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落語聞き覚えメモ『七度狐』@笑福亭仁鶴

清八(以下■)おやっさん!おやっさん!なんじゃ、このー、擂り鉢に入ったあるのはイカの木の芽あえと違うかぇ?
煮売屋の主人(以下▲)そうじゃ。
■そうじゃ、って...なんでこんなええもんがあるのに初めに言うてくれへんのや?しょ~もないのんで飲んでんねや。これでもっぺん飲み直そう。二人前分けて。
▲はぁ、そら堪忍しとくれ。商売もんやないのじゃ。いやいや、こないだ村で揉め事があって今夜その仲直りの寄り合いがあんのんで、その席に持っていこうと思って別にこしらえたもんやさかい。
■そんなこと言わんと。これは魚とかいうねやったら一人に一匹ずつてなもんで数を誤魔化すわけにはいかんやろけど、こんなもん盛り付け方でどないでもなんねや。ちょっと二人前分けて。
▲あかん。
■ほたら...一人前。
▲あかん。
■ほたら...半人前
▲あかん。
■ほたら...
▲あかん。
■なにを言うてんねや。もうええわ。銭払ろとこ。なんぼや?そうか、ほなここ置いとくで。
▲へぇおおきにありがとうさんで。
■それからな、おやっさん。わしら飯食うた後に急にどおっと走り出す癖があるけど妙に思わんといてや。
▲けったいな癖があんねやなぁ。まぁ走ろうが寝ころぼうが勘定が済んだあんねん好きなようにしたらええわい。
■おやっさん、裏になんぞ生臭いもんでも置いてあんのと違うか?
▲ああ、あら棒鱈が水に浸けてあんのじゃ。
■ああそれやな?いま犬がスーっと裏へ走りよったで?
▲ええ?犬が?そらえらいこっちゃ。
■行こう。尻絡げせぇ。わいについて走れ。ヤ、ドッコイサノサ!さぁはよ来いはよ来いはよ来いはよ来い、早いこと来いよ~。
喜六(以下●)おい、ちょっと待ておい、飯食うなり走らすてな...おい、ちょっと待ってぇ...無茶しないなお前、飯食うなり急に走らすさかい横腹が痛ぅなってきたがな。
■ぼやきなぼやきな。ちょっとこの傘の下見てみ?
●あ!こら今の擂り鉢やないか?
■ああ、おやっさんがあまりせちべんなこと抜かすさかい誤魔化してきたんや。
●ええ?これどないすんねん?
■食うたらええが。
●箸は?
■箸みたいなんはいらん。みなこんなん手掴みでやんねん。ん~...なかなか、あぁこらいける。お前もやってみ。
●ああそうか。へぇ~、んなけったいなこと言うなぁと思てる間に擂り鉢を持って逃げるやなんて。あ、こら美味い。大阪出てからこんな美味いもん食うたの初めてやな。旅先でこういう別誂いのものが食えるなんていうのは。うんうん、こらなかなかしかしこれからもう...
■お前やかましいなぁもう。食べるとかしゃべるとかどっちか一つにせぇ。
●いやぁこらほんまに美味いな。あぁべろべろ。
■んなあほなことしないな。擂り鉢舐めたら舌切れてしまうで。
●これどないしょ?
■そこら放っといて足がついたらいかん。
●この擂り鉢に足が生えんのん?
■そうやない、そこら放っといておやっさん見つけよったらうるさいさかい、どっか遠いとこ放ってしまい。
●んん、ひい、ふの、それ~!
と放りました擂り鉢が、草むらで寝ておった狐の頭へカツーンと。むくむくっと起き上がった狐。
(狐)悪い奴なぁ~~~!おのれ~憎いは~二人の旅人~よくも~稲荷の~遣わしたる~狐に~かかる物を~投げつけよったな~おのれ~どうするか~今に見よ!
くるっと姿を消してしまいます。
●清やん何考えてんねん?
■え?急にあんなところに川が出てきたやろ。前来たときはあんなところに川みたいなんなかったように思うけどなぁ。下にも上にも橋がないし辺りの様子がおかしい。おい、お前いっぺん石放り込んでみ。
●なんでそんなことすんねん?
■石放り込んでドボンちゅうたら深いねん。チャブンちゅうたら浅いねん。いっぺん放り込んでみ。
●うん。
■ドブンかチャブンか
●音せぇへん。
■音せんことあるかいな!どんな石放り込んだんや?
●こんな、砂。
■砂みたいなのあかんがな。そこらにあるやろ。
●そぉれ!バサバサ...
■ドブンかチャブンか。
●バサバサっちゅうたで?
■バサバサてなことがあるかいな。そかてバサバサ...そぉれバサバサ...こらあかんわ。なんぼ投げてもバサバサバサバサちゅうわ。こらやっぱりなぁ、麦畑の上に水が溜まったあるさかいバサバサバサバサ言うねん。これやったら歩いて渡れるけどもな、着物を濡らしたらあかんさかい、いっぺんお前もわいがするように着物を脱いでな、こうして四つに畳んで、帯でこう胴括りにしてな、でここへ手拭いを通して頭の上へ乗せてな。で、そこへ竹が落ちたあるやろ?二本拾うてな、こっち回れ。貸せ貸せ、そうそう。この竹にこうグッと掴まってるさかい、お前も後ろで竹を掴んでぇよ。
●清やん、なんでこんなおもろい恰好すんねん?
■麦畑のこっちゃ。野井戸かなんかあって嵌ったらえらいこっちゃろ?わいが先に足で探り探り入って行くさかい、お前後ろから深いか?浅いか?って聞いてくんねん。んでわいが浅いぞちゅうたら竹をしゅうっと前へ出す。その代わり深いぞちゅうたらバッと曳かなあかんで?
●うん。
■わかったか?
●わかったわかった。深いぞちゅうたら突き出したらええねん。
■死んでまうわアホ。わかってんのか?
●わかってるがな!せやけどなんやなぁ、清やん。裸でこんな恰好したらまるで絵で見た大井川の川渡りみたいななぁ。
■ほんに。川幅も広いし、大井川みたいななぁ。や!大井川!
●♪ふかーいーか?あさーいーか?
■♪あさーいーぞ、あさーいーぞ!
●♪ふかーいーか?あさーいーか?
■♪あさーいーぞ、あさーいーぞ!
●♪ふかーいーか?あさーいーか?
(村人)田の主のやーい、ちょっと見てみろや。お前とこの麦畑、旅人二人裸になってバサバサバサバサ歩き回っとるぞあれ。
(田の主、以下▼)ほんに、かなんなぁ。あない畑荒らされたら。あら狐に騙されとんねん。こら!!
●♪ふかーいーか?あさーいーか?
▼なにを言うとんねんお前。
■あ、ここのあった川はどこに行きました?
▼そんなもんはじめからあらへんがな。お前ら狐に騙されとんねん。
●さよか。
▼さよかって...お前、このあたりでいっぺん仇したら七へん騙して返す七度狐ちゅう悪い奴がおるさかい、気ぃ付けなあかんで!
■おお、そらいかん。
▼そらいかんって、いまさら眉毛に唾つけても遅いわ。街道はこの道まっすぐや。早いこと行きなはれ!気ぃ付けて!
●■おおきにどうもすんまへん。
●うわぁ...麦畑でおっさん二人が深いか浅いか...こらちゃりやがな。
■騙されてんのん知らんやないかいな。早いこと行こ。おい、お前こんなところでぼーっとしてまたどないしたんや?
●いや、街道はこの道まっすぐじゃちゅわれてさよか、言うてきたけどこれ、見ても街道に出るように思えんねやが。
■まぁええわ。足に任せて行こか。
気楽なやつでさらに行ってまいりますと、道幅が狭ぅになって勾配がついてまります。右のほうは高ぁい山、左のほうは深ぁい谷、間に細ぉい道が続いております。日もずんぶり暮れた山道を、二人並んでとぼーとぼ...
■さぁ出といで。
●清やん
■なんじゃい?
●日が暮れてきたで。
■そやなぁ。
●そやなぁって、いま昼飯食うたとこやがな。なんでこんな早いこと暮れんねん。
■暮れんねんって、暮れたもんはしゃぁないやないか。
●しゃぁないちゅうたかって...これからどないなんねん?
■まぁ野宿やな。
●ええ!?
■野宿覚悟しい。
●野宿ってなんや?
■野で寝るさかい野宿や。
●はぁ~、ほんなら山で寝たら「山宿」てなもんやな?
■まぁまぁ、そんなもんや。
●鳥はみな「枝宿」やな、市場で寝たら「いちじく」...
■お前何をごちゃごちゃ言うとんねん、早いこと歩き。
●歩きちゅうたかって...こんなとこ歩いてて何も出ぇへんか?
■出ぇへんけど、出たところで亀ぐらいなもんや。
●こんな山ん中に亀が出んのん?
■頭に「尾」のついた亀や。
●けったいな亀やなぁそれは!?こんなところから尾が生えたある。
■そうやないがな。「かめ」に「お」を付けてみぃな。
●「おかめ」。おかめはんゆうたら別嬪か?
■何を言うとんねんアホ。「お」を引っ張って「かめ」付けてみぃ。
●「お~かめ」...ああ怖わ!!わい狼嫌い!
■誰かて嫌いやがな。
●断って!
■断っても出てくるわいな。
●狼が出たかて「狼が出た!」てなことを言わんといてや。わいいっぺんに腰抜かしてしまうさかい。「狼が出~~~~」と突っ張っといてや。
■どないなんねん?
●その間にわいが木に登って隠れた時分に「た!」
■わいが喰われてしまうわアホ。ごちゃごちゃ怖がらいでもええがな。ほれ見てみ?
●何を?
■何をやあらへん、捨てる神ありゃ拾う神とはよぉ言うた。なぁ、向こうに灯りが見えるやろ?ちょっとわしの手の先見てみ?
●ええ?
■手の先見んねや。
●手の先ねぇ...太い指やなぁ。
■指の先。
●爪が伸びてる。
■爪の先。
●垢が...
■何をごちゃごちゃと...この方角見んねん、向こうに灯りが見えるやろ?頼んで一晩泊めてもらお。こんばんは!ちょっとお開け!こんばんは!
(尼僧△)はいどなた...
■え~伊勢参りの旅の者でやすが、道中宿を取り損ないまして、踏み迷うて難渋いたしておりますのんで、今夜一晩泊めていただきたいと思いまして...
△そらまぁせっかく辿って来なさって気の毒やが、当庵寺は尼寺でございますので、殿たちをお泊めするというわけにはまいりませんのでな。下の村の庄屋さんのところへでも行ってお頼みになっては?
■いや、それは下の村も上の村も足が一歩も前に進みまへんので、お宅の庭の隅でも軒下でも...
△まぁさよか...いまも申し上げましたとおり、男のお方をお泊めするというわけにはまいりませんが、本堂でお通夜をなさるというのなら、一晩ぐらいは雨露を凌げますでのう。
■ああさよか、ほなひとつよろしゅうお願いします。
●おい、いま何言うたはんねん?
■いや、ここはね、尼寺やさかい男は泊めるわけにはいかんけども、一晩お通夜するねやったら泊ってもええちゅうたはんねん。
●お通夜したらええのん?
■そうや。
●わいさしてもらおうかの...「お通夜はん」って別嬪か?
■何を言うてんねん、一晩仏さんのお守りをするこっちゃ。
●それでは何もならんがなー。ちょっとぐらい寝さしてもらわんと。
■表向きはお通夜やけど、ほんまは寝たかてかめへんのや。
●はぁ~、ほな表向きはお通夜で、裏向きが宿屋塾の布団の中敷きみたいなもんで。
■まぁそんなもんや。よろしゅうお願いいたします。
△どうそ足袋脱いで草鞋脱いでこっちお上がりを。
●おい清やん、やっぱり泊るのやめとこ。
■なんで?
●いま尼はん難しいこと言うたはんねん、足袋脱いで草鞋脱げやなんて...草鞋脱いでからやないと足袋脱げんて。
■屁理屈を言わんでな、お上がり!えらいまぁ突然にご無理なお願いをいたしまして。
△いやいや。え~、お二人とも空腹やございませんかな?
●いえ、泊めてもらうのに何も不服はおまへんので。
■不服やない、空腹。お腹は空いたはりゃしませんか?と。はぁ、それやったら最前から日怠う思とりますのんで。
△まぁ山寺のことで何もございませんが、雑炊なぞは。
■雑炊!わたいらものすごぅ好きでんねん至ってな。
●へぇそうでんねん、牡蠣雑炊やら栗雑炊やらいうてな。
△そんな贅沢なもんはありゃしませんが山寺のことで。べちょたれ雑炊とか...
●べちょたれ雑炊??あんまり聞いたことおまへんなそんな雑炊は。
△よかったらそこの鍋に炊いてございますので勝手によそうてお上がりを。
●ああさよか!そんなら遠慮なくちょうだいをいたします。うわ~ぎょうさん炊いたあるな。よそうといたるさかい早ぅ食べや。ほなまぁちょうだいをいたします。あのねぇ尼はん、口ん中ジャギジャギしたもん残んねんけど、これはなんでんねんやろ?
△味噌を切らしたんで山の赤土を入れたあります。
■赤土が入ってますねんけど、赤土ってなもんは食べられますか?
△そら体に精をつけますで。
■赤土で精つきまんのん...おもとやなこないなったら。もし?一寸ほどに切ったって、噛みしめると甘い汁が出まんねやが、この藁みたいなもん、こら一体なんでんねん?
△そら「藁みたいなもん」やない、藁でおます。
●言いようもあるもんや、藁でおますって。藁みたいなもん藁やって。
■笑わしよる。
●土食って藁食って左官放り込んでみいな?腹ん中で壁が塗れるやないか。
■ガーって笑いなアホ。うわっ、腹が赤ぅて足が白ぅてカエルみたいなのが出てきましたが?
△あぁ、出すのん忘れとりました。出汁取ろと思てイモリ入れたあります。
●■イモリ!?
■いやぁどうもおおきにごっつおさんで。
△おいしゅございましたかな?
■ええもぉむかつくほど美味い。
△大阪のお方には口に合いませんやろ、明日になったらまた麦飯でも炊いてしんぜますので今夜のところは...ところで、お泊り願うて直にこんなことを申し上げてなんでございますねが、お二人にちょっとお留守番をお願いしたいと思いまして。
●ええ...こんな寂しい山寺で留守番てなあんた、こんな時刻からどうしても出かけんならんてな用事がおまんのか?
△下の村にお小夜後家という金貸しのおばあさんが住んだはったんですけれども、このお方は貧乏な人に金を貸し付けては高い利を取って困らす因業なお人でしたんやが、今朝方ぽっくりお亡くなりになっておましてな。村の者が寄って夜伽をしてたんですが、貸した金に気が残ると見えて、またしても棺桶の蓋を撥ね退けて、「金返せ、金返せ」と出てきて困るということで、悪い人でも死にゃ仏、これから行ってありがたぁいお経唱えて成仏さしたげようと思いまして。
●ちょっと待っとくなはれあんた、怖い話やなぁ。なんとか夜伽の日延べちゅうわけにはまいりまへんやろか?
△そんなことはできませんが、このお寺も宵の口はこうして静かなんですがな、夜中になりますと、そら賑やかになります...
■(けったいな寺やなぁ...)宵の口は静かで夜中に賑やかになりまんの?そら庵主さんが綺麗なさかい村の者が遊びに来たり、肩入れに来たりしまんねやろ?
△まぁそんなことはございませんが、真夜中過ぎになると...墓から骸骨やみなが出てまいりましてな、がちゃがちゃと相撲をとったりやなんかいたしますのがそら賑やかで。
●何を言いなはんねんそりゃあんた!?わたいら骸骨の相撲やらみな嫌いでんねん。
△まぁ~...本堂の真裏手が新仏のお墓でございまして、これは下の村のお庄屋さんの娘さんでして、よその村へ縁付かはって直にお亡くなりになってでおましてな。お腹にお子があったんを、そのまま土へ埋め込んだところが...土の温気で稚児がお墓の中で...稚児が生まれたような...
●やめとくなはれそんなん!
△まぁお聞きやす。雨のしとしと降る晩なぞは、稚児に雨を当ててはいかんてなもんで、そこの廊下に灯りがぼうっと射しますと、障子に髪の毛がさらさらさら...稚児をこう抱かはって、♪ねんね~ん、よ~~~...ね~やれ~や~~~...とあやして歩かはる。そら、ほんに情があって...
●なにが情おまんねん!もう~、そんなねんねんわたいら好きやおまへんねがな。
△それもこのお燈明の灯りさえ消さなんだら怪しい魔性の者など出やいたしまへんので。ほな、ちょっと行って参じますので、よろしゅうお願いします...
●行ったらあかん!待った!庵主さん!おい、行ってもうたで。
■行ってももうたらしょうがないやないかお前。度胸据え。
●度胸てなもんは据えて座るもんやないやないか。
■心細いこと抜かすな。いま尼はん言うたはったやろ?お燈明の灯りさえ消さなんだら、怪しい魔性の者は出えへんって。お前いっぺん見てこい。
●何を?
■油が切れてないかどうか見といで。
●(はぁ、せやせやせや...これが切れたらえらいこっちゃ...)おい清やん、もう油なんぼもないで?
■そらいかんがな。そこらに油徳利ないか?
●油徳利ちゅうたかって、薄暗いところで...あぁ、あったあったあった。この油徳利ちゅうのは、口がにちゃにちゃしとるさかいどんならん...早いことこれを注さんことには...じゅじゅじゅうじゅうじゅうじゅう...ぱちぱち、じゅうじゅうじゅう...ぱちぱち。清やん。
■なんや?
●油注したら灯が消えたり着いたりする。
■そんなけっいたいなことがあるかいな。塩梅見てみ?
●塩梅見てみちゅうたかて...あ、こら醤油や。
■アホかお前は。油と醤油間違えてどないすんねや。
●あ、消えた...着いた....消えた...着いた...真っ暗になった...
♪ねんね~ん、よ~~~
●うわぁ!!出た!!
■今のはわいや。
わぁわぁ言うておりますと、麓のほうから大勢の人数がひとかたまり。なんやら重たそうなものを担いでこっちへ上がってまいります。
(下の村人たち、以下×)や!行け行け~!さぁ早いこと歩けよお前な。提灯で足元照らせ足元をな。もっと前へもってこい提灯を。よし。ちょっと庵主はん!ちょっと庵主はん!
■へぇへぇへぇへぇ、いま尼はん小夜後家とかなんとかちゅう人のところへ行きはりましたが?
×ああ~さよかぁ。いや~いまみな言うて夜伽してたんですがな、この婆が貸した金に気が残ると見えて、またしても棺桶の蓋撥ね退けてな、「金返せ、金返せ」言うてしょうおまへんのでな。まぁ一晩早いけど、お寺のほうヘな、放り込んどいたほうがええやろとな、ここへ持って来てまんねんけどな。預かってもらえまへんか?
●あかんあかんあかん、こっちにはもう「ねんねん」はぎょうさんいてんねんやさかい、持って帰ってちゅうてんのに...置いて行きよった。
■置いていったらしゃぁない。部屋の隅にやっとけ。
ふたりがガタガタガタガタ震えております。生温い風が吹いてきたと思いますと、部屋の隅に置いたありました棺桶がミチっ、ミチっ、ミチミチミチミチ...掛けてあった縄がバラりと外れたかと思いますと、棺桶の蓋がポーン!中から老いさらばえたる老婆が瘦せ細った腕をそれへ指してズーっ。
(小夜後家、以下〇)金返せ~...金~返せ~...
●■わたいらお金借った者やおまへんねん、伊勢参りの旅の者でおます、旅の者でおます。
〇旅の者~顔を見せぃ~...顔を~見せぃ...
●よう見せんよう見せん、
〇見せなばそこへ行く...
●見せる見せる見せる、こんな顔ですが、よぉ見とくなはれ。
〇旅の者...伊勢音頭を唄え...伊勢音頭を~唄え~...
●よぉ唄わんよぉ唄わん。
〇唄わんかぁ~
●唄う唄う唄う。
●■♪お伊勢~七度、熊野にゃ三度~
〇♪よいよ~い
●■♪やぁとこせ~よぉいやなぁ~
(村人)田の主のやーい、さっきの旅人今度は石地蔵の前で伊勢音頭踊っとるわ。
▼また狐に騙されとんのや。こら!しっかりせんかい!
●■やぁとこせ~
▼アホかお前らはホンマに。ほら見てみ、あんなとこで狐が筵持って立っとるやないか!捕まえ!
●■こら!こら!こら!こら!
▼ほら、畑へ逃げ込んだ!
●よぉし、尾っぽを捕まえた!
人間は引こうとする、狐は逃げようとする、双方の力が合いましたところでズボン!
●あ!尾が抜けた!
と、見てみますと、畑の大根抜いておりました。

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