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ワタクシ流☆絵解き館その157 青木繁の作品に見る―その肉感的な口唇よ!

今回は先ず青木繁ファンならたやすいクイズから。
下の図版はすべて青木繁の絵の一部だが、A~Dは何という作品の一部か?

答は下のとおり。

青木繁「女の顔」1904年 油彩 京都国立近代美術館蔵  
青木繁「海の幸」油彩 1904年「大穴牟知命」油彩 1905年  アーティゾン美術館蔵
青木繁「漁夫晩帰」油彩 1908年  福岡市美術館蔵

青木の描く女性像の特徴として、多くの解説書が、大きな丸い眼を指摘する。クイズに使った図版では、あえて眼の部分は入れていないが、たしかにA~Dのどの女性も、大きな目をしている。眼の印象は大きい。
それを認めつつ、今回筆者が指摘したいのは、青木の描く女性の口唇(くちびる)の肉感性だ。厚く、赤く、艶を持ち、そして少し口元に力が入っている。自然に、口唇に視線が導かれる。
中でも、極めつけと言えるのは「大穴牟知命」のウムガイヒメの口唇だ(上の図C)。官能的な匂いを生み出す。

それでは同時代の他の画家の作品ではどうなのか。
同時代の画家の、愛らしく女性を描く意図をもった作品を当たってみたのが、サンプルは多くはないが、下に掲げた図版。

どうだろうか。当時の有力画家たちの絵を選んでみたが、口唇の描き方に、青木の絵のような肉感性を感じない。感じ方の違い、と言われれば筆者の絵解きも話が進まなくなるが、それを否定はしない。
確信するのは、青木が厚ぼったいつやつやした口唇に、女性美を感じ、創作意欲をかき立てられていたであろうということ。口唇の表情は、千々の思いを語ると意識していたことが思われる。

南薫造の絵も、小林萬吾の絵も、壁絵や植物など、背景のさわやかさに調和させて、女性美を浮き上がらせようとしている。
青木の場合は、ストレートだ。顔のパーツそのもので語らせようとしている。

青木の描く女性の、丸い大きな眼は、妻の福田たねの顔をモデルにしているからだと、これも多くの解説書に述べられている。
上の図A、B、Cの制作時には傍らに福田たねはいた。しかし、Dの絵は、福田たねと別れて、九州へ帰ってからの制作だ。また、下に掲げた「温泉」も九州に帰ってからの制作で、たねは青木と暮らしてはいないのだが、ここでも大きな眼、厚い口唇の女性が選ばれている。
つまり福田たねをモデルにしたから、写実的に大きな眼になっている、とは言い切れないと言える。
以前の記事で、この「温泉」の女性は、青木の胸中の見果てぬベアトリーチェ(詩聖ダンテの永遠の恋人)だと解釈した。
熱い思いを秘めた女性として人物を設定したとき、大きな眼と厚い口唇は、青木には必然の構成要素だったのだと思う。

青木と出会った頃、福田たねの若い日の肖像を掲げる。

青木繁「海の幸」部分

なお筆者は、「海の幸」の白面の顔が、意識して福田たねを描いているという解釈には、与(くみ)していない。やはり、福田たねそのまま、と思う方が多いであろうけれど。

                    令和4年6月  瀬戸風  凪

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