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ワタクシ流☆絵解き館その114    青木繁「春」に透けて見える9人のムーサとレオナルド・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」。

                   扉絵 ・  瀬戸風  凪   「島蔭」2022

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青木繁 「春」 1904年 水彩・パステル  アーティゾン美術館蔵

楽器を奏でる役割の宮廷の女官たちを描いているのであろう。けれどその役割を務める前の、くつろいだ時間のように見える。
天平文化の雰囲気を描こうとする意図が、この当時青木にはあった。「春」の2年後の制作になる「光明皇后」からうかがわれる何かの儀式の場に、この女官の一団を置いてみても違和感はないだろう。

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先ず画面構成から見てゆくと、おやっと気づくことがある。レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」の構図が浮かんでくるのだ。両作品に共通する特徴を列記してみる。
①センターにⅤ字の空間があり、左右に人物が分かれて配置されている。
②意識的にきゅうくつな感じを出す意図で、左半分に3人の近接した顔がある。
③右半分に、斜めの線を強調する伸ばされた腕がある。
④柱や窓枠により、背後を縦のラインで構図している。
⑤「最後の晩餐」は、柱の並びの狭まり方よって、「春」は檀が弓状に手前へ突き出してくる感じによって、横長で平面の構成に奥行き感を演出している。

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横一列の人物配置を選んだとき、「最後の晩餐」は自然に浮かんで来た作例だっただろう。
次に、女官たちの元にあるイメージを考えたとき、ギリシア神話を描いた画家たちの作品を(モノクロの粗い画質の複製画だったが)、熱心に見た青木の脳裏に焼き付いていたであろう9人のムーサ(ムーサは英語読みでミューズ=詩と音楽の女神)に思いが及ぶ。女官の人数が9人というのは、それに倣っていると思う。
青木が影響を受けているシャバンヌとモローの絵から、9人のムーサの描かれた絵を下に掲げる。

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下に掲げたモローのよく知られた絵「ヘシオドスとミューズ」には、ムーサを主題とした絵を華やかせる要素である美しい楽器が描かれている。これは青木の「春」にも見て取れる。
正倉院宝物をモデルにして描かれたであろう楽器が、「春」の平板な構成に変化を与えていて、同時に「春」のタイトルにふさわしい優雅さを生み出している。

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箜篌(くご)はハープである。

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母国日本においても、詩と音楽が時代を彩っていた幻想を許容する時代ー天平時代に場面を置き換えて、西洋絵画に見る詩と音楽の女神たちの姿を夢想したのが「春」であった。
青木の創作の熱源であったこの幻想は、熱の高まりの赴く処、論理性のある記述や事績が残る有史の時代を超えて、形而上の神話の世界へ舞台を移す。それが1905年の「大穴牟知命」、1907年の「わだつみのいろこの宮」へとつながっていったのだ。
                 令和4年2月  瀬戸風  凪







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