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落語聞き覚えメモ『牛ほめ』笑福亭仁鶴

(甚兵衛、以下■)こっち入り!こっち入り!うちのやつお前とこにやったけども、うちのやついたかいな?

(喜六、以下●)へぇへぇ「うちのやつ」来てもらいましたけど、「うちのやつ」まだ帰ってまへんか?

■それではどっちの「うちのやつ」やわからん。

●わからな幸いや、交代で使うか?

■よぉんなアホなこと言うとぉる。まぁ上がり、話に聞いたらおまはんこのごろぶらぶらと仕事もせんと遊んでるらしいな?えぇ?若い者が仕事せなんだらろくなこと考えへんねん。金にも困ってんねんやろ?金儲けをさしたろうと思うておまはんを呼びにやった。

●あ!さよか、わたい金儲けのことやったら親でも殺す。

■そんなえげつないこと言いなや、そういう男やろ?これからな、ちょっと普請を褒めに行っといで。こないだな、能勢の妙見さんへお参りして帰りや、池田のおっさんとこ寄ったら綺麗に普請がでけたあんねん。ほんでな、これから行てきて褒めてきて小遣いにぐらいなるやろと思てな。

●ほななんでっか?わざわざわたいを呼んで銭儲けっちゅうのは普請を褒めに行け言いなはんのか?

■そうや。

●堪忍しとくなはれ、わたいあれ懲りてまんねやがな、ずーっと前に普請褒めに行っておっさんにえらい怒られましてな。

■褒めて怒られたちゅうのは珍しい、どうしたんや?

●どうしたってあんた、だいぶ前でしたか、おっさんが床の間を普請しましたな?ほならさっそくわたし行ったん。おっさん床の間綺麗になりましたなぁ、ちゅうたら、「どや、大阪にもいろんな人いてるけども、床の間をここまで綺麗に普請したんはまぁないじゃろ」と、こう言うねやね。ほんで大工が四人かかって一月もかかったっておっさん自慢しよるさかい、おっさん作るときは一月かかったか知らんけど燃えたら一晩やで?

■お前なぁ、そんなことばっかり言うてんねやな。

●えぇ、だいいちおっさん見てみぃな、この床柱の上のほうに木が細いやつにゅーっと突き出たぁるがこんなもん危ないで?ちゅうたら「なにを抜かすねん、おまはんらにはわからんやろうが、大工が自慢でこしらえた天狗の鼻じゃ。」あぁさよか、大工が天狗の鼻でこしらえた木ですか?これやったら邪魔になれへんな。「当たり前じゃ、自慢で作ったもん邪魔になってたまるかい。」そらそうや、おっさんつまらんようになったらここへ縄かけて首吊れるで。

■お前何を言うてんねん、そんなことばっかり言うてんねやな。

●ほんだらおっさんがな、このがきゃロクなこと抜かさんな、拳上げましたもんでこんあところに頭おいといたら何されるかわからんと思もて、いっぺん逃げたれ表へばーっと飛び出しかかったら入り口の柱でガツーンと頭打ちました。ほんだらおっさんが「ざまぁ見されこのがきゃ、いらんことばっかり抜かすさかいに、罰は覿面なもんじゃ!」とこぉいうさかい、おっさんこれは罰やないわい、入り口が狭いさかいやど!とこない言うたったらな、こんなんやったらおっさんが死んで棺桶かて出にくいやろってこう言うたらおっさん腹立てよってね、表へ飛び出して来よって閂外してね、門をぶわーっと観音開きにしましてね、「どうじゃ!これでも棺桶が出んかぁ!」ちゅうて言いよるさかい、これやったらおっさん一人だけやないわ、家族死んでも揃うて出るやろ...

■お前な...そら何を言いに行ってんねや。褒めてんねやあらへんが。

●おっさんえらい怒りました。

■怒らいでかそんなもん。いやいや、そんなことと違う。わしがな、これから言うことを覚えたらな、褒められこそすれ怒られるということはない。わかったあんな?よぉ聞きなはれ。だいたい普請てなもんは表から褒める。

●さよか。

■表が総一面の栂造り、庭がちりめん漆喰、上がり框が桜の三間半、節無しの通り門じゃ。上へあがって畳が備後表の寄縁、天井が薩摩杉の鶉目、奥へ通って...

●ちょっと待っとくなはれな。物教えんねやったらもっと丁寧に教えたんなはれ。そない先先行ったら覚えられやしまへんが。わたいね、これからあんた言いなはること書いて覚えまっさ。

■あぁ、そぉせぇ。そこに硯と墨があるやろ、こっち持ってきて。

●へぇへぇ、これでんな。

■これでんな、やあれへんが。硯と墨だけでどないすんねん、水入れてこなあけへん。

●あぁ、水でっか?汲みに行くの邪魔くさい!かーっ、ぷっ!

■汚いことすな、唾吐いたりしないな。

●唾とちゃいます!痰です!

■余計汚いわお前。ええ?わかったあるか?

●へぇ、わかっとりますが、どういう字で書きまひょか?御家流にしまひょか?青蓮院流にしまひょか?英語にしまひょか?ドイツ語にしまひょか?

■いろいろ知ってんねんな、まぁおまはんの書きやすい字でえぇ。

●ほな仮名で書きまひょ。

■はじめから仮名でええがな、ごちゃごちゃ言わんとな。まずは、総一面の栂造り。

●へぇへぇ、えー、ところでちょっと尋んねますが、まずの「ま」はどない書こう?

■お前な、ドイツ語ちゅうてんのとえらい違いやな。早いこと書きなはれ。

●へぇ、わかってます。

■「総一面の栂造り、ちりめん漆喰」じゃ。

●へぇへぇ、ちりめん漆喰な。

■「上がり框が桜の三間半、節無しの通り門」じゃ。

●へぇへぇ、桜の三間半、節無しの通り門な。

■「畳が備後表の寄縁」じゃ。

●へぇへぇ、備後表の寄縁な。

■それから、「天井が薩摩杉の鶉目」。

●へぇへぇ、薩摩杉の鶉目とな。

■あのー、なんじゃ、これらはな、言うだけではあかんねな。いっぺん撫でてみぃや。

●へぇへぇ、こら言うだけではあかんで、いっぺん撫でてみぃや。

■そんなことは書かんでもええねや!

●それは書かんでもええねん。

■消しっちゅうねん。

●消しっちゅうねん。

■お前は何を言うとんねん...そない言いながら奥へ通んなはれ。

●こない言いながら奥へ通ること。

■「南天の床柱」な。わかってんな?「黒柿の床框」と。こんなことになったある。こんなところを見ると、「京の金閣寺も裸足で逃げそうな」と。

●はぁさよか。えー...京の金閣寺も下駄履いて逃げそうな、と。

■裸足やがな。

●あのへんは砂利道が多いさかい、ちょっと下駄履かせて。

■お前余計なこと言わんと、わしが言うたこと覚えて書きや。

●へぇわかっとりますが。それから?

■それからな、棗形の手水鉢というのが縁側にあるさかい、これも褒めといで。

●へぇへぇ、棗形の手水鉢...へぇわかりました。

■ほんでな、これはおっさんがな、三十円で買うたとこない言うとったけど、今日びのこっちゃ、「五十円も出しなはったやろ!」てなことを言うたらおっさんは喜びよるわ。

●はぁ、さよかな。三十円で買うたけど五十円も出したと言うたらおっさんは喜ぶことなり、と。うん。

■それからいよいよ台所やな。

●これでもう小遣いになりまへんか?

■これからやがな金儲けは。わかってんな?台所行たら大黒柱があるがな、こら自慢じゃ、おっさんの一番の自慢やな。ところがな、大黒柱ができた後にぽろっと節穴が空いたんじゃ。おっさんこれ気にしとんねん。せやさかい向こう行くなり「あぁ~こらえらいところに節穴があんなぁ。家相にかかわりまっせ?えぇ知恵貸しまひょか?」ってこぉ言うたらおっさんのこっちゃ、「何抜かしてけつかんねん、おまはんらの知恵ったちゅうのは大体決まったぁるわい。木ぃ削れとか埋め木せぇとか言うねやろ!」「何を言うてなはんねんおっさん!木ぃ削ったら細ぉなりまっさい、埋め木したら傷が付きますわ。ここへさして秋葉はんの(貼る)お札貼っときなはれ!火除け魔除けになって、おまけに穴が隠れまっしゃろ?」とこない言うねやな。ほんだらおっさん「おぉぉえらいこと言うてくれた。こらただでは放っとけんわい」言うて二円になる勘定やが。

●あぁ、そこで二円が来ますかなるほどなぁ。ほな二円出さなんだらあんさん立て替えるか?

■なんでわしが立て替えないかん、まぁそれへ書け。

●へぇわかっておりますが...こんだけあったら小遣いになりますかな?

■まぁ~ことはついでやさかい、牛褒めといで。

●あ、それ堪忍しとくなはれ。牛わたい懲りてまんねん、前牛ほめてえらいおっさんに怒られて。

■一通りなんでもやってんねんなお前は。どない言うたんや?

●どない言うたんって、牛のええのは色の黒い骨太いのやて聞いてますやろ?せやさかい池田へ行くまで色の黒いの骨太いの...色の黒いの骨太いの...色の黒いの骨太いの言いながら向こう行きまして上がったら向こうの娘はんがお茶出してくれたん。ええ娘はんでんなぁてこう言うたらおっさんが「何を抜かすわい、お前ら大阪で垢ぬけした子ばっかり見てるわな、こんな草深い田舎の娘なんかちょっともええことないやろう」てこう言うさかい、あぁ~そんなことおまへんで、ええ娘でっせこれはええ娘や、ほんまにええ娘や色の黒い骨太い。

■お前なぁ、牛と娘と間違えないな。

●えらい怒りまして。

■怒らえでかいな。牛のええのは昔から「天角地眼一黒鹿頭耳小歯違」というなぁ。

●そらなんのことですか?

■天角というのは角が空を睨んでて、地眼というのは目が地べたをこうグーっと睨んでる、な。一黒、一面に黒ぉて、それから鹿頭というのは鹿の頭みたい滑らかになったぁる。耳小、耳が小っそぉて、歯違、歯ぁがぐいちになったぁるやつがえぇなぁ。それが昔からえぇ牛とされた。

●あ、さよか。へぇへぇまぁほんだらここへこぉ書いときまひょか。はぁはぁ、こんでよろしか?

■こんでよろしか、でえぇけどおまはんな、それ書いてそのままやったらあかんで?懐へ放り込んでおくだけでは。覚えなあかんで?

●へぇわかっとります!おおけにありがとう!

さぁ右の男なんせずぼらですからなぁ、覚えようとしまへん。懐へ放り込んだまま明くる朝、池田へさしてやってまいりました。池田のおっさん、今日の天気はどんな具合かなぁと思て外へ出て口開いているところに右の男がやってまいりまして。

●おっさーん!どうもこんにちは。ご無沙汰しております。どなたもお変わりございませんかいな。おっさん!

(池田の叔父、以下◆)はいはいはいはい...なんじゃ馴れ馴れしい言いなさるがな、年取ると目角が悪なってなぁ、失礼いたしておりまするが、あんさんもまた下向いてたらお顔がわからん。どうぞ顔上げとくれ。

●あ、おっさん、声聞いただけではわからんか?顔見んことには、そうか?よぉ見なはれこんな顔や。

◆あぁ!?なんじゃい、大阪のあほか。しばらく顔見せなんださかい助かってたんじゃ。今日はまた何しに失せさらした?

●そんなぼろくそに言いなはんな。あのー、普請褒めに来たんですが。

◆おまはんこないだ一晩で燃える言うたやないか。

●いや、今日は仕入れて来てまんのんでな。うまいこと行くと思いますが。

◆うーん...それやったらええけども。わしゃ家普請したちゅうことを誰にも言うてないねがな、大阪まで聞こえてるかい?

●聞こえてるかい?そんな気楽なこと言うてたらあきまへんでおっさん!えらいこっですでこら。辻々に立札が立ちましてな、号外撒かれて...

◆お前言うとそれやろ?えぇ?まぁあんじょう褒めてくれるか。

●へぇ、わかっとりますが。まず表からだいたい褒めまんねん普請なんてもんは、表から。

◆あぁ、どうなとせぇ。

●へぇ、わかっとりますが。うわーっ、表やなぁ!表は...総一面の栂造りでござーい...!

◆軽業やなまるで。えぇ?ごじゃごじゃ言うてんと表で大きな声出してんと、中入んなはれ。

●うわーっ、おっさん、こらまたえらいえぇ庭やな!

◆この庭のよさがおまはんにわかるか?

●わかるかってなあんた、庭はちりめん漆喰、上がり框が桜の三間半、節無しの通り門。あぁ、こらただ言うだけではあかんで?いっぺん撫でてみぃや?

◆お前ちょっとも撫でてへんやないか。

●へぇ、これからぼつぼつ撫でまんねやがな、え~~...こんなもんでよろしいかな?上へ上がらしてもらいます!畳が貧乏のぼろぼろで!

◆何を言うたんやお前は、何がぼろぼろやて?

●いえ、あの~、畳が備後表の寄縁ですわこれ!おっさんあんじょう聞きなはれ。

◆お前があんじょう言わんかい。

●え~、次に天井が、天井が、天井が...

◆お前天井ちょっとも見てへんやないかい、懐ばっかり見てるやないかいお前は。

●おっさん気にしなはんな、こんなん今大阪で流行ってまんねん。天井が...、さつまいもの鶉焼き。あ~難儀ななぁ。天井が、天井がさつまいも、天井さつまいもってなことはないなぁ。天井...

◆何をごじゃごじゃ抜かしてんねん、そこまで言うたらわかったあるわい、薩摩杉の鶉目やろ!

●そうそうそうですわ!はぁ、一時はどないなるかしらんと...よぉ言うとくなはった。薩摩杉の鶉目と言いながら奥へ通んなはれや。

◆お前が通らんかいな。

●へぇ、わたいも通りまっけど、おっさんも通んなはれや?へぇ、あ~、これやな。なってんの、なってんの床柱!萩の違い棚...黒柿の床框、こういうところを見るとおっさん!金閣寺が下駄履いて逃げそうななぁ。

◆お前誰に聞いてきてんそれ?言うてることがわからんがな。けどまぁええわ。

●まぁええっておっさん、褒めとりまんねや一生懸命わたいな!おっさ~ん!はぁ~、こらぁ...棗形の手水鉢!えぇなぁ!

◆こっから縁側が見えてんのんかお前は。

●見えてまへんか?

◆お前見えてん物まで褒めなや?

●え~、縁側はどこでっか?

◆ついてこいこっちお前は...けったいなやっちゃ。縁側の手水鉢褒めたいねやったらこっちや。

●あ!これですわ。棗型の手水鉢。これはおっさんが三十円で買うたけども、今日びのこっちゃさかい、五十円も出しなはったやろちゅうたら、おっさんは喜ぶことなり。

◆気色悪いなお前は。元値まで知っとんのかいなお前は。えぇ?何を言うたんや?そんなもんか?

●いえいえ、まだまだ褒めまんねがな。おっさん、台所行きまひょか。これからが大事でんねや、えぇ台所。

◆あぁ台所行ってくれ。ええ、どうじゃ。

●あぁ~ほんに綺麗になりましたなぁ。見違えるようですなぁ。大黒柱。あぁこれや!(手を叩く)こっちやこっちや、おっさ~ん!えぇ大黒柱やなぁ。節穴どこや...あ、おっさーん!えぇ節穴やなぁ!こんなところに節穴開いたったら家相に関わりまっせ?

◆こらこらこら、それ言うなおまはん、わしはそれを気にしてな、夜の目も寝んと苦にしてんねん。

●苦にせぇ苦にせぇ、これからもっと苦にせないかんわい。おっさーん、えぇ知恵貸そか?

◆何抜かしてけつかんねん、お前らの知恵ちゅうのはだいたいわかったあるわい、木ぃ削れとか埋め木せぇとか言うねやろ?

●何を言うてなはんねんおっさん、木削ったら細ぉなりまっさ、埋め木したら柱に傷がつきまっさ、なぁ?ここへさして秋葉はんのお札を貼っときなはれ。火除け魔除けになって、おまけに穴が隠れまっしゃろ?

◆おぉ~、こらえぇことを教えてくれた。いやいや、負うた子に教えられ浅瀬を渡る、というのはこのこっちゃがな。おおきにおおきに、いや、これだけがわしゃ心配でな。いっぺんに胸のつかえが下りたわい。こらただでは放っとけんな。

●放っとけんぞ放っとけんどこれは?ちょっと懐が揉めんどこれは?

◆いやいやこれは嬉しい、おいお咲、いま大阪の兄ぃが来てな、ええことを言うてくれたんじゃ。ちょっと財布持っといで財布。

●あの、銭のよぉけ入ったほうな。

◆いらんこと言いな、あぁよしよしよし、おまはんがそういうことを言うてくれるとは思わなんだ、よし、これあげるさかい持ってけ。何ぼやいてんねんお前は、一円では約束が違う?誰が約束してんそんなもん。なに?こんなん大阪では二円が相場?そんなもん相場があるかい!とってけとってけ。

●へぇへぇもうときます。ほんでおっさんなんでんなぁ、銭もぉたさかい言うわけやおまへんけど、ちょっと牛褒めさしてもらいまひょか。

◆それだけはおいとくれ。おまはんこないだ来たとき娘捕まえてどない言うたんや?色の黒い骨太いちゅうたやろ。お前の姿見て隠れて出て来ぇへんやないかい。それだけおいとくれ。

●いや、今日は最前言うたようにちゃんと仕入れてきてまんのんでな。上手いこと褒めさしてもらいます。

◆そうか?牛のええのがわかるかい?

●わかります。あののぇ、ちょっと待っとくなはれな。天角地眼一黒鹿頭耳小歯違という牛がえぇ牛でっせ?

◆そんなことはわしも百姓じゃ、なぁ?ちゃんと知ってるわい。なんでそういう牛がええっちゅうのはわかるかい?

●わかるかいってそらあんた、天角ちゅうたら角がね、空向いてまんねん。ほんで地眼ちゅうたら地べた睨んでまんねん目ぇがな。ほんで一黒いうたら全体が真っ黒けでな。ほてからなんでやすわ、鹿頭ちゅうのは鹿のように滑らかでな。耳小、耳が小そぉて歯ぁがぐいちになってる牛がえぇとされてまんねん昔から。

◆ふーんなるほどだいぶん勉強してきたな、よしそれやったらええわいこっち来い、牛見したろ。どや、あれがわしの牛や、えぇ牛やろ?

●これが?えらい小っちゃい牛やなぁ。弱ってまっせちょっとこれ。地べたに寝ころんで舌出して。

◆そら犬やないか!黒犬が寝てんねやないかそれは。

●黒犬でっか?あ!こりゃぁえぇ牛やなぁ、おっきいやっちゃなぁ、真っ黒けでなぁ、角が空睨んどる。目ぇが地べた睨んで、あぁなるほど一面に黒ぉて歯ぁがぐいちになって、えぇ牛やなおっさん!こらえぇ牛やな。こんなええ牛は今まで見たことない!

口からでまかせ褒めておりますと、牛め何を思いましたか、男の目の前おけつをぐーっと向けになりそれへさしてむさいもんをべたべったべったべったー。

●おっさ~ん...無茶すんなこの牛は。

◆いやいや堪忍しとくれなぁ、人間ならな、礼の一つも言うとこやけどな、そこが畜生の哀しさじゃ。そない言わんと堪忍しとくれ。なぁ、この牛もええ牛じゃが、この穴さえなかったらなぁ。

●おっさん、ええ知恵貸しまひょか?

◆どないすんねん?

●あれへさして秋葉はんのお札を貼っときなはれ。

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