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年初来325%上昇 SiTime(SITM)ってどんな会社(最新決算2020/11/4)

今年に入って株価が右肩上がりに325%上昇しているSiTime社という企業がある。SiTime社はMEMSタイミングデバイスを製造・販売している。株価の好調の要因は何か?決算内容を合わせて読み解く。

事業概要に入る前に、MEMSって何?という部分を最初に振れますが、お忙しい方はここは読み飛ばしていただいて良いかと。

年初来の株価はこちら
比較対象
 赤:QQQ
 紫:ARKK
 黄色:QCLN

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はじめに

■MEMSとは
「Micro Electro Mechanical Systems」の略称。半導体のシリコン基板・ガラス基板・有機材料などに、機械要素部品のセンサ・アクチュエータ・電子回路などをひとまとめにしたミクロンレベル構造を持つデバイス。通常の半導体との違いは、構造が立体的で、例外的なものを除けば可動部を有する点。

うーむ、わかりませんね。一言でいうと、「半導体加工技術を用いて作られた超微細加工されたメカ」という感じでしょうか。

MEMSはその立体構造の特性から、小型化、省電力化、高機能化、低コスト化に優れるデバイスと言え、様々な小型電子機器に欠かせない存在となってきています。

■利用用途
MEMSは様々なデバイス、利用用途で活用されています。インクジェットヘッド、圧力センサー、加速度センサーなどがこれまでの市場をけん引してきたことに加えて、自動車、ロボット、情報通信、安全・安心、環境、医療等の分野におけるニーズに対応して更なる広がりが見られます。

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もちろんスマホなんかでも様々なMEMSが使われています。

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Source
http://www.mmc.or.jp/

事業概要

・2003年設立
・2014年メガチップスにより買収
・2019年 11月 NSADAQにIPO
・タイミングデバイス市場のリーダー企業
・65製品/200アプリケーションへの展開で、10,000社の顧客基盤
・ファブレス、製造の多くはTSMCへ委託
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■製品・サービス
・タイミングデバイスとは、複数の電子機器間を連携するときに機器間の同期を保つための情報を提供するデバイス

・電子機器部品は、ユーザーアプリケーションの高度化に伴って、ますます複雑に連携し合い、かつリアルタイムに高速でデータ処理をしていかなければならなくなっている。かつモバイル環境での利用が多く増えているため、温度、衝撃等の大きな環境変化の中での利用が前提となってきている。そのような中で、正確性、信頼性、耐環境性の高いタイミングデバイスのニーズはますます増加していている。

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・SiTime社は、MEMSの技術をタイミングデバイスに持ち込むことにより成長をしてきた。

・一昔前までは、タイミングデバイスというと、水晶発振器を使うのが主流だったが、2013年にSiTime社がMEMSベースのタイミングデバイスの製品を発売。水晶発振器は70年以上の歴史があったが、この10年でMEMS発振器にLow End市場から切り崩され、今やHigh Endの市場でもMEMSタイミングデバイスが利用されてきているよう。まさに典型的なイノベーションのジレンマのストーリー

・MEMSの優位性は、
 1)衝撃・温度変化に強い
   参考ビデオ:https://www.sitime.com/timing-breakthroughs#
 2)小型・低消費電力
 3)信頼性

これらの特徴により、この部品を使って製品を開発する人の視点からすると、実装制約が大幅に低下。ファンの傍などでも実装できるため、更なる小型化も狙える、設計難易度低下による開発期間短縮に寄与するなど、メリットが大きい。

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■市場

・2020年10月のEarnings Callでの市場認識は、$8B のTAMに対して$ 1-1.2B SAMを想定。現在の約$100MのSiTime社の売上を考慮すると、まだシェアを拡大する余地がある

・(古い情報)2020年3月発表の資料によれば、タイミングデバイス市場全体(TAM)では $7.7B (2018)から$10B(2023年)まで成長。CAGR 5.4%。その中でSiTime社が現在Addressableな市場 (SAM, 青い部分)は、$3.8B(2018)から$5.1B(2023)へCAGR 6.1%成長。11/4 Earnings CallではこのSAMを$1.2Bと言っていたので、そちらが現実的数字か。ただ、以前資料のCAGRは参考にできると考えます。

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■競合
MEMSタイミングデバイスとしての直接の競合は、Decera。しかしMEMSタイミングデバイス内でのSiTimeのシェアは90%を超えるため、一強の市場。(恐らく市場的にも魅力的でなかったためとSiTimeに勝てなかったため、かつて数社いた競合は撤退した)

だた、この会社の本当の競合は水晶発振器。市場の9割程度を占める水晶発振器をReplaceしていけるかが焦点となる(Earnings Call情報)

https://eetimes.jp/ee/articles/1606/02/news100.html

決算内容

・お断り:昨年11月上場のため、過去データが開示されていないのと、売上だけは前年比を伝えてるので、データがvs PY, vs Last Quarterが行ったり来たりしてややこしいです。Non GAAPベースの会社からの説明となります。

・売上:$32.7M  vs (PY +29%増)
 -8月にガイダンスを上方修正していたが、ガイダンスのUpdateを更に超える売上
 -8月との差分は新しいスマホのデザインWinが寄与
 -カテゴリ別でみると、前年比でCommunication & Enterpriseが伸びている。通信機器、データセンター需要が大きい
 -最大顧客は売上の45%を占める(言及はないが、恐らくAppleと思われる。昨年の35%から大幅上昇)

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Sales in $M

・Net income : $4.4M (前年数値の言及なし、前Quarterと比較)
 - 前Quarter  $-2.2Mからは大幅改善
 -GP改善 :46.8% => 52.1%。プロダクトMix改善による販売単価向上、ディストリビューター販売から直販に切り替えたこと、原価削減などがトータルで寄与
 -Operational Expense 改善:55.6% =>38%。販売ボリューム増加による比率削減が寄与

・借入はすべて返済し、次Quarterからは無借金経営

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今後の見通し(Earnings CallよりCEOコメント)

・他のカテゴリのMEMSリーダーの勝ちパターンを見ると、先行投資による業界の開発をリードする企業が勝ち残っている。SiTimeもそれに倣う

・Occilatorに加えてRessolator, Clock ICの3つのカテゴリの全ての製品を導入したものの、これらの売上寄与はそれほど早く立ち上げらないと想定

引き続きOccilatorを中心に売上増加をしていくシナリオ

・5GのOpportunityは大きい。5Gで既にTier1 テレコム機器リーダー企業から大きな関心。5GではO-RAN標準化の促進に注目している。標準化が進み、異なるベンダー間でのInteroperabiltyが確保されることが、SiTime社にとっての成功につながるとみている

・Q4 ガイダンス
 -Q4 Rev 10-15% up ( vs PY +30%)
 -GP 53% +-1%
 -Operating Expense 8-10%
 -Non GAAP EPS $0.28-0.32

・水晶発振器からMEMSへの移行についての見解は?(アナリスト質問)
 => 雪だるま式に置き換わるところまでは進んでいないという認識。MEMSの方がデザインパフォーマンスに優れることをアピールしており、それが顧客がスイッチする主要因だが、15%くらいはサプライチェーンの優位性でビジネスを獲得している。過去は、水晶発振器にサプライチェーンの問題があっても顧客はAlternativeがなかったが、今はMEMSのAlternativeがある。それらの状況も含めて、徐々に移行をしていけると考えている

雑感

既存テクノロジー(水晶発振器)に新テクノロジー(MEMS)で挑む企業のストーリー。会社発表資料を見ると市場シェア90%以上と記載されているため、既に新テクノロジーが既存テクノロジーをReplaceし終わっているのかと勘違いするが、この認識は誤り。これはEarnings Callの質疑内容から考えると、1.2BのSAMに対して、現在の会社の売上$100M程度なので、市場シェアは10%弱と想定。よって、この会社の成長余地は、市場そのものの拡大とシェアゲインの二つ。短期的にはプロダクトカテゴリの拡大はそれほど寄与しなさそう

・仕事の関係上、タイミングデバイスを利用した商品の開発に携わったことがあるが、こういった周辺のシステムに影響を与える範囲が大きく枯れた部品関係は、変更による周辺の変更開発も大きくなってしまうので、枯れた技術をそのまま使いたいというモチベーションも高いと思われる。特に自動車のECUや通信機器等プロダクトライフサイクルの長い製品は、商品の機能付加価値をUpしないところで枯れた部分を設計変更すると、市場不具合を発生させるリスクが高まるだけなので、たとえ水晶とMEMSの部品同士のパフォーマンスを比べてMEMSが多少良かったとしても、部品変更するモチベーションは低いだろうと思われる。

・よってこの会社が水晶をReplaceするチャンスは、プロダクトライフサイクルが短い製品、極限まで小型化を詰めなければいけない製品、業界においてテクノロジーが大きな節目を迎えて、各メーカーが商品設計を一からスクラッチで行う製品などとなる。

・その観点では、5G向け製品に関しては、今後のビジネスの伸びを支える大きな継続的なビジネスチャンスと考えられる。今回の決算で通信機器向け(スマホじゃなくてバックエンドの通信機器の方)へビジネスが好調というコメントがあった通り、5Gの関連商品や、今後自動車がEVに替わるタイミングで水晶発振器を置き換えていく、というのが戦略となるだろう

・Appleは既存顧客のようなので(2019年時点で35%, 最新情報で45%)、5GスマホでSamsungなどApple以外の大型顧客が獲得できると(今は他社商品を使っているとして)、スマホはビジネス規模が大きいので、大きく売り上げを伸ばすチャンスがあるかもしれない。顧客ポートフォリオを見る限り、Appleに続く顧客は中・小規模が分散されているので、スマホメーカーの大手をもう数社切り崩したいところ。Apple獲得は幸先の良いスタートか。(すいません、この辺りAppleが顧客であること以外全てIf情報なので、全然違うかもしれません)

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・技術的には難しいチャレンジとされたMEMSタイミングデバイスを10年かけて商品化した高い技術を持つマーケットリーダー5Gの波、EVの波等が今後訪れることを考えると、MEMSタイミングデバイスに新たなチャンスがあると考えられる。ただ足元の業績は、売上の45%を占めるApple次第というApple銘柄であるため、Apple商品の売れ行きが大きなリスクとなるため注意が必要。アップル製品の売れ行きが悪いとなったら、真っ先に売られる銘柄の1社と思われる。

以上です。

最後に、少しでもお役に立てましたら、イイねボタンをクリックしていただけると、嬉しくて次の記事も頑張って書けそうです。

その後の決算情報も以下でまとめていますので、ご関心がある方はどうぞ

参考資料

決算資料
https://investor.sitime.com/static-files/a351a6ac-1197-469b-8378-a41cd69324ce

会社紹介資料
https://investor.sitime.com/static-files/a915b385-a26d-40c8-a51e-b95e7c2b9454

https://www.megachips.co.jp/product/mems/storage/SiTime-Overview.pdf

Appleに関しての情報
https://www.memsjournal.com/2019/10/mems-timing-device-maker-sitime-files-to-go-public-raise-100-milion-.html







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