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ラテンのリズムで踊ったレディーたち(キュートで気丈なプジョー206CC)

世紀の変わり目、2000年ミレニアムを超えた頃である。フレンチコンパクトのオープンカーと共に、レディーたちとのランデブーストーリーが吹き抜けていった。

マシンはプジョー206CCだ。
日本でプジョー206は、フランス車としては、後にも先にもないほど異例のヒットを誇った。コスパの良さとスタイリッシュなハッチバックとして特に女性ドライバーから強い支持を集めていたように思える。一方でWRCといったラリーレースシーンでも大活躍していた車種でもある。
その206のオープンバージョンが206CCだ。CCとは「クーペ・カブリオレ」の略。 何と言っても、ルーフを開けた際のキュートでエレガントな姿と、閉めてはスポーティで端麗なクーペスタイルを見せてくれるのだから、益々、女性ウケもする訳だ。
ボタン一つで快適に開閉できる電動メタルルーフ採用は、ベンツのSLKくらいにしか見当たらない中で、このエントリークラスの車格には珍しく贅沢な仕様だ。静寂性と開放感の文字通り二役を一台で叶えてくれてコスパが良い車だ。
エンジンはパワフルとは言わないが170キロくらいの巡航はこなす。プジョーの足回りの素性の良さもありワインディングもそこそこ楽しめる。むろんオープン機構の重量分だけ十分に減速しないとアンダーステアの特性が出る場面はあるが、なにより、山道をオープンで走るのは心地がよい。

組み合わる時計はよく、ロレックスのヨットマスター16622をセットアップしていた。ヨットクルージングなどの場面での着用を意図した高級マリン系モデルだ。そのコンパクトでスポーティなデザインとエレガントさの同居が、206CCと重なるではないか。
時計ケースとブレスレットはステンレス素材だが、回転ベゼルはプラチナ製だ。他ロレックスのダイバー系モデルのベゼルカバーは樹脂かアルミ素材だが、ヨットマスターではプラチナをさらに梨地仕立てにし、独特な光沢を放って高級感を漂わしている。ロレックスはこの素材組み合わせを、ロレジウム(ROLESIUM)と名付けた。ロレックス+ステンレススチール(SS)+プラチナ(PLATINUM)に由来し、おりしも206CCの「クーペ・カブリオレ」名称を想起させる。

さて、週末の夜は時よりこの206CCとヨットマスターのセットアップで六本木のラテンダンスバーに繰り出した。 

こうしたダンスバーではレディー達は男性から踊りに誘われるのを待っており、知人か否かに関わらず、誘われたらよほど嫌でなければペア組んで一曲踊るというのが暗黙のルールだ。レディーを空中にスウィング・リフトさせるような派手な技が尊ばれる訳ではない。フロアを占有してしまうし、お互いに跳ねあがるタイミングや姿勢の固め方など分かっていないと難しいので、当然ながら初めての相手では困難である。むしろ俺はレディーたちをリズムに心地よく乗せ、より華麗に魅せるリードを心掛けていた。会話で親交深める間もなく、手を取りラテンの曲でリズミカルに二人の身体をシンクロさせる社交場だ。ペアダンスは曲が流れている間の疑似恋愛だと、しばし表現される。初めて踊る相手でも、組んだ感触とリズム感の同期具合で、その後の発展の可能性は肌感覚で分かるモノである。踊りで熱くなったボディをオープンカーで冷ますべくドライブへ舞台を移すのは、自然流れであった。
年下、同年代、少し歳上まで、幾人のレディーと夜のドライブをしたものだろうか。
コンパクトな206CCゆえにパッセンジャーシートとも近しいのまた良い。

ヨットマスターの夜光が終電もないであろう時間を指していた。
206CCのメタルルーフと眼を閉じてキスを交わし、場所を移してダンスの続きを楽しんだ。

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