見出し画像

土曜夜11時の真実

その時私は、『エンタの神様』をナハハハと笑いながら見ていた。

そろそろエンタも終わりの時間だ…
はなわが埼玉をダサいダサいとDisる曲を歌っているのがその証拠だ(犬井ヒロシだったかもしれない)。

母が仕事から帰ってきた。
土曜・日曜は、飲食店のパートに夜も出ているのだ。
だいたい、店で出される「まかない」を手からぶら下げている。
食べ盛りで食い意地が張っている私のために、わざわざ持ち帰ってくれるのだ。
明日(日曜)のお昼ご飯にしなさいと母は言うが、土曜の深夜に我慢できるわけがない。
有無を言わさず私はがっついていた。

そんな感じで「まかない(ほぼ麻婆チャーハンだった)」を頬張りながら、エンタが終わった後の番組をぼーっと見ていた。
その番組の内容には、全くと言っていいほど興味はなかった。
だが母がよく見ていたので、そのまま眺めていた。

ただ、その番組のオープニング曲はよく覚えている。
流れていたのはほんの10秒くらいだったと思うが、何度も聞いているので、自然と脳裏に焼き付いていた。
というか私と同年代か、それ以上の年代の方はほぼほぼ100%聞いたことのある曲なのではないだろうか。

まず言っておくと、この番組は『恋のから騒ぎ』である。
言わずと知れた、さんまちゃん司会の番組。
まだ放送していると思っていたが、10年以上前に終わっていた。

そしてオープニング曲といえば、この曲だ。

この曲の冒頭部分については、みなさん『恋のから騒ぎ』でいやっちゅーほど聞いているだろう。

そもそもこの曲はどういう曲なのか?
冒頭部分以外を聴いたのは初めて、という方も多いかと思うが、
これは、幽霊が昔の恋人に窓を開けて!とアピールしている曲である。

えっホラーか?
それが違うんだな…
これは、とある物語の強烈な愛の場面を切り取った、屈指の名曲なのである…

つまり何が言いたいかというと、私は『嵐が丘(1939年)』とかいう昔の白黒映画を観たのだ!

朝、ふと早起きした私は、『嵐が丘』のWikipediaを貪るように読んでいた。
なぜかは忘れたが、『嵐が丘』がどういう物語なのか知りたくなったのだ。
Wikipediaには内容のすべての要約が書いてあった。
ネタバレも何もあったもんじゃない。
しかし私は隅々まで読んだ。

原作は1847年に刊行されたイギリスの小説。
作者は女性作家のエミリー・ブロンテ。
29歳の時に発表されたデビュー作だが、作者は翌年には亡くなってしまう。
なので小説としては、これが唯一の作品となる。
しかも発表当初はその不道徳な内容、構成の複雑さから酷評されたらしい。
だが今や世界十代小説のひとつとして数えられているのだからおもしろい。

そんな原作をもとにしたこの映画。
内容はだいぶ省略されてはいるが、ある男の苛烈な復讐劇、そして肉体を超えた強烈な愛は、昔の作品といえど真に迫るものがあった。

肉体を超えた愛ってなんだ…?
そう、主人公の想い人、ヒロインのキャシーは、死してなお主人公を愛していたのだ。
幽霊となって主人公の家(嵐が丘)を訪れるほどに…!

しかしキャシーは生前、わりとお転婆というか正直やりたい放題だった。
すれ違いがあったとはいえ、主人公という人間がありながら、上流階級に憧れ、いいとこのぼっちゃんと結婚してしまうのだ。
だけどやっぱり心の底では主人公を愛しており、今わの際(きわ)では旦那を忘れ主人公に縋っていた。
現在なら炎上しそうなヒロイン像である。

そしてとある猛吹雪の夜。
死して幽霊となったキャシーは、主人公の家の窓を叩いていた。

「ヒースクリフ(主人公)! あたしよ、キャシーよ! 外は寒いの、窓を開けて!」

なんだなんだ? キャシーって誰?
たまたまその日、その部屋に泊まっていた男はひどく驚いた。
男は窓の外に手を伸ばす。
するとそこには、冷たくなった女の腕が…

男は夜中にめちゃくちゃ騒ぎ出す
男の話を聞いて驚いた主人公は、吹雪にもかかわらず、家の外へ飛び出した!
そう、主人公はキャシーが幽霊になって戻ってくることを願っていたのだ!
そして二人(主人公と幽霊)は思い出の地、荒野のお城(実際はただの岩)へ向かう…

そんな物語に感銘を受けた若きシンガー、ケイト・ブッシュ(19歳)は、二人についての曲を作った。
そう、それが『恋のから騒ぎ』で使われた名曲、『嵐が丘』なのだ。
しかもデビューシングル

麻婆チャーハンを食べながら何気なく聞いていたあの曲の裏には、こんな物語があったのか…
何かと何かが繋がった感覚がして、私は謎の感銘を覚えた。

そう、これが土曜夜11時の真実…

終わり。


この記事が参加している募集

私のプレイリスト

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?