親友の恋 《作戦会議》

「へい!おまちっ」
ダンラークの定食屋、夜の人気定食はデデン肉の丸焼き定食だ。ボリュームはかなりあるが、値段は500グラスとかなり安い。実際、質の良い肉を他で食べようとすれば、1,000〜1,200グラスはする。
「うん、まあ、腹は満たされるかな」
「だろ?ちょっと話すくらいなら、ココがやっぱり一番だぜ」
肉を頬張りながら、ローが言った。確かに夕食としては少し豪快過ぎて、まるで肉体労働後の昼食のようだったが、周りを気にせず話せるという点では最適だった。
「で?話というのは、また彼女かい?」
「ぐむっ」
ジルの問い掛けに、口に入れたパンでローがゴホゴホとむせた。
「くっ、ジルは本当、ズバリ言ってくるな。そうだよ、なあ!どうしたら良いかなあ?」
ふっと薄く微笑んで、ジルは肉をちいさく切って口に運んだ。安い定食屋とは思えない、気品がジルには備わっていた。
「前回話したのは、なんだったかな。ああ、そうだ。彼女に挨拶をしてみる、だったな。どうだったんだい?」
「いや、そう、したよ!確かに、挨拶はした!した……ん、だ、が……」
そこまで話して、ローは口をくっと紡いで黙ってしまった。よく見れば、顔は耳まで真っ赤になっていた。
「どうしたんだい?」
覗き込むように問い掛けたジルに、吠え掛かるようにローが叫んだ。
「無視されたんだよぅ!!」
一瞬しんとなって、周囲の目線が彼らに集まった。が、すぐにその注目は消え失せ、辺りにまた酒を酌み交わす人の笑い声が響き始めた。
「……声が大きいよ、ロー。しかし気のせいじゃないのかい?だって、君の話では彼女は優しい子なんだろ?」
「ああ…、悪い。そう、そうなんだよ。彼女は優しい、優しいんだ!あの日羽根を痛めて巣から落ちたカッコ鳥を拾って、羽根に自分のハンカチを巻いて戻していた……。そう!そんな優しさ溢れる女性なんだよ!彼女は!」
先程みたいな大声ではないが、まだ興奮の冷めないローの様子に、ジルはいつも通り苦笑いで返した。
「そうか、で、具体的にはどうなんだい?今の二人の関係は、進んだの?」
「……むう、実は、その」
ローは神妙な顔をして黙り込み、じっとジルを見た。
「な、なんだよ」
「ジル!頼む!彼女に話し掛けてくれないかっ!」
「は?はあ?なんでボクが?」
まさかの頼み事に、ジルは珍しく表情を崩して戸惑いを見せた。
だが、彼を見つめ続ける親友の目は、変わらず真剣な眼差しだった。
「……」
水を一口、くっと飲み込んで自分を落ち着かせる。目を閉じて色々考えてみたが、ローの単純さはよく知っている。きっと、自分がどうきっかけを作れば良いのか、彼にはいま思考出来るだけの余裕が無いのだろう。
「…わかったよ」
その言葉に、ローが満面の笑みを見せた。
「ああ!ジル!ありがとう!やっぱりお前は頼れる友達だ!!」
叫びながら抱き着こうとしてきたローを、掌を広げて静止させた。
「ただし!あくまでボクはきっかけだ、後は君がなんとかするんだ。良いね?」
きっと鋭く睨んだジルに、ローもまた笑みを噛み殺して答えた。
「もちろんだ。任せとけ!!」

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