰り広げられるミクロの世界のファンタジーに度肝を抜かれまして、急に血管マーケットを調べてみたくなったわけです。

今日は第三弾、Penumbra社についてお届けします。一旦これで血管シリーズ三部作は完結です。

ちなみに血管シリーズ、第一弾 Shockwave Medical、第二弾 Inari Medicalに関しては、以下の記事をご参照ください。

個人の限られた時間、業界知識ゼロ、Google検索のみでの調査なので、いろいろ間違いが多数含まれている可能性もあります。ぜひポイントが間違っている等ございましたら、ご連絡ください。またもし、少しでもお役に立てましたら、最後にイイねしていただけると嬉しいです。(これでも他の会社のノート書くのに比べてゆうに5倍くらいの時間がかかっています。メディカルものは鬼門ですね(泣))

年初来の株価は以下のようになっています。

比較対象
 赤:QQQ
 紫:ARKK
 黄色:QCLN

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はじめに

まずは私のように血管ファンタジーの知識ゼロの方に導入の説明をいたしましょう。

皆さん、脳梗塞とかエコノミー症候群とかいう単語に覚えはあるでしょうか?実際にそれが何だかわからなくても、名前を聞いたことくらいはどこかで聞いたことがありませんか?

これらは、血管に血液の塊(血栓)詰まって血液が流れないことにより、いろいろな悪影響を及ぼす病気です。脳だったら、脳に血液が流れないと大至急の処置をしないと、致命的であるのに加えて、たとえ治ったとしても、記憶障害や、運動障害を伴うことがあります。エコノミー症候群、これは静脈の深部に血栓ができちゃって、痛みや腫れを伴うばかりでなく、その血栓が血管を伝わって肺なんかに流れて行っちゃうと、肺塞栓症と呼ばれる呼吸困難になる病気を引き起こします。

ということで、血管が詰まる、というのは恐ろしい病気です。

で、血管が詰まったらどうするのか?

処置には内科的な処置と外科的な処置があります。内科的な処置としてはお薬を服用し、血栓を溶かす、という手法があります。こちらの方が主流の治療方法になっています。外科的な処置は、血管の中に機器を入れて血栓を丸ごと取り除いてしまおう、という処置です。

これこそ、今日のお題の、機械的血栓摘出機器、のお話です。

事業概要

設立:2004年, IPO 2015年9月
本社:カリフォルニア州アラメダ
従業員:2,700名
時価総額:$9.54B


■市場

まずは、市場についてみてみます。機械的血栓摘出市場(Blood clot retrieval device market)は、は2025年までに$2.29B。2018年から17.5%と高い成長率が予想されています。よって逆算すると、2020年で市場は$1,022Mとなります。

==以下、血栓摘出装置市場の2025年までの世界的な競合分析と予測、より引用==

この機械的血栓摘出装置は、急性虚血性脳卒中患者の神経血管系から血栓を除去するためにクリアされた多数の血管内ツールで構成されます。血栓溶解療法の治療に適格な脳卒中患者集団のかなりの割合があります。2018年に報告されたNHSEnglandの委員会の方針によると、脳卒中を患うすべての人々の約12%が機械的血栓摘出術の対象となります。

第1世代の機械的血栓摘出装置の2つには、StrykerのMerciRetrieverシステムとPenumbraのPenumbraAspiration装置があります。これらのデバイスは広く評価されています。Merci Retrieverは、米国でFDAの承認を受けた最初の血管内装置の1つでした。このセグメントには、Acandis、J&J、Sela Medicalなど、いくつかの確立されたプレーヤーがいます。

機械的血栓摘出術は、静脈内線維素溶解に反応しなかった大動脈閉塞患者の再開通に最もよく使用されるアプローチの1つです。需要は一貫して成長すると予想され、脳卒中関連の障害と死亡率を減らすことに成功率が高いため、血栓摘出装置市場の主要な部分になるはずです。

===引用終わり===

世界的に見て、脳卒中は死因の第二位長期の重度後遺症発生の第三位の理由となっている。年間1,400万件の脳卒中が起こり、8,000万人のSurvivorがいます。

米国では、AHA、ASAの報告によれば、年間80万人の脳卒中が発生し、14万人が死亡しており、700万人以上のSurvivorがいるとされています。Survivorの大部分は何かしらの運動スキルのリハビリが必要で、66%のSurvivorがリハビリを受けている状態です。

つまり、解決しなければならない課題は非常に大きい市場ということです。この手術手法が改善されると、死亡数を減らすことができるだけでなく、長期の重度後遺症に悩まされる人のQuality of Lifeを大きく改善できる可能性があります。

■製品/サービス

脳疾患の治療機器を中心に、対象の部位、治療目的に応じて幅広い製品群のポートフォリオを保有しています。

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ホームページも一通り眺め、いくつかの記事に目を通しました。正直に言いましょう。自分は脳分野の製品の競争力の差がさっぱりわかりません。よってこの会社の製品が強いかどうかは、何も言及することがありません。一つ言えるのは、この会社は、特に脳分野の物理的摘出機器で業界をリードする1社で、機械的血栓摘出機器の幅広いポートフォリオを有しています。

しかしながら同社を含め、脳分野の製品の売れ行きは成熟し始めているように見え、イマイチ事業を拡大していくけん引力があるようには見えません。同じような製品群をもつBoston Scientific社の成長も同様にそれほど高成長を遂げているわけではありません。よって、脳分野は市場における比重は高いものの少し成熟市場になりつつあるのかもしれません。

脳分野に次ぐ、次の成長市場として、静脈血栓塞栓症(Venous Thromboembolism : VTE)という市場があります。こちらは静脈の中にできる血栓についです。動脈の違いと静脈の違いについては、第二弾 Inari Medicalの記載から少し引用します。

==引用開始==

動脈にできる血栓は、血管が細くなっていき、血流も早いため、少量の柔らかな血栓が血管内に浮いている状態が多いとのことですが、これに対して静脈にできる血栓は、血流も遅いため、大きくて固い血栓が血管の壁にこびりついてしまう傾向があるとのこと。そのような静脈の血栓に対して、動脈用の機器を利用して対応しているのですが、血栓を取り切れず、最終的に血栓溶解療法を用いて血栓を溶かす必要が生じがちと述べられています。

==引用終わり==

静脈に対しても、内科的な処置が主流であるものの、アメリカでは徐々に摘出機器を使ってな血栓を物理的に取り除く治療も増加してきています。臨床試験の結果で良い内容が出始めたのと、継続して薬を飲み続ける苦痛、およびコスト(アメリカは薬価が高い)から解放できるということで、徐々に広がっているようです。日本ではほとんどのケースで内科的処方がされるとのことを、Twitterのお医者様のコメントで伺っておりますので、この外科処置の普及度合いに関しては、地域差がある可能性が高いです。Penumbra社は、この静脈市場に対して、2019年にFDAから承認を得たIndigo Systemという製品を発売しています。

製品の概要は以下をご覧ください。


■競合

機械的血栓摘出市場の競合は以下のような会社です。そして、静脈に関しては前回取り上げたInari Medical社が競合になると考えられます。

競合企業:Boston Scientific, Johnson & Johnson, Medtronic, Stryker, Terumo

さて、次に決算を見ていきたいと思います。

決算情報(2020/10/28)

面倒くさいのでKeyの数字を表にしましたので、ざっくりとした数字は以下をご参照ください。

売上:$151M (vs PY 8%)
OP:$0.5M (vs PY -96%)

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ついでに脳分野と静脈分野の比較、および一部US/海外市場の数字も決算書に記載されていましたので、見てみました。

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これらの情報からわかることは、

・全体の売上はそれほど伸びていない、二桁成長を継続してKeepはできる状態ではないということ。やはり脳分野の市場が成長していないように見える

・同社の成長を牽引し出しているのは、静脈ビジネス。その一番の成長市場はアメリカ市場(vs PY +44%)

・静脈ビジネスの展開の拡大に合わせてGP率が低下している(つまり静脈製品は利益率が低い?)

さて上記のことを頭に入れながら、前回取り上げたInari Medical社の決算と、比較をしてみましょう。いろいろありますが丸めると以下です。

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まず、GP率が圧倒的に異なりますね。Penumbra社の静脈製品は恐らくGP率が60%以下であるのに対して、Inari Medical社は92%のGP率。そして売上成長率もInari社の売上はほぼ100%US国内と考えると、Apple to AppleのUS市場同士の比較で、Penumbra +44%に対して、Inari社 +173%。

どうでしょう。ちょっと驚きの数字ではないでしょうか。

もちろん、これはPenumbra社のFDA承認が昨年行われたばかりで、まだビジネスの立ち上げの時期だからかもしれません。Selling Cycleが長い製品であると推察すると、次のQuarter以降に加速度的に売り上げが増加していく可能性もあります。しかし、この数字だけを見て、かつInari社が前Quarterに営業投資をガッツリしていることを考えると、Inari社の静脈市場における勢いが感じられる気がします。

雑感

同社は血栓摘出機器市場のリーダーの1社で、幅広い製品群を有しています。市場全体が拡大する中、多くの企業も参入しており、熾烈な戦いが行われている市場のように見えます。2019年に静脈分野にAddressableマーケットを拡大したものの、まだ売り上げとしてその成果は出てきていないように見えます。今後の成長の一つのエンジンとして同社も期待している分野でどのような展開がなされるかが要注目と思われます。

また2019年に初めて中国に展開(虚血性脳卒中商品)を開始しており、中国事業は、様々な企業において爆発的な成長を生み出すことも多いため、こちらのビジネスの拡大も注目されるところです。

個人的には、Penumbra社を見ることによって、Inari Medical社についてより深く理解できたことが収穫です。どちらも若い企業の部類だと思いますが、どちらかというと、Penumbra社の方が老舗で、Inari Medical社の方が新参者です。

ここからはあくまで妄想ですが、

・新参者のInari Medical社が市場参入するに当たって、主要な市場の脳分野を選ぶのではなく、ニッチな静脈分野を選定したこと

・静脈の方が太く血流も緩やかなので、恐らく技術的には動脈分野より簡単で、ユーザーに受け入れられる製品価格に仕立てながらも、大幅なコストダウンを実現してGP率90%をたたき出していること

前年比173%という大きな成長フェーズで、既にOP率19%という黒字化を達成。高利益率のものが爆発的に売れたために、既に黒字化し、市場シェアを更に獲得するために、大きな営業投資を行うという、理想的な事業サイクルが発生しているように見えること

・対して、Penumbra社は、今回の決算でも何とか営業赤字にならないように経費をコントロールせざるを得なかったような数字で、巻き返しのための大きな営業的な投資は赤字を拡大するので難しそうに見えること。低GP率で戦っているところを見ると、価格競争力も含めて、製品力が弱い可能性もあります。

相手の弱みをついて、一点突破という、後発企業の市場への新規参入のお手本のような印象で、とても勉強になります。

いつの間にかInari Medicalのことばっかり話してしまいました。あっ、このノートはPenumbra社のノートでした(^^; 

今後の注目点は、Penumbra社の静脈ビジネスがどのくらいのペースで立ち上がってくるのか?ということです。これが時間とともにInari社と同等の成長を遂げてくるとその時は総合企業であるPenumbra社のほうが強いと思います。次回決算、両社をフォローしていきたいと思います。

なお、これだけInari社を推しておいて何なんですが、Inari社は決算後、株価は下がりました。あくまで、この会社はどんな会社かというご紹介になります。当方、株価が適正かどうかについて判断する能力は、からっきしなので、その点はご注意ください。投資は自己責任で : )

最後に、少しでもお役に立てましたら、イイねボタンをクリックしていただけると次の記事も頑張って書けそうです。よろしくお願いします。

参照

Penumbra Annual Report 2019
https://s21.q4cdn.com/721716299/files/doc_downloads/2019-Annual-Report-to-Stockholders.pdf


誰も見ることないと思いますが、決算書や記事を読むときに格闘した残骸を置いておきます。必要な方がいらっしゃいましたら。

Vascular:血管

endovascular:血管内

neurovascular:神経血管

cardiovascular:心血管

thrombectomy:血栓摘出術

embolization:塞栓術

動脈塞栓術とは、血管造影検査の手技を用いて、経皮的に動脈内に挿入したカテーテル(細い管)を通じて、病変に関与する動脈を人工的に閉塞させる放射線医学的な治療法です。

aneurysms:動脈瘤

occlude:閉塞する

stroke :脳卒中

brain aneurysm:脳動脈瘤

hemorrhagic stroke:出血性脳卒中

peripheral arterial occlusion:末梢動脈閉塞性疾患

arteriovenous graft:動静脈グラフト

fistula declot:瘻孔デクロット

peripheral embolization:末梢塞栓術

venous thromboembolism:VTE:静脈血栓塞栓症

tPA :アルテプラーゼ(tPA)という脳梗塞治療薬は、閉塞した血栓を溶解させ、途絶した脳血流を再開させることが可能で、発症4.5時間以内にこの薬剤を静脈内投与できれば、脳梗塞が劇的に良くなる可能性があります。 しかし、合併症(脳出血、出血性梗塞)が出現することもあります。


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