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ワタクシ流☆絵解き館その55 青木繁「海の幸」⑪吊り下げられた鱶(ふか)―殉教した兄弟使徒の姿

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  青木繁「海の幸」1904年 重要文化財 アーティゾン美術館蔵

この「海の幸」絵解きシリーズで、画中の鱶が意味しているものを考察して、左から一匹目が、イエスキリスト、二匹目が、イエスの十二使徒のリーダー的存在である聖ペトロと見てきた。(シリーズのこれまでの記事に詳述)
では三匹目の鱶は誰を?それを読み解こう。

答から言おう。それは聖アンデレ
聖アンデレについて簡単に説明する。聖アンデレは十二使徒の一人で、十二使徒のリーダー的存在、聖ペトロの弟。兄と同じく湖で漁師をして暮らしていた。イエスの、最初期の弟子である。二人をイエスに引き合わせたのは聖ヨハネだ。(関係を下の図に示す)

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聖ペトロと聖アンデレの兄弟は、イエスの復活後、キリスト教布教の中心人物となり、最期は迫害を受けて、磔の刑により殉教した。それを暗示しているのが、二匹目と三匹目の鱶だ。(図①)

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兄聖ペトロは逆さ磔の刑。弟聖アンデレは、Ⅹ十字の磔の刑であった。(図④)それを暗示する三匹目の鱶の姿だ。そしてこのⅩ十字は、スコットランドの旗ともなって、今日に聖アンデレの名を伝えている。(図②)

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鱶に架かる銛または竿が映し出すクロスは、アトリビュートとしての、聖アンドレ十字と読み取れる。(図②図③)
また聖アンドレは、漁師の出ということもあり、漁師の保護者と崇められている。そのため、もう一つのアトリビュートは魚である。すでに鱶自体が、大きな徽章であるが、絵を見ると、その鱶の胴体に魚の文様らしきものが見えてくる。(図⑤)これもまた聖アンドレを示す約束事に符合する。

☆アトリビュートとは、その人物を示す印となる持ち物のこと

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架刑のイエスの姿が先ず先頭にあり、続いて、イエスの教えを広めるのに大きな役目を果たし、同じく架刑により殉教した弟子の聖ペテロと聖アンデレの兄弟がいる。
画中の三匹の鱶が映し出しているのは、死を恐れず信念を貫く情熱への畏敬であり、また羨望であろう。筆者が「海の幸」から感じ取るのは、若き天才画家青木繁の心中にほとばしる思いである。
                         瀬戸風  凪








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