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落語聞き覚えメモ『くっしゃみ講釈』(笑福亭仁鶴)

(源兵衛、以下■)どないしたんや?

(熊五郎、以下●)ああ、どうも。

■どうもやないがな。長い間顔見せなんだが、どこ行てたんや?

●ええ、ちょっとカイサのほうへ行っとりましてなぁ。

■はぁはぁ、どこの会社へ行ってたんや?

●いえいえいえ、会社やおまへんねが、カイサへ行ってましてなぁ、カイサへ。

■カイサってなんや?

●あのー、堺ひっくりかえしてカイサやと思てね。

■んなおかしなものひっくりかえしないな。んで、堺へ何しに行ってたん?

●ええ、ちょっとゴトにね。

■ええ?

●ゴトに行ってたん。

■「ゴト」ちゅうと?

●「仕事」を縮めて「ゴト」や言うてね。

■んなややこしい物言いばっかりしないなお前。んで何かいな?半年ほど行ってたん?

●ええ、もう大きな仕事で。

■んで何か?変わった話でもあったか?

●いや、別に変った話てなことはおまへんけど。ああ、変わったいうたらこの町内、しばらく見ん間に様子がコロッと変わりましたなぁ。

■そうやろ?近頃では軒切りとか改造とか道を広げたりな、こう軒並みが揃うて綺麗になったある。

●へぇ、そうでんなぁ。みながやかましゅう言うてたあの化け物屋ねぇ。

■おう。

●みなが化け物が出る言うてわぁわぁ言うてた化け物屋敷。夕べ十時過ぎに通ったら化け物が仰山出てました。

■ええ?出てたかぇ?

●ええ、座布団持った化け物やら、たばこ盆提げた持った化け物やら、中に一人だけ高いところへ上がって「どうぞ明晩もお早うからお越し」言うてたんは、やっぱりあれ化け物の親方やと思ってなぁ。

■化け物の親方があるかいな。ああいう悪い噂の立ったところは、かえってみな嫌がって住まんさかい人寄り場所にしたらどうや、ちゅうて知恵者があってな。ほんでまぁ、講釈場にやり直したんじゃ。

●ああ、さよか、講釈場に?

■小屋が新しいちゅうことになると、お客さんが珍しい言うて押し寄せる。

●そらまぁそうですわ。

■小屋が新しい、先生が上等、出し物がええ、三拍子揃うて毎晩大入り満員や。

●ああ、さよか。ほんでその、先生ちゅうのはどういう先生で?

■どういう先生って...今度東京から来なはった、後藤一山という講釈師や。

●ええ?

■後藤一山というな。

●まぁああああ!!

■お前なんちゅう声出すねん。

●後藤一山ちゅうたら、なんでっか?色の白い。

■そうや。

●ぼてっと肥えた。

■そうやがな。

●花の横にほくろのある。

■おお、お前の言う通りや。

●顔の両側に耳のある。

■大体あるわいな。

●東京でも大阪でも?

■それがどないしたんや?

●へぇ、聞いとくなはれ。

■なにを?

●今年わたい二十五や。

■お前何を言うてんねん。誰もお前の歳聞いてへんわい。

●初めておなごができてん。

■お前な、二十五にもなって「初めておなごがでけた」てな自慢たらしぃ大きな声で言うてたら世間の人に笑われんで?

●それが他のおなごやったら自慢せやしまへんねやで?表通りの花屋のおもやんでんねん。

■おもやんちゅうたら、この町内でも「今小町」と別の名がついてるぐらいの別嬪さんやないか?

●ええ、それとでけたんや。

■どないして?

●どないしてって、あんた。夜店の晩にね、風呂屋の前でべったり会うたんや。「ああ、おもやんええところで会うた。ちょっと前々から話しぃたいことがあってん。付き合うてぇなぁ。」言うて風呂屋の路地へと引っ張って行ったんや。ほんで二人がぼそぼそぼそぼそしゃべっているところへ、通りかかりよったんが、あの後藤一山や。講釈師ちゅうのはむつかしい物言いしまんな。「夕景より腹中痛んでまいった。どこぞそこらに大便場あれば拝借な致したい。」大層に言うやおまへんかいな。路地入って来よって入り口でなんやむさいもん踏みよったんでんな。「雪駄の裏ににんやりとおいでたは、土にしては少々粘り気も此有候。犬糞でなくばよいが...」大層に言いまっしゃろ?犬の糞のこと「犬糞」やちゅう言いまんねん。ほんでこの雪駄の裏、こうじんわりとかざしてみよって「案に違わず。犬糞犬糞。紙で拭くのも異なもの。どこぞそこらの壁へぬすぐっといてやれ。」路地の奥へ入って来よった。わたしとおもやん見つかったらいかんさかい、壁へべちゃ~っとへばりついてたら「この辺の壁がよかろう!」にゅ~と来たのがわたいの鼻の先でんねやがな。わたいの鼻、犬糞の雑巾代わりにされたある。ああ臭いやら腹立つやらでギャ~ちゅうたらこの声にびっくりしておもやんは飛んで帰るは、講釈師はおらんようになるはで、あとに残ったんわたいと犬糞の二人連れや。

■そんな臭いもんと二人連れになりないな。

●ほんでまぁしゃあない、そのまま近所の風呂屋へ行って番台に「鼻になんかついてまっせ?」言われて、へぇそうでんねん。これ落としに来ましてん。言うてほんで綺麗に洗うて。

■はぁ~。んでどうなったんや?

●どうなったちゅうことあらへん。次の晩おもやんとこ行って「おもやん、ゆんべの話がもうちょっと残ったあんねん。もう一晩付き合うてぇな。」言うたらおもやんが言いまんねん。「あれからつくづくわても考えてみたけれども。犬糞の雑巾代わりにされるような人と添うても先に見込みがないさかい、この話は変改でやす。」って。せっかく上手いこと行きかけた話が犬糞のために破談なったある。後藤一山て聞いたらわたいじっとしてられまへん。これから講釈場へ暴れこんで講釈やれんようにしたんねん。

■んなアホなことしないな。そんなことをしたらお前が捕まって二、三日臭い飯食わないかん。

●たとえ臭い飯食うたかって...

■傍のお客さんに迷惑や。

●迷惑もくそも傍はどないなってもよろしいねん。

■まぁまぁ待ちいな。一晩でも講釈やれんようにしたったら気が済むねんやろ?

●いや、一晩なんてことは言いやしまへん。たとえ一時間でもでけへんようにしたったら、胸がすっとすんねん。

■それやったらええ知恵貸そか?

●ええ知恵といいますと?

■横町の八百屋へ行って、胡椒の粉を二銭ガン買うといで。

●どうなりまんのん?

■講釈やっとる前の火鉢にくべて、煙が出るわ、鼻に入るわ、えぐえぐいくっしゃみが出て、講釈やれんようにしたったらええねん。

●あ、なるほど。行こう。

■いや、行こうってお前...、肝心のもの買うてこなあかんやん。

●あ、なんや買いまんねんな。

■胡椒の粉や。

●どこに売ってまんねん。

■横町の八百屋。

●横町の八百屋...なんぼガン買おう?

■二銭ガンも買うたら十分や、ちゅうてんねん。

●あ、二銭ガン。何買うねんな?

■いま言うたとこやがな。胡椒の粉や!

●あ、胡椒の粉。どこに売ってんねん?

■横町の八百屋や、言うてるやないか。

●八百屋~なんぼガン買おう?

■お前、そないモノ忘れたらどもならんな。

●わたい物覚え悪いさかい、自分でイライライライラしまんねん。

■こっちがイライライライラすんねんアホやな。そない覚えられへんねやったら、ええ目安教えたろか?お前からくりしってるか?

●からくり知ってまんが。ああ。小伝馬町より引~き出~され、ホーイ!

■大きな声出さいでもええねや。

●子供の時分、前で真似してオッサンにえらい怒られて。

■ほんで、八百屋お七のからくりがあるな。お七の男をば小姓の吉三ちゅうやろ?そこで胡椒を思い出さんかいな。

●ああ!なるほどな~。どこで買うねん?

■横町の八百屋や!

●ああ、なんぼガン買おう?

■ええ加減にしいや!!横町の八百屋行って胡椒の粉二銭ガン買うといで。早いこと行ってこい!

●(はあ~、わいが物覚え悪いところへあいつがイラチと来てるさかい、しまいに怒りやがんねん)ええ、八百屋の!

(八百屋、以下▲)へぇおこしやす。

●おくれんか?

▲品物は?

●くっしゃみ出るもん。

▲そんなんおまへんわウチ。

●それがあんねがな。思い出しいな。

▲あんたが思い出しなはらんかいな。なんだんねん?

●まだ東京が江戸ちゅうた時分。

▲そんな古い時分わたい生きてへんさかい知らんわ。なんや?

●なんやってあんた...もうここまで出かかったあんねん。ちょっと覗いて見て?

▲そんな気楽な。思い出しなはれ。

●思い出しなはれって..ほれ、あるやろ?ほれほれ。ほれほれほれほれ?ホーイ!

▲なんだんねんあんた?

●小伝馬町より引~き出~され、ホーイ!先には制札紙の~ぼり~、ホーイ!ちゅうのを二銭ガンおくれ。

▲おまへんわそれ。あんた店間違うてるわ。ウチそんなんない。

●それがあんねや、ホーイ!はだか馬にと乗~せら~れて、白い襟にて顔隠す、見る影姿は人形町の、ソーレ!今日で命が尾張町の、ちゅうのを二銭ガンおくれ。

▲ないねん。おまへんがなあんた、しょーもないこと言うさかい店の前えらい人だかりや。もし、なんでもおまへんなんでもおまへん。この人もの買いに来て忘れてこんなこと言うてんねや。往来しなはれ往来しなはれ。往来しなはれ。

●ホーイ!

▲まだかいな?

●今どんど~んと渡る橋、ソーレ!悲しかなしの泪橋、品川女郎衆が飛んで出る、ソーレ!ちゅうのを二銭ガン。

▲ない言うてまっしゃろ?あんたおかしなことばっかり言うさかい、ますます人が増えたあるわこれ。押したらいかん押したらいかん、店先に大根が積んだあんねん崩れるさかい、ほら崩れた。誰や?大根掴んで逃げるのは?泥棒!

●ホーイ!

▲まだかいな...

●これよりかかると天下の仕置き場鈴ケ森じゃ、どうじゃ!どうじゃ、どうじゃ、どうじゃ!

▲やかましな~...なんだんねん?

●八百屋、わいが最前から一生懸命やってるのこれなんや?

▲なんやって...それ、からくりでっしゃろ?

●からくり二銭?違うがなおい。えー、なんちゅうからくりや?

▲誰でも知ってまんが。八百屋お七のからくりでっしゃろ?

●あーそうや、お七...ちゃうねん、もうとなりまで来たあんねやがな。お七の色男なんやちゅうな?

▲それやったら駒込吉祥寺の小姓の吉三とちがいますか?

●胡椒!!!!そいつや!

▲もう声も出えへんのに大きな声出しなはんなあんた。そいつやって、盗人みたいに言うてなはんな?胡椒でっか?

●ええ、あの、胡椒二銭ガンおくれ。

▲すんまへん、いま切らしてまんねん。

●そら具合悪いがな、切らしてまんねんって...ここまでやらしといて。お前も商売っ気ないやないかい。切れたあとちゃんと仕入れといたらどうや?今日わい買いにくるのわかったあるやろそんなもん。

▲わかりまっかいな。

●難儀やな~あれくすべてね、煙り上げてグア~っとくっしゃみさそう思てんねや。他になんぞくっしゃみ出るもんないか?

▲おかしな使い方しなはねんな。火にくすべまんのか?それやったらわたし胡椒でやったことおまへんけど子供の時分にね、火鉢の傍でうとうとしてる人目覚まさすのにね、唐辛子の粉をくすべて悪さしたある。

●くっしゃみ出るか?

▲えぐいのが出ます。

●ほんなら唐辛子二銭ガンおくれ。

▲あんた今どきのお方やおまへんなぁそやけど。唐辛子の粉二銭やそこら買うのにからくり一段やってからに。はいどうぞ。ここ置いとくで。みないつまでたかってなあんねん。もうからくり終わってまんねやで?往来しなはれ往来しなはれ!

●源さん!

■源さんやないわいアホ!ほんまにお前は頼み甲斐のない鈍なやっちゃな!ほんまに...陽の高いうちに出て行って、もう日が暮れたあるやないかい。何してんねんお前。

●ええ~、それ買うもん忘れて。

■せやさかい教えたったやろ!

●思い出した。

■どないして?

●ホーイ!小伝馬町より引~き出~され、ホーイ!

■八百屋の店先でそんなことやったんかお前?

●からくり一段やったってん。

■八百屋のおっさんわろてたやろ?

●褒めてたで?

■褒めてた?どない言うて?

●あんた今どきのお方やおまへんなって。

■笑われてんねや...ほんまに。で胡椒は?

●なかって。

■なかったら帰ってこんかい!

●いや、それがな、言うたら唐辛子でもくっしゃみが出るちゅうて。

■なんでも出りゃええねやけども、早いこと行かんことには講釈場ってなもんは常連が多いさかいにな、もう毎晩行く人があるさかい、あそこの壁はどこそこの旦那、こちらの柱はどこそこのご隠居って場が決まったあんねん。近所の連中がみな行ってんねや。はよ行って前座らんことには仕事にならんさかい言うてねや。出といで!

ぼやかれもって出てまいります。横町をくるっと回りますと講釈場。演芸場とか寄席なんていいますと、提灯が釣ったあって華やかですが、講釈場というのは、後藤一山なんて金看板の看板一枚も出てあるだけで、あとはもう、普通の民家ですからな。陰気なもんで。入り口で、痩せたおっさんがひげ面でな、鉄華火鉢股座に挟んで、上目遣いで客の顔を見ながらな、雨呼ぶ蛙みたいな顔したある。マァお入り、マァお入り、マァお入り、マァお入り…

●小便かけたろか。

■んなアホなこと言いなお前。二枚通るで!ほれ見てみ?

●ぎょうさん来たあるやないかい。

■そやさかい言うてんねや。な?木村はんやら福島はんやら後藤はんやら言うてな、難波戦記みたいな人ばっかり来たはる。ちょっと前行かせてもらい。前に行かんと仕事にならんさかい。すんまへんな、ちょっと通してくんなはるか。

(講釈場の客)お宅ら講釈とは面白い。あんたがたみたいな若い人はなんやで、落語でも聞きに行きなはったらいったらどや?

●へえ、ほんまは落語のほうが好きでんねんけどね、噺家に犬糞の恨みがないのんでね。

■いらんこと言いな。落ち着いて座ってる場合かお前、肝心のものもらわんかい。

●肝心のものちゅうと?

■火鉢もらわなあかんが。

●それ忘れてんねや。姐はん、姐はん!火鉢持ってきてんか火鉢。火どっさり入れて。唐辛子!

■いらんこと言わんでええねん。おおきにおおきに。

●なぁほんまにもう...後藤一山め…

■お前なにしてんねん?まだ講釈師が出てへんやないかい。今からくすべてどないすんねや。そっちから仰ぎなちゅうねん。それではわしがくっしゃみ出んならん...まだ早い...へーっくしょい!

●はあ、これやったら唐辛子でも大丈夫や。

■人を試験に使いな!

わーわー言うてますところへ出てまいりましたのが講釈師。噺家みたいに軽いことおまへんな。大太鼓がドーンドーンドーンドーンドーン...そら落ち着いたもんで。昔は百五十石もとったもんやというようなもんで。軍艦弓矢、そばにある湯をば、こう悠々と飲みながらぼつぼつしゃべりだしますが、はじめこの何をいうてるやわからん。んでお客さんがだんだんと耳をそばだててくる、会場が静まりかえりますと、ぼつぼつとしゃべりだすという。

(後藤一山、以下▼)お早々からのお運び様にて有り難き幸せに御座りまする。毎夜読み上げまするは、いずこの島々谷々津々浦々へ参りましても御馴染み深きところをば経験両道は難波戦記のお噺。頃は慶長も相改まり、明くれば元和元年五月七日の儀に候や。ところは大坂城中、千畳敷おん御上段の間には内大臣秀頼公、おん左側には御母公淀君。介添えとして大野道犬、主馬修理亮数馬。軍師には真田左衛門尉海野幸村、同名大助幸安。四天王の面々には木村長門守重成、長曽我部宮内少輔秦元親、薄田隼人守兼相、後藤又兵衛基次。茨田七手組番頭には伊藤丹後守、早水甲斐守いずれも持ち口持ち口を間配ったりしが、今や遅しと相待ったるところへ、関東方の同勢五万三千余騎、辰の一点より城中めがけて押し寄せたりしが、なかにも先手の大将その日の出で立ち見てやれば、黒皮縅の大鎧には白檀磨きの籠手臑当て、鹿の角前立て打ったる五枚錣の兜を猪首に着なし、駒は名にし負う嵐鹿毛と名づけたる名馬には金覆輪の鞍をかけ、ゆ~ら~りがっしとうち跨り、駒のおもてには…

■講釈聞きこんでどないすんねん。

●うまいなぁ!

■感心してる場合かアホ。アレせんかいな。

●え?アレちゅうと?

■唐辛子くすべなあかん。

●もう今日はやめとこか?最後までゆっくり聞かせてもらおか?

■アホなこと...!今やないか。

●よーし、いまに犬糞の恨みを…晴らす...

まぁ皆さん方も嘘やとお思いでしたらお試しになるとわかります。この煙が鼻に入りますと、そら悪悪いくっしゃみが出るん。講釈師こそ暗剣殺に向こうたようなもんで。

▼駒のおもてには三十八貫、三十八壷打ったる金撮棒を軽々...へ~っくしょい!こら、ご無礼を致しました。もう大丈夫。三十八貫、三十八壷打ったる金撮棒を軽々と引っ提げ、黒白二段の手綱をかいぐりあ~た~か~も~砂煙を立てて城中めがけて...へっくしょい!へっくしょい!こら、度々ご無礼を致します。輩も風邪をひいたと見えます。皆さん方もお気を付けくだされ。今年の風邪はひくとひつこうて、なかなか治りにくい。ええ加減なことを言うておる。

▼ハイヤ~トウトウトウトウ...ウェエエエエイ...と押し寄せたりしが、大手の門前にひらかざまに突っ立ち上り、天地も割るる大音声。やぁ~やぁ~遠からん者は音にも聞け、近くば寄って、へっくしょい!近くば寄って目にも候え、我こそは駿遠三、三か国にさる者ありと知られたる...本多平八郎鬼忠勝が一子同名忠朝は我ことなり。我と思わん者はいざ来りて尋常に...へっくしょい!勝負勝負とへっくしょい!へっくしょい!呼ばわったりと...へっくしょい!へっくしょい!へっくしょい!あ~こら講釈がさっぱりわやや...皆さん方半札と思いまするが、丸札を差し上げますで、どうぞ今夜のところはお引取りのほどを…

客はみな気の毒なちゅうて、どやどやと帰ってしまいます。

■さぁここで言うたんねん。こら!講釈師、粥杓子、おたまじゃくし!おどれはお粥も掬えん粥杓子やな!今日はおどれのくっしゃみ聞きに来たんちゃうわいアホ。講釈聞きに来たんじゃ。前におる者見てみ、おどれの痰や唾で顔中ずるずるじゃ。こんなん喰らえカーッ、ペッ!お前もやったれ。

●やったらいでか!ほんまにほんまに...ほんまに、おっさん!

■おっさんってなんやねん?

●ほんまに!ほんまに...今日はお前の講釈聞きに来たんちゃうわい、くっしゃみ聞きに来たんや。

■そらあべこべやがな。

●あべこべやほんま...ほんま...花屋のおもやん話破談犬糞…

■お前何をごちゃごちゃ言うてんねん。

●こんなん喰らえペッ!

■お前子供かい...出で来い。どやうまいこと行ったやろ?

●うまいこと行ったな。はっはっはっ...オケラ、毛虫、げ~じ、蚊に、ぼぉふり、蝉、かわず。やんまちょ~ちょに、きりぎりす~に、は~たはた、ぶんぶの背中はピ~カピカッ。

■けったいな歌歌いな!アホやな…

▼あいや、そこへお行きのご両人。ほかの客さん方は気の毒なちゅうて黙ってお帰りくださったのに、ああた方はごちゃごちゃと…なんぞ私に故障でもあるのですか?

●胡椒がないさかい唐辛子くすべたんや。

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