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つながる。|弓月玲

物事は点と点。しかし、僕らには時間という流れがあって、点と点は自然とつながらざるを得ない。ゆえに、点から点へつながりゆく過程で、変化という事象が発生する。こ・と・ば、単独では意味のなかった平仮名が、つなげることで何かを指し示す言葉に変化する。なんかちょっと不思議。

たとえば僕が脚本を書いているとき、あるいは、芝居を作っているとき、そんな不思議にあらゆる場面で遭遇する。今ひらめいたアイデアが、忘れていた自分の過去の体験に根差すものだったりする。漠然としたイメージが、たまたま調べた資料に合致して意義のあるシンボルになったりする。偶然と言えば偶然で、当たり前と言えば当たり前だけれど、これって運命じゃない?って思ったりなんかする。点と点でしかなかった物事が出会って、つながって、たった一回きりの奇跡のような軌跡を描いて未来へ変化する。それが悲劇の場合もあれば、喜劇の場合もあるだろうけれど。考えすぎかな?

ケーキを海底のポストへ投函の第二回公演「変身」、その中の一作品「メン・イン・ブック」では四人の役者が芝居する。稽古を重ねてきて、彼らの芝居を見ながら、僕はまた上で述べたような不思議に遭遇しているなとぼんやり思ったりする。最初は四人とも点と点、それぞれが役や物語を身体で飲み込んで共有するまで、ばらばらでぎこちない。けれど稽古を繰り返すうち、互いの呼吸やイメージがつながって、芝居にも流れができ始める。その瞬間、登場人物や物語が生き生きと動き出す。四人と脚本がつながった瞬間、驚くくらい作品は違って見える。もちろん、つながるために役者たちは苦労しているのだけど。さまざまな点と点がつながるたび、目の前には少しずつ変化する世界が繰り広げられる。そんなちょっとした神秘に、演出を担当している僕は毎度遭遇しているのではないかな。

さあ、いよいよ本番。脚本と役者、そして今度はお客様につながる。そうしたら、劇場でいったいどんな世界が誕生するのかしら。当たり前と言えば当たり前なのだけれど。きっと全ての点が影響し合って、お互いの何かが変化する。そんな些細な不思議に、あなたにも出会ってもらえたら嬉しい。

#公演 #変身 #ケーキを海底のポストへ投函 #弓月玲

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