9.幽霊になった君とまたキスをする
この曲自体の世界観は小説とミュージックビデオで全て出し切った。
だからもっと深くこの曲を愛してもらえる記事にしたい。贅沢を言うなら僕と同じ熱量でこの曲を愛して欲しい。
映像化する中で最も困難を極めたのがこの作品だった。
ドラマというか映画を作る気持ちで挑んだ。
脚本を4ヶ月かけて書いて、白紙に戻してはまた書いた。
大阪城音楽堂でのライブの確か2週間前くらいから取りかかり始めていた。
こんな作品、自画自賛ではないが本来1アーティストがやるべきものじゃない。
専門の人たちに任せるべき作品だ。
でもこだわりたかった。
監督も脚本も、キャスティングも、撮影場所選びもメイク・ヘアのイメージ共有も全部やった。
膨大な俳優・女優・モデルの中から、納得のいくまでイメージに該当する人を選び抜いて各事務所にオファーをかけた。
全員が快く引き受けてくれた。
はっきり言ってこの作品に出ている人たちなんて、僕らのバンドより遥か上のところにいるような面々だ。
だから未だになんで引き受けてくれたのか分からないけれど、本当に嬉しかった。
朝6時、東京のとあるドラマ用の撮影ビルを貸し切って覚悟を決めて僕は指揮を取る準備をした。
実はこの映像の中の病院は2階、オフィスは5階に入っていて1棟のビルに収められている専用の撮影スタジオだ。
顔合わせを済ませてすぐに撮影に挑んだ。
そこでまず驚いた。
当たり前なのは当たり前なのだが、全員キャストがプロだった。
セリフの細かい部分の最終確認で「監督、ここのセリフは読み込んだ感じ○○みたいに変えるのはいかがでしょう?」と意見をたくさん出してくれた。
僕は作品像がイメージ出来ても、そのセリフを咀嚼して心の中にインプットさせて吐き出すことは出来ない。
分からない。なんて誰ひとり通用しない世界の中で、キャパが溢れ返りそうな脳を必死にフル回転しながら撮影を進めていった。
あまりにもキャストの演技力が凄すぎて、間近で撮影をしていると恐怖が時に宿る。
彼らは役に入り込んでいるのではなかった。
この作品の中の住人だった。
だから本当に蓮は死んで、結菜は悲しさに潰れていた。川島医師は後悔の念に苛まれ、上野看護師は持てる力を常に出し続けていた。
指揮を取るどころか、その世界を間近で見学している気持ちだった。
この撮影からPortoneonのチームに新たに加わってくれたヘアスタイリストとメイクの千葉夫妻も、止めどなく時系列に対して変わっていく髪型のセットやメイクアップにギリギリまでタイムトライアルしながらこの日を迎えてくれた。
撮影はなんと巻き(早めに)で終わった。
理由は簡単。
僕らがタイムテーブルで想定したよりも、キャスト・ヘア・メイクそれぞれが完璧にやるべきことをこなしてくれたからだ。
一流のプロたちと仕事ができたことはとても大きかった。
その場で取り残された気がするほど、ひとり残らず用意周到だった。
やるならとことん僕より上の人たちと作品を作っていきたいという新しい発見になった。
僕みたいな少し毛の生えた程度の作家に、曇りなく監督と呼べる彼らの器の大きさもまた一線を生きる人間の深みが出ていた。
勉強をさせてもらった作品だ。
ぜひ、小説から読んでほしい。
そして最終話のミュージックビデオまで観てこの作品のすごさを知ってほしい。
わがままを通すなら友達にもオススメしてほしい。
コロナウイルスで家で暇な知人にこの作品を、もっと教えてあげてほしい。
僕にはそれでもあなたに恥ずかしい思いをさせない自信がある。
音を超えて、視覚になってある意味現時点での僕の最上級の芸術の名刺がこれだ。
最高のキャストと裏方の皆で作り上げた。
生きている間にこの作品を作り上げることができて、そして知ってくれたあなたがいることがどうにも誇らしい。
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