どうしようもなく暇なときに読むセブンイレブンの話。

私はほぼ毎朝セブンイレブンに行く。

同じセブンイレブンにほぼ同じ時間に行く。

そこのセブンイレブンには、朝のその店舗を取り仕切るプロのコンビニ店員さんがいる。テキパキと品出しをし、混んできたらレジに入り、外国人のバイトに指示を出し、しくじりそうならフォローする。彼は毎日淡々と仕事をこなしているが、朝のコンビニにありがちな、効率重視な感じが振る舞いから伝わってきて、私は少し苦手だった。

ほぼ毎日通って1年ほど経った頃だろうか。セブンイレブンがセブンアプリの導入を始めた。他の店員はアプリを提示してきた客にだけカタコトに対応する、という風だったが、彼は違った。熱心に「セブンアプリのご提示はよろしいですか」と毎回聞いてくる。ほぼ毎日行ってるから入れてないのは分かっているだろうに、欠かさず毎回聞いてくる。私はだいたいイヤフォンを片耳外して彼に挑むのだが、その感じからして、こいつ話聞く気ないな、というのを察してほしかった。「ぁあ、大丈夫です」と私は毎回答えた。

頑なにアプリを入れずに過ごして数ヶ月、私はアプリについて考えた。ほぼ毎日行くし、あの人もめちゃくちゃ推してくるから入れてみようかな、と。ほぼ毎日行くし。そしてついにアプリをダウンロードしたのである。

アプリをダウンロードしたはいいものの、会計時にスマホを出す習慣がなく、提示したりしなかったりの日々が続いた。もちろん彼がレジじゃない時限定である。あんなに毎回きちっと拒否してたのに、今更彼の前でアプリを提示するのはなんだか気がひける。そのうちわざわざ並ぶ前にアプリを起動し、すぐ出せるようにその画面のままポケットに入れて準備するようになったが、彼がレジの時はその準備が報われることはなかった。

「アプリのご提示はよろしいですか」

「ぁあ、大丈夫です」


そして昨日の話である。私はいつものように厳選米おにぎり大葉味噌味と昆布のおにぎり、クリスタルガイザー700mlをレジに持っていき、予め用意しておいたアプリの画面を提示した。

彼のレジだった。

いや、分かっていたのだ。この感じで行くと彼のレジに当たるであろうことは。何食わぬ顔でやればいけんじゃね?という謎の強気で、何がいけるのかよく分からないそれまでの葛藤を吹き飛ばし、私は彼にアプリを提示した。相手もプロだ。何事もなかったかのように対応するかと思いきや、その期待は裏切られた。「このアプリを入れるとバッチがたまって、……で、…………なんですよ」いつものオペレーションになにやら興奮気味に付け加えられた言葉。残念ながら軽快なlaugh laugh laughのメロディによって彼の言葉は打ち消されてしまったが、アプリを入れることのメリットを語ってくれたのであろうことは容易に想像できた。「…ありがとうございます。」私はそう言ってその場を後にした。バッチがたまるのは知ってるよ、だって前から入れてるし。と思ったりもしたのだが、どう頑張っても、彼のあの嬉しそうな顔が忘れらない。あんなに喜んでくれるならもっと早く入れてあげればよかった。なんかちょっと邪険にしてごめん。と思ったという話。


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